NTTドコモは同社の新事業戦略「+d」において、本業である通信とはかけ離れた業種での活動を始めている。こうした新分野にの中でも異彩を放っているのが、第一次産業である農業分野への参入だ。ドコモはなぜ畑違いの農業に参入したのか、そして農業とドコモの持つICTのノウハウが合体したとき、一体どのような世界を描いているのだろうか。同社の第一法人営業部農業ICT推進プロジェクトチームエグゼクティブプロデューサー上原宏氏に展望を聞いた。
発端は地方のドコモから
ドコモといえば、携帯電話網では押しも押されぬ日本のトップ企業であり、インフラだけでなく技術開発においても業界をリードする最先端のIT系企業だ。そのドコモが、一次産業の代表である農業に参入するというのは、いかにも接点がないように思える。
しかし、上原氏によれば、そもそもその認識が正しくないのだという。「ドコモは全国に支社を持っており、各地で地元の人材を採用していますが、その中に実家が農家という社員は多いのです。インフラを支える事業者として、各事業所が、それぞれ独自の取り組みとして、地元のニーズに応えて農家やJA向けに農業ICTを推進してきた経緯があります」(上原氏、以下同)。
こうした初期事例には、たとえば料理のつまになる葉を採集し、流動する市場価格を把握し、最も価値のでる市場へ出荷する「葉っぱビジネス」を展開している四国・徳島県上勝町などが挙げられる。同事業では2011年からAndroidタブレットを導入し、生産現場でリアルタイムの市場価格を確認できるなど、ドコモのネットワークを活用した業務システムが活躍している。
こうして各社が独自に展開していた農業ICTの知名度が上がってきたことをうけ、これらをまとめて、全国で統合的にやろうというのが、「+d」における農業ICTサポートの原動力になっている。「+d」とは、外部のパートナーと手を組み、新たな価値を創出していこうという考え方、取り組みである。
すべてのシステム開発をドコモが行うのではなく、農業ICTについてはノウハウを持つ企業にまかせ、インフラの整備やバックボーンとなるクラウドの運用などをドコモが行うことで、各社の強みを最大限に生かそう、というのが「+d」の戦略に合致しているわけだ。
もともと、金融関連の事業を担当していた上原氏は、農業に関わる意義について語りながら、「農業とは地方における基幹産業。農業が衰退すると地方が衰退することになるので、農業は支えていかなければならないんです」と力を込める。