六本木ヒルズで1300名の社員が働くグーグル。そのなかで製品開発本部長として働くのが徳生 裕人氏だ。音声アシスタント対応のスピーカー「Google Home」など、様々な記者会見にも登壇し、いまでは日本におけるグーグルの顔でもある。
【特集】Googleのお仕事。
スマートフォンを通して、多くのユーザーが Google のサービスを利用している。Google 検索はもちろん、Google マップや Gmail、果ては YouTube とさまざまな Google 製品が人々の生活に浸透しているはずだ。一方で、その製品を提供するグーグルの正体を知らぬ人も多い。アメリカのネット企業は日本で働いていない……なんてことはなく、もちろんさまざまなグーグル社員が、さまざまな職種で六本木ヒルズに居を構える日本法人で働いている。この特集では、その彼ら、彼女らが日本法人でどんな仕事を、どういうモチベーションで、どうやってこなしているのか、問うた。
しかし、徳生氏の仕事は何も日本に限ったことをしているわけではない。グーグルでは「日本だけ」というプロダクトが開発されることはあまりなく、ほとんどが「日本市場に向きつつ、グローバル展開を意識した製品」を開発することが求められるのだ。
グーグルだから体験できた「世界」
徳生氏はかつて、アメリカの YouTube で仕事をしていたことがある。
「アジア地域の責任者だったが、アジアのためだけのアイデアでは『グーグルにとってのバリューにならない』として企画が通らない。そこで、アジアで役立つし、世界に通用する企画として、YouTube のモバイル版や、字幕機能を開発した。YouTube には世界中のコンテンツがあるが、英語圏のモノが多い。それらに自動で音声を認識し、字幕をつける機能を提案・開発し、8年を経た現在では10億本もの動画に字幕がついていることが、今までで一番いい仕事としての記憶に残っている」(徳生氏)
今では、製品開発本部長として、日本の「グーグル合同会社」に籍を置いていることになる。仕事内容としては、日本を含む世界中のグーグルのオフィスで様々な製品の開発が行われている中、国内向けの検索プロダクト戦略を統括する立場にいる。
「検索を中心に、世界中のエンジニアと日本のために取り組む仕事が半分。もう半分は日本のエンジニアと、日本と関係ないモノを開発する仕事をしている。今では大きな組織ならではの面白さを感じる」(徳生氏)
徳生氏が入社した頃は、全社員数でも数十人しかいなかったが、現在の六本木ヒルズにあるグーグルオフィスには、エンジニアだけでも数百人が在籍している。昔に比べて組織が巨大化し、仕事が進めにくくなるのかと思いきや、実際はそんなことはないと徳生氏は語る。
「日本も大きなスケールになってきたが、すべての部署がひとつのビルに入っているのがいい。アメリカ・マウンテンビューのオフィスでは、仕事を進める相手で、場合によっては10軒ほどのビルに別れている。日本のオフィスは小さくもないが、全員の顔が見えるのがいい。いくつもの部署が関わっていても、意思決定がしやすいのが魅力」(徳生氏)
徳生氏がいちプロダクトマネージャーとして、心がけているのが一度は直接会って話を進めるということだ。グーグルと聞くと、すべてはメールとチャットとビデオ会議で仕事が進んでいくのかと思いきや、会うことを重視するとはちょっと意外だ。
「もちろん、ビデオチャットやメールじゃないとできない仕事もあるが、Face to Faceの方が、話が早いこともある。特に全く関係のないチームに助けを求めるときは、国内であれ海外であれ、できるだけ足を運んでいる。プロダクトマネージャーの仕事は多くの人に会わないといけない。限られた時間のなかで、足を運んでリーズナブル(話のわかる)なやつだと思われれば、あとはメールで済んでしまう。プロダクトマネージャーに限った話ではないが、各チームのなかで、個人の信頼を築く能力はとても大事だ」(徳生氏)
グーグルでも越えられない「壁」
徳生氏の仕事は、朝、自宅から始まる。
アメリカ・マウンテンビューの本社とのミーティングをするには、時差を考えるとこの時間帯が最適で、日本が朝8時ならば、アメリカ・西海岸は16時ということになる。
「朝は家からビデオ会議に参加して、通勤ラッシュを避けて昼ぐらいに出社している。夜も自宅で子どもを寝かしつけたあと、21時とか22時からマウンテンビューのチームが起きる前にメールを送るようにしている。日本と西海岸での会議であれば、朝の時間でなんとかなるが、相手が東海岸とか、西海岸とロンドンで同時になどのケースでは深夜1時になってしまう。とにかく時差を何とかしたい。誰か非同期のビデオ会議システムを作ってくれないものか」(徳生氏)
世界最先端を行くグーグルを持ってしても、地球の時差にはかなわないようす。もちろん、時差に悩まされるのはグーグルが世界中にオフィスを持っており、拠点間隔たりなく開発を行っているからだ。グーグルでは、日本で採用されたとしても、世界で働くことができるという。
「僕の場合は上からの異動辞令みたいな感じだったが、プロダクトマネージャーやエンジニアがアメリカで働きたいと思えば、社内の求人を探して、面接して、受かればいい。基本的には世界中のポスティングが明らかになっているので、スキルなどがマッチすれば移る自由はいくらでもある」(徳生氏)
実際に海外のグーグルオフィスにおいて、開発のキーポジションに日本人が携わっていることも多いと話す。一方で、「日本食が好き」「日本に住んでみたい」という外国人エンジニアが、日本に関わった仕事をしに、六本木ヒルズでのジョブを求めてくるケースもあるようだ。
「グーグルの社員証は世界中、どのオフィスにも入れる。どこのオフィスにどれくらい回ったかで、自慢できる機能もあるぐらい(笑)」(徳生氏)