ソフトバンクグループが第36回定時株主総会において決定した、孫正義代表の後継者筆頭候補であるニケシュ・アローラ代表取締役副社長の退任。孫代表自身が呼び寄せたアローラ氏を退任させてまで、代表の座にこだわった理由とは? また取締役や株主たちは、その決定をどう感じたのだろうか。本稿では、株主総会における各者の発言を中心に振り返る。

ソフトバンクグループは22日、第36回定時株主総会を開催。会場の様子は別室のモニターを通じて記者団に公開された

ソフトバンクの老害と言われる前に

「私にはまだやり残した仕事がある」として、続投する意思を示した孫代表。その背景には、「人工知能(A.I.)の発達を見届けたい」、という想いがあったようだ。第36回定時株主総会では、人工知能が人類の知能を超えて進化する、いわゆる「シンギュラリティ(Singularity)」について熱く語る孫代表の姿があった。

第36回定時株主総会において、人工知能が人類の知能を超えて進化する、いわゆるシンギュラリティ(Singularity)について熱く語る孫正義ソフトバンクグループ代表

その後の、株主による質疑応答では、やはりアローラ氏の退任劇について話が及んだ。孫代表の回答を以下にまとめる。

「55歳のときにニケシュに話を持ちかけた。その当時は、60まで4~5年残っていた。シリコンバレーで60歳といったら、"化石"のような存在。GoogleやFacebookのトップはみんな若くて格好良くて、知恵も抜群にある。かれらは30代、40代。日常的に触れ合うなかで、私のように近々60になる人間が、ソフトバンクの成長を妨げるボトルネックになってはいけない、老害と言われる前にできるだけ若い者にバトンを渡さないといけない、真剣にそう思うようになっていた」

悩みすぎてまた髪が抜けた

また孫代表は、自身の退任タイミングについて、かなり具体的に考えていたようで、「60歳の誕生日パーティに幹部や知人、友人を呼んで、乾杯のときに『実は明日からニケシュが後任になる』と発表して皆を驚かせる」とサプライズプランを持っていたことを明かした。しかしシンギュラリティについての考察を進めていくうえで、もう少しソフトバンクの社長を続けていたいという意欲が湧いたようだ。「(60歳まで)あと1年になっちゃった。ちょっと待てよと。俺は充分に枯れたか? やり残したことがあるなと、妙な欲が出てしまった」と語っている。

続投する腹が固まったのは、ここ数週間のことだという。アローラ氏については「ニケシュが一番の被害者。本当に申し訳ない。彼はそのままGoogleに在籍していれば、ソフトバンクで支払っただけの報酬は得ていた。そういう状況の中で、彼の人生を賭けてまでソフトバンクに来てくれた」とフォロー。続けて「今回の件で悩み、髪の毛がさらに抜けた。飛行機の鏡を見てそう思った」と力なく自嘲していた。

柳井・永守両会長によるエール

株主から「孫さんの後継者になり得る人はいない。正しく言えば、人類の中ではいない。後継者は人工知能を積んだロボットの可能性があるのではないか。孫さんには99歳までやってほしい。いま、そう宣言していただければ、株価も上がるのではないか」といった声があがると、会場には拍手が沸き起こった。

今回の決定に際して、孫社長は社外取締役にも広く意見を仰いだという。ファーストリテイリングの代表取締役会長である柳井正氏は「ボクが申し上げたのは、孫さんみたいな人はいないと。だから次の後継者は、孫さんのような方ではなくて、事務経営をされる方にしなさいと言った」。今年で67歳の柳井氏は「孫社長はまだ60にもなっていない。なのに引退? 冗談じゃないぞ、とそう申し上げた」とエールを送っていた。

ソフトバンクグループ社外取締役で、ファーストリテイリング代表取締役会長の柳井正氏

また、日本電産の代表取締役会長である永守重信氏は「先ほどから年齢の話になっているが、私は古希(70歳)を迎えている。株主からは120までやれ、と言われた。経営意欲は年齢とは関係ない。まだ若いものには負けない、という気持ちで意欲的に会社を経営している」と怪気炎を上げる。そして、孫社長に対して「ボクは最初から絶対に辞めないと思っていた。69になったら、また10年やると言い出すのではないか。孫さんの言うことはみんな嘘だから、信用しない方が良い」と永守流のハッパをかけると、会場は笑い声と拍手に包まれた。

ソフトバンクグループ社外取締役で、日本電産代表取締役会長の永守重信氏