先にも触れたように、Office PremiumとOffice 365 Soloは、日本市場向けに開発された製品である。全世界をひとつの製品で展開するマイクロソフトにとって、これは異例のことだ。現在、コンシューマ向けOfficeは、全世界で「Office 365 for Consumer」としてクラウドベースの製品へと移行している。

今回の(日本における)新Officeもこれをベースにしているのだが、PCにOfficeをインストールして販売しているのは日本だけであり、米Microsoft本社のOffice開発チームは、日本市場向けにエンジニアリングリソースを割いて、Office製品を開発しているというわけだ。では、なぜ日本市場向けのOfficeが開発されているのだろうか。

最大の理由は、日本市場におけるアタッチレートの高さだ。

日本市場においては、量販店で販売されているコンシューマ向けPCの94%にOfficeがインストールされている。これだけの比率でOfficeが利用されている国は、ほかにはない。そのために、米Microsoftは日本を重要な市場と判断し、日本市場向けの特別なOfficeを開発しているのだ。これはほかの製品には見られない異例の措置であり、その点でも米Microsoftが、日本市場の特殊性をしっかりと理解しているともいえるだろう。

メディア向けの「New Office Press Briefing」には、Microsoft CEOのSatya Nadella氏も訪日し、会場でスピーチを行った(写真左)。Nadella氏のスピーチで発表した4つの製品。Office PremiumプレインストールモデルのSurfaceやOEM版PC、Office for iPadの日本語版リリースも発表された(写真右)

実は、日本市場の深い理解度については、かつてOffice製品のプロダクトマネジメントグループを率いた米Microsoft コーポレートバイスプレジデントの沼本健氏の存在が見逃せない。

2013年2月に発売されたOffice 2013においては、途中の開発段階まで沼本氏が重要なポジションで携わっていた。その際に、日本マイクロソフト側からも様々な要望が寄せられたのだが、沼本氏は開発部門に対して、「日本からの要望は正しいものばかりだ。なにも言わずに聞け」と号令したという逸話がある。(かつて、2年間の期間限定ライセンス版Officeが日本市場向けに提供され、ネットブックなどに搭載されたことがあった。これも当時の日本市場からの要求を反映して用意されたものだ。)

沼本氏は現在、クラウド&エンタープライズ事業を担当しているため、今回の新たなOfficeに沼本氏の声が直接反映されているわけではないが、日本市場の要求が反映されやすい体質は、いまでも続いているといえよう。それだけ日本のOfficeビジネスは、米Microsoftにとっても重要なビジネスであるというわけだ。

ちなみに、Office Premiumの名称は、これまでパッケージ版で用意されていた「Office Personal」、「Office Home and Business」、「Office Professional」という3つのエディションのさらに上位に位置付けるということから命名された製品名だという。米Microsoftと日本マイクロソフトが協議して決定したこの名称には、最大限の価値を提供するOfficeであるという意味が込められている。それを日本にだけ投入するというわけだ。

その一方で、Office 365 Soloは、1人で利用することを意味する「Solo」とした(企業向けOffice 365がEnterpriseやSmall Business、個人向けOfficeがHomeやPersonalといったように、利用する規模や範囲を表す名称が付いていることに合わせている)。実は、米Microsoftからは、「Individual」(個人)という名称が提案されていたというが、日本市場で分かりやすい単語ということで、Soloに決定した。ここにも日本側の意向が反映されている。