Flashコンテンツの扱いを変更するMicrosoft

当初のWindowsストアアプリ版Internet Explorer 10は、Flashコンテンツの再生を制限していた。MicrosoftはWindows 8のリリースタイミングで、Flash Playerをデスクトップアプリ版Internet Explorer 10、およびWindowsストアアプリ版Internet Explorer 10に統合。その一方でモダンUI(ユーザーインターフェース)という新しいスタイルを浸透させるため、同UIに即さないFlashコンテンツの制限を設けることとした。

もっともデスクトップ/ノート型コンピューターでWindows 8を使用していると、Windowsストアアプリ版Internet Explorer 10を使う場面が少ないため、あまり話題にならなかったように記憶している。その一方でWindows RTを搭載したタブレット型コンピューターの場合、タッチ操作の利便性を享受するには、Windowsストアアプリ版Internet Explorer 10を使用する場面も多く、何らかの不満は生じていたのだろう。

そもそもInternet Explorer 8から加わった互換表示モードは、Webページをレンダリングする際、HTMLバージョンの差異や独自タブを吸収するために用意された機能である。多くのユーザーが互換表示モードを共有できるように、MicrosoftはCV(Compatibility View:互換表示)リストを用意し、定期的に更新してWeb閲覧状況を保護していた。前述のFlashコンテンツの制限もCVリストで管理してきたのである。

だが、本誌でも報じているようにその方針は一転した。Internet ExplorerグループのプログラムマネージャーであるRob Mauceri(ロブ・モーセリ)氏は、「数ヶ月間テストを行った結果、Flashコンテンツを持つサイトの大半は、WindowsタッチのためのUX(User Experience:ユーザーエクスペリエンス)やパフォーマンスなどの互換性を満たしている」と現状を説明。

これまでCVリストに掲載されたWebサイトのFlashコンテンツのみ再生可能だったが、2013年3月の定期更新により、「CVリストに掲載されたWebサイトは再生を制限するように変更した」とIEBlogの記事で述べている。もっともこの仕様変更は使用するOSがWindows 8なのか、Windows RTなのかによって異なり、Windows 8のデスクトップアプリ版Internet Explorer 10はすべてのFlashコンテンツを再生できるが、Windowsストアアプリ版Internet Explorer 10はCVリストに掲載されたWebサイトのFlashコンテンツは再生可能。Windows RTの場合、各Internet Explorer 10は、Windows 8のWindowsストアアプリ版Internet Explorer 10と同じ動作となる(図05)。

図05 今回の変更で、大半がCVリスト上のサイトのみFlashコンテンツがブロックされることになる

なお、本設定が反映されるのは、互換表示設定ダイアログにある<Microsoftから更新された互換性リストをダウンロードする>が有効でなくてはならない。同ダイアログはインターネットオプションダイアログなどから呼び出せないため、Internet Explorer 10を起動してから[Alt]+[T]キーを押し、<ツール>メニューの<互換表示設定>を選択して呼び出すと良い(図06)。

図06 <Microsoftから更新された互換性リストをダウンロードする>のチェックが必要

ここでどのようなFlashコンテンツが制限されるか、かいつまんで紹介しよう。MicrosoftはInternet Explorer 10との互換性として、仮想マシンではなく実機の使用を推奨し、2タッチポイント以上をサポートする1366×768ピクセルの表示環境で、Internet Explorer 10のハードウェア/ソフトウェアレンダリングモードを使用することを求めている。また、テスト内容は13項目にもおよび、タッチ操作に関するものが中心だ(図07~08)。

図07 Microsoftが定めたテスト環境。仮想マシンが推奨されていないのは、タッチ機能の再現性が乏しいからだろう

図08 Microsoftが定めたテスト内容。これらの条件を満たさないと再生可能と認められなかった。ただし、現在もこれらが推奨されている

その一方でFlashコンテンツに関するガイドラインとして、「HTMLがメインのサイト」「ActiveXコントロールに依存しているサイト」「すべてのWindows 8プラットフォームで一貫した機能を提供していないサイト」「Flashコンテンツで問題が発生しているサイト」「タッチ機能が動作しないFlashコンテンツ」「スクリーンキーボード操作に問題があるFlashコンテンツ」を設け、これらに該当するサイト/FlashコンテンツはInternet Explorer 10と互換性がないと見なされる。

Mauceri氏は自社で行ったテスト結果として、「互換性を持たないFlashコンテンツは4パーセント未満だった」と述べているが、そもそもInternet Explorer 10のコンセプトは、後からソフトウェアを加えない“プラグインフリー”を目指してきた。そのため当初はFlashを排除し、HTML5への最適化を目標に掲げていたはずである。同氏は「FlashからHTML5への移行期間の空隙を埋めることが可能」と述べ、あくまでもコンセプトは揺るいでいないという姿勢を誇示しているが、今回のように当初と真逆の方針に舵を切る同社の施策は、FlashコンテンツのブロックをWindows 8やWindows RT搭載マシンの普及に足かせとなる、と認めたのではないだろうか。

今後Flashコンテンツが減少し、動的コンテンツがHTML5へ移行するのは、Flashコンテンツ作成ツールを販売しているAdobe Systems自身がHTML5を推進する立場を取ることでも明白である。それでも現状を踏まえると、HTML5の仕様が完全策定するのは2014年であり、Flashコンテンツが完全になくなるわけではない。セキュリティポリシーやUXの面からFlash Playerを自身のコントロール下に治めようとしたMicrosoftだが、今回の舵取りに不安を覚えるのは筆者だけだろうか。

阿久津良和(Cactus