現在、アップルのWebサイトでは「iPadですべてが変わる」と題された特設ページが開設されている。「クッキング」「学ぶ」「スモールビジネス」「旅に出る」「模様替え」という5つのシーンで、iPadをどのようなアプリを用いて活用するかを紹介し、その魅力を伝えるというものだ。

すべてが変わる、ということで言うと、教育の現場でiPadが採択されるようになり、今まさに大きな変革の時期が訪れている。本稿では三重県松阪市立飯高東中学校が参加したアップルのジュニア向けプログラム「フィールドトリップ」の様子とともに、iPadが学校に齎した「変化」について見て行く。

Apple Store, Ginzaの「フィールドトリップ」に参加した三重県松阪市立飯高東中学校の生徒たち。好例のハイタッチで入店

Apple Store, Ginzaで開催された「フィールドトリップ」には、三重県松阪市立飯高東中学校の3年生22名が参加。iPadを利用しプレゼンテーションを行った。同校は松阪市が推進するICT教育で、日頃よりをiPad使った授業に取り組んでいる。この日はまず、iMovieを使ってプレゼンテーションを行う3グループと、Keynoteでプレゼンテーションを行う2グループという5つのチームに別れ、ワークショップ形式でプレゼンテーション用資料を作成していった。

今回の「フィールドトリップ」は修学旅行のプラグラムの一環として取り入れられた

同校の修学旅行のプラグラムの一部として取り入れられた「フィールドトリップ」、参加した22人は、新橋駅からApple Store, Ginzaまで徒歩で移動する道中、気になったもの、興味をそそられたものを写真、および動画でiPadに記録していた。今回はそれらの素材を組み合わせて作業にあたる。ここまでは、よくあるiPadを用いたコンテンツ制作のトレーニング風景のように見えるが、実はもう一歩踏み込んだところでテーマが設定されていた。それは、iPadを教員と生徒が学びの場においてインタラクティブなツールとして使うだけでなく、表現力やコミュニケーション力を深めるために利用するというものであった。全校生徒はわずか58人、松阪市の山間部に位置する飯高東中学校は、例えば交通の便があまり良くなかったりするのだが、不便な地域だからこそ、情報収集力を高めていかなければならないし、表現したことを発信する力を養っていく必要があると、同校の平野修教諭は力説する。

Apple Storeのスタッフにアドバイスを受けながら、自分達のプレゼンテーション資料を作っていく

閉ざされた環境では育みにくいコミュニケーション力を、iPadがどのようにアシストしてくれているのか興味深いところだが、行われたプレゼンテーションを見ていると、それは見事な形で結実しているように思われた。また、出されたお題に沿って、出来上がったものを読み上げるだけではなく、自分達で発見したものを自分達で伝えようとする、本当の意味でのプレゼンテーション力が身についているという印象を受けた。

「フィールドトリップ」ではお馴染みの黄色いTシャツ

平野教諭は、家庭の中で気がついたことをピックアップしてきて、それらを学校での学びに活かしていくということを最終的な目標にしているので、今回のApple Storeに於ける研修(フィールドトリップ)はそこに繋がる機会となるだろうし、生徒達にとっても良い経験になるだろうとも話す。地元の交番と東京の交番の違いをレポートしたグループは、前者では自転車が使われるが、後者ではパトカーが利用されているようだと伝え、外観の違いにも触れた。このグループは普段見慣れているものが、違った場所に行くと実際に違ったものとして現前するということをiPadのカメラでキャッチし、Keynoteの助けを借りながら上手く言い表していた。自動販売機が数多く並ぶ路地を見つけたグループは、それが自分達の暮らす地域にはあまりないと報告してくれた。撮ってきた写真を見ると、都心に住む我々でも驚くくらいの数の自動販売機が設置されており、こんな場所があるのだと感心させられた。表現力、コミュニケーション力に加え、彼らは鋭い観察眼も獲得しているのではないだろうか。iMovieでプレゼンテーション用の動画を作成したチームは、珍しいものや可愛いものを集めてみたとのことだったが、目に映った新鮮な光景を捉え、修学旅行の思い出を纏め上げ、その楽しさを、喜びを余すところなく伝える発表を行った。

交番の外観について報告するグループ。「気づき」をiPadで表現

自動販売機が数多く並ぶ路地を見つけたグループのレポート。ご覧の通り、画面の奥まで自動販売機が並ぶ

iMovieチームは、東京で見た、珍しいものや可愛いものを動画に

生徒達だけでなく、教員もiPad導入以前とは変わってきたと平野教諭は言う。ICT機器を使うにあたって、生徒一人に一台渡すということに抵抗感を覚えていたある教員は、導入後、授業のことをよく考えるようになっていったと続け、デバイスの操作に慣れるのはもとより、どう使い、どう授業を進めていくかを熟考するようになってきていると明かしてくれた。元々、生活指導担当だったという同教諭は、フィルタリングの問題など、教育でマイナス面になることも心配していたというが、実際にiPadを取り入れてみると、むしろプラスの面が大きかったと評価する。そして、完璧に守られている状況に真実はないと思うようにもなったそうだ。

文科省は5年後に始まる新学習指導要領で、生徒達が主体的に発言したり議論したりする「アクティブラーニング」を採用する方向で準備を進めているが、飯高東中学校はその先鞭をつける形での授業を行っている。さらに文科省の期待を超え、例えそれが実用性のない事柄であったとしても、発見を学びに結びつけようという姿勢も伺える。iPadが何気ない日々に変化を齎し行動規範も変えていく、飯高東中学校の取り組みはその好例であると感じられた「フィールドトリップ」であった。