ただ、日本産ワインには、もうひとつの潮流がある。それはメルローやカルベネ・ソーヴィニヨン、シラー、シャルドネといった欧州系ブドウ種を日本で育て、それを醸造して日本産ワインとする方向だ。

ただ、こうした欧州系ブドウは日本の高温多湿な気候での栽培が難しいとされてきた。以前、国立科学博物館で開催されたワイン展を見学したことがあるが、相当な紆余曲折の末、ワイン用ブドウに育て上げた経緯を垣間見た。また気候だけでなく、太平洋戦争といった国難も日本産ワイン醸造に影響を与えた。

明治時代からヴィンヤード(ブドウ農園)はあったが、本格的にワイン用ブドウ生産が軌道に乗るのは1980年頃からだと思う。古くからあるサントリー登美の丘や、メルシャン桔梗ヶ原といったヴィンヤードで収穫されたブドウから醸造したワインが、メキメキとブランド力を上げてきた。

そして2015年、国税庁によって「国産ぶどうのみを原料とし、日本国内で製造した果実酒」を「日本ワイン」とすると定義された。上記の条件を満たすワインには日本ワインの表示ができるようになった。そして食の多様化とともに日本ワインの人気は向上。おもに飲食店などで楽しむワインファンが増えた。

ブドウの収穫量向上がカギ

ただ、問題もある。それは、日本でのワイン用ブドウの生産力が脆弱なこと。前述したが文化遺産になった和食が海外でも楽しまれるようになった。当然、和食と日本ワインの組み合わせを求めるファンが海外にも増えたが、大々的に輸出するまでには至っていない。今は少しでもヴィンヤードの面積を増やし、数年後の収穫につなげるフェーズともいえる。

そうしたなか、メルシャンはボランティアやメディアを招待してブドウの植樹イベントを行った。場所は長野県上田市鞠子。ここは20ヘクタールの広さを誇る、メルシャンの主要ヴィンヤードだ。ヴィンヤードだけでなく、ワイナリーの建設も予定されており、日本ワインの生産力向上をねらう同社のシンボルともいえる。

  • 左上:浅間山が遠望できるパノラマ。右上:20ヘクタールの広大なヴィンヤード。左下:ヴィンヤードの一画にワイナリーができる予定。右下:ボランティアによる植樹の様子

筆者もこのイベントで、計4本のシラーの植樹を行った。何年後かに、自分が植えたブドウから醸造されたワインを飲めるかもしれないと思うと、感慨深いものがある。