外資系企業というと、どういうイメージをお持ちだろうか? 一般的には「高い報酬」を得られるのがメリットと捉えている方が多いのではないだろうか。ただし、経営陣は“ドライ”で、業績不振・業務上のミスのフォローがない印象も受ける。

では、本当にそうなのだろうか。日本に進出して32年目となる老舗の外資系企業、日本オラクルの従業員への対策を取材してみた。

日本オラクル フェロー(理事) 社員エンゲージメント室長 赤津恵美子氏

日本オラクル フェロー(理事) 社員エンゲージメント室長 赤津恵美子氏は、同社が働き方改革について多くの施策を行っていることを解説してくれた。

そのなかでも重視しているのが「社員の働きがい」を感じられるような環境をつくりあげること。そのシンボルとなるのが「ミッション85」というプロジェクトである。これは2020年に、社員の85%が満足できる企業風土を醸成するのが目標だ。

一般的に外資系企業の離職率は、3年でおよそ3割だといわれている。つまり、100人の社員を雇用したとして、3年のあいだに30人が会社を離れるということになる。単純な比較はできないが、“社員の85%が満足する”ということは、そうした一般的な離職率となる企業に比べ、不満を持つ社員が約半数という計算になるといえる。

赤津氏は、「企業は経営陣からの“トップダウン”で動くことが多い。“ボトムアップ”も増やしていくべき」と、同社が目指すやり方について前置きした。そのために取り組んだことは、社員が提案したアイデアに対して経営陣の“顔”を使ったり、予算を取ったりすること。つまり、アイデアがあっても、放っておいてはそれが実現する可能性は低いが、仲間同士を結びつけ、役員の支援を得て、必要があればお金も出すようにした。

結果、約60人がボランティアとして手をあげ、仕事の環境や職場のコミュニケーション改善についてのアイデアが寄せられた。しかも彼らは、自らの本業をこなしつつ、こうしたアイデアの実現に向け活動を行っているという。

また、ミッション85では、社員同士の“協働”や“つながり”を重視している。そうした交流の柱となるのが「キャリアストーリー」や「オープンキャンパス」といった企画だ。前者は「あの人のキャリアを聴きたい!」といった要望に対しイベントを開催し、“憧れの人”のトークに耳を傾ける。後者は“大人の文化祭”と位置づけられる催しで、普段は接点が少ない他部署の社員と交流できる。役員とも気軽にコミュニケーションできるそうだ。

充実したコミュニティと中途採用者への対応

そのほか、LGBTが対象の「OPEN (Oracle Pride Employee Network) Japan」や、女性のリーダーシップ育成のための「OWL」(Oracle Women’s Leadership)といったコミュニティが用意され、ダイバシティへの取り組みも積極的に行われている。

前出の赤津氏は、「コラボレーション(協業)がなければイノベーションは生まれにくいし、ずっと孤独にがんばるのは精神的にもきびしい」と話す。だが、以前の同社に足りなかったのは、そのコラボレーションだったらしい。こうした数々の取り組みにより、つながりを大切にした仕事環境が整ってきたのだという。

徹底しているなと感じたのは中途採用者への導入研修の手厚さだ。一般的に中途採用者は“キャリア”として雇用され、即戦力として期待される。乱暴ないい方をすると、右も左もわからないまま、仕事現場の“荒波”に放り込まれるようなものだ。ところがオラクルでは、中途採用者といえども、5週間の研修を用意する。これは結局「急がば回れ」という考え方で、業績に貢献するには、社風に慣れ、仕事内容を理解し、職場メンバーとの関係もできていなければ難しいということだ。