5Gや公共事業への強化を目論むNTTドコモ

一方のNTTドコモが参加したのには、自動運転に自社技術を取り入れることで、都市計画や公共交通などのビジネスにより大きく入り込む狙いが大きいのではないかと考えられる。

今回の実証実験でNTTドコモが果たす役割の1つは、道路に設置したカメラや、埋め込んだセンサーによって、自動運転車からは認識できない危険情報を通知することで、安全な運行を実現する「路車間協調技術」の構築、つまりハード面の取り組みだ。そしてもう1つは、バス内のサイネージに話しかけることで経路などを案内してくれる音声エージェントや、人工知能を活用して乗車数を予測し、最適なルートを選択する「運行管制技術」など、ソフト面の取り組みである。

前者の取り組みからは、NTTドコモが持つIoTに関連した技術を活用することで、自動運転に関するノウハウを蓄積したい狙いがあると見ることができそうだ。完全無人での自動運転を実現するには、車側の技術だけでなく、ネットワーク経由でのコントロールや、センサーを活用した自動運転に優しい都市全体の構築も求められる。そうしたことから自動運転が広く普及する将来を見据え、早い段階で自動運転に関わることで情報や知見を蓄積しておくことで、ネットワークを活用した公共ビジネスの拡大に生かしたい狙いがあるといえるだろう。

NTTドコモは路上に埋め込んだセンサーを活用し、道路の危険状況などをバスに伝えて安心を実現する「路車間協調」を手掛けるが、これはIoTの技術応用と見ることができる

特にNTTドコモは、2020年に次世代の通信方式「5G」による通信サービスを実現するべく取り組みを進めている。そして5Gは現在のLTEよりも遅延が少ないことから、それを活用して車同士が通信することで、互いの距離を調整する「車車間通信」など、自動運転に生かしやすいネットワーク技術が多く実現すると見られている。そうした5Gの時代に備えた地ならしの一環としても、自動運転に取り組む必要があったといえる。

一方でソフト面の取り組みからは、やはり人工知能や音声認識などといった、いま注目されている技術を積極的に取り入れつつ、実証実験でしか得られない情報を得ることで、その精度を高め実サービスに反映したい狙いがあると考えられる。こうした技術は「しゃべってコンシェル」など既存のサービスだけでなく、公共事業などでも生かせるものとなり得るだけに、今回の実証実験は社会インフラでの活用に向けた取り組みとしても、大きな意味を持つといえる。

NTTドコモはハード面だけでなく音声による対話や、人工知能を活用した運行予測など、ソフトウェア面での技術提供も実施している

企業も自治体も、自動運転に関する取り組みはまだ始まったばかりであり、実験を進めていく中でさまざまな問題点が起きてくる可能性がある。だがそうした課題にいち早く対処し、知見として取り込むことができるのも、先駆的に取り組んでいる企業ならではのメリットとなることは確かだ。実証実験に参加した両社が、先行した取り組みによって国内で自動運転を活用したインフラやサービス整備の主導権を握ることができるかどうか、注目されるところではないだろうか。