米シンクタンク「Progressive Policy Institute」(PPI)が主催する公開シンポジウム、「モバイル通信政策 ~競争政策としての経済分析~」が開催されました。モデレーターは元榮太一郎・参議院議員、パネリストはPPIチーフ・エコノミック・ストラテジストのマイケル・マンデル氏に加え、公正取引委員会 事務総局経済取引局調整課長の塚田益徳氏、大阪大学 大学院 経済学研究科准教授の安田洋祐氏、A.T.カーニー パートナーの吉川尚宏氏。

  • モバイル通信政策 ~競争政策としての経済分析~

    PPIチーフ・エコノミック・ストラテジストのマイケル・マンデル氏

  • モバイル通信政策 ~競争政策としての経済分析~

    公正取引委員会 事務総局経済取引局調整課長の塚田益徳氏

今回のシンポジウムは、PPIの分析で日本の携帯電話料金が国際比較でも高止まりしており、「米国の携帯料金がこの2年で25%減少したのに対し、日本は10%しか下がっていない」(マンデル氏)という問題意識が背景にあります。

マンデル氏は、2016年以降総務省と公取委が携帯市場の競争促進に取り組んできたにもかかわらず、「効果を上げているとはいいがたい」と指摘し、それに対して楽天がMNO(携帯キャリア)として新規参入することが競争の活性化につながると期待を寄せます。

  • モバイル通信政策 ~競争政策としての経済分析~

    大阪大学大学院経済学研究科准教授の安田洋祐氏

  • モバイル通信政策 ~競争政策としての経済分析~

    A.T.カーニー パートナーの吉川尚宏氏

政府はこれまで、MNOが通信契約と端末をセットで販売する際に補助金を出し、端末を値引き販売する端末購入補助の仕組みにメスを入れてきました。しかし、楽天の新規参入において同様に端末購入補助を規制すると、既存キャリアから楽天へユーザーが乗り換えるインセンティブがなくなる……と、マンデル氏は指摘します。

  • モバイル通信政策 ~競争政策としての経済分析~

    さまざまな調整をした上で比較した、各国の通信料金比較。もっとも濃い色が日本で、米、OECD平均、韓国と比べても突出しています

MNOの中途解約金や2年縛りといった、自動更新付き契約に依存することがユーザーのキャリア乗り換えを難しくし、楽天の新規顧客獲得率を低下させ、ネットワーク設備投資に対する資金調達が困難に……という可能性も示したマンデル氏。MNO間競争の活性化のために、2点の施策が必要だと話します。

その一つは端末購入補助の増加によって競争を活性化させること、もう一つは2年縛りなどの期間拘束契約にMNOを誘導すること(詳細は下記)、だとしています。新規MNOが増えて3社から4社になると競争が活性化することは、「経済協力開発機構(OECD)レポートでも示されている」とマンデル氏。競争によって新しいイノベーションへの取り組みも活発化し、MNOの成長だけでなく、日本経済の成長にもつながると予測します。

公取委は、携帯契約全体の9割がMNOという状況で、3社の寡占状態で競争も十分活発とはいえないという立場から、独占禁止法に基づく問題に関して調査を実施してきました。

注目度の高いものとしては、アップルのiPhoneに関するケースが挙げられます。MNOとアップルが特別な契約を結んでいたことに対する調査が終了したのは、「独禁法違反に問うことが目的ではなく、自主的に事業者に対応してもらえればいい」(塚田氏)という観点で、すでに問題は解消したとしています。

キャリアの販売施策に関する公取委の立場

塚田氏が説明する公取委の立場は、通信と端末のセット販売、端末購入補助、キャッシュバックや端末の大幅割引、2年縛りなどの期間拘束契約そのものは、問題視していません。周波数割り当てを受けて圧倒的シェアを持ち、MNOのみしか手に入らない端末があるなどの有利な立場を背景に、優良誤認や囲い込みによって他事業者の参入が難しくなったり排除したり、といった点があれば問題である、というものです。

その上で、塚田氏は「契約解除料は最低限であることが望ましい」と指摘します。解除料がかからない契約更新期間を長くするという取り組みもありますが、その通知を「受けていない」「覚えていない」という声も多く、自動更新をともなう期間拘束契約は乗り換えを抑制しているとの考えを示します。

「一般論としては、違約金を発生しない期間を延長拡大するよりも、2年間が経過したあとは違約金が発生する期間がなく、いつでもプラン変更できるようにしたほうが独禁法上の問題は少なくなるのではないか」と塚田氏。

安田准教授も、「違約金は、ただいたずらにスイッチング(乗り換え)コストを増やすだけなので、やめたほうがいい」と指摘します。

塚田氏は、端末を割賦販売で購入した消費者が、支払いの中の期間に端末を乗り換えた場合にも言及。旧端末の下取りと契約の継続で残債を免除する仕組みも、「4年縛り」自体は問題ないものの、契約の離脱が難しく、端末を半額で販売するかのような誤認を招く点を問題視しています。

SIMロックも乗り換えを抑制する要因ですが、SIMロック自体はMNO側の都合でしかなく、要件に沿えば解除すべき、という点も塚田氏は強調しました。

「0円」端末は?

吉川氏は、端末補助金を出すことで端末代金がかからない0円端末について、「0円端末の禁止という政策が本当に良かったのか」と疑問を呈します。政府が強制するのは「再販価格の拘束になってしまう」ことが理由で、0円端末を禁止した結果を評価する必要があると指摘します。

0円端末の禁止など、総務省を中心とした取り組みの結果、MNO側は4年縛りのような契約プランを生み出しましたが、吉川氏は「4年縛りの問題は当局が引き金を引いてキャリアが対応した。これにもクレームがつくと、キャリアとしても一体どうすればいいのかといいたくなるのでは。政策の導入によるいたちごっこで、どっちの方向に行けばいいのか企業も迷っているのではないか」と話します。

公取委は、「端末購入補助は問題にしていない。問題視しているのは通信と端末のセット販売で大幅に割り引いた結果、競争者を排除する場合に独禁法上の問題があること」(塚田氏)という考えのようです。