Windowsストアアプリの充実に期待
筆者は以前「Surface RTに関する興味を失った」と寄稿したレポート記事で述べたが、改めて発言を撤回したい。Windows 8 Developer Previewから数えて一年半の間Windows 8ファミリーを触ってきたが、Windows RTでようやくモダンUI(ユーザーインタフェース)の良さを理解した気がした。この件に関してはおいおい述べるとして、まずはSurface RTの電源を入れてみる。
Windows RTが起動すると、最初にライセンス条項の確認や無線LANアクセスポイントの選択など一連の作業を求められるのは、Windows 8のセットアップと同じだ。当たり前のことを述べて申し訳ないが、見た目や操作感はタッチ機能を備えたWindows 8と大差なく、タッチ操作でWindowsストアアプリやデスクトップを操作できる。
この心地よい操作感はタッチ対応のノート型コンピューターでは得られなかったことを踏まえると、Surface RTの10.6インチの小さなディスプレイだからこそ醸し出せるのだろう。
Windows RTはARMアーキテクチャ上で動作するWindows OSファミリーのため、x86/x64アーキテクチャ向けにコンパイルされたデスクトップアプリを使用することはできない。ARM SoC向けに開発したデスクトップアプリも署名が必要なので、Windows RT向けのデスクトップアプリ開発が広まる可能性は少ないだろう。
そのため、Surface RTでデスクトップ環境を使用する場面は、標準インストールされたアクセサリとOffice 2013 RTを使用する場面に限られる。また、Windows Media Playerは含まれていないため、音楽再生はWindowsストアアプリの「ミュージック」、動画視聴は「ビデオ」を使用しなければならない。
これらの点がWindows RTのデメリットというか、選択する上でのネックと思っていたが、実際に手にしてみると"デスクトップ環境にこだわる必要がない"ことに気付かされた。デスクトップ/ノート型コンピューターでは冗長に感じたWindowsストアアプリへの関連付けも違和感を覚えることはなく、気付くとWindowsストアアプリを利用しているのである。
そのため、Surface RTの活用はWindowsストアアプリの充実度にかかっているが、MetroStore Scannerによると、3月15日時点で登録本数は47,614本と、当初と比較すると充実してきた。
並行輸入版Surface RTと異なり国内販売版Surface RTには、ビデオチャットなどを楽しめる「Skype(スカイプ)」が最初からインストールされている。早速起動してみると、Microsoftアカウントによるサインインが自動的に行われるが、そのままアプリケーションが強制終了してしまう。
Windows 8上で確認すると同様のトラブルが発生していたので、Surface RTもしくはWindows RTの問題ではないかもしれないのだが、ローンチ直後から動作不良を起こすのは少々気になる。
このようにWindowsストアアプリの利用が中心となるSurface RTだが、キラーアプリケーションに達するWindowsストアアプリは残念ながら見当たらない。ハードウェアとOS(オペレーティングシステム)という土台や住居はしっかりしているものの、家庭内に設置する優れた家電がないという状況だ。こればかりはMicrosoftではなく、ソフトウェア開発を行う企業や個人のモチベーションに依存するため、今後の市場状況を見守るしかない。
利用者という視点からは、Officeスイートを活用できる方であればSurface RTは有用なデバイスとなるが、使い慣れたオンラインソフトやアプリケーションの代替となるWindowsストアアプリが登場するまでは、Surface RTはサブマシンの域を出ないだろう(図16~17)。
Webブラウザベンチ「RoboHornet」の結果
さて、Surface RTがどの程度の性能を保持しているかベンチマークを用いて検証しようと思っていたが、多くのベンチマークツールはWin32アプリケーションであるため、Windows RTでは動作しない。そこで、Googleが中心となって開発されたWebブラウザのベンチマークサイト「RoboHornet」を利用し、Windowsストアアプリ版およびデスクトップアプリ版Internet Explore 10のパフォーマンスを検証した。
なお、同ベンチマークサイトでは、HTML5やJavaScriptの処理速度を中心に検証が行われる。参考数値とした「Windows 8のIE 10」のスペックだが、プロセッサはIntel Core i7-3770。物理メモリは32ギガバイト、の環境に64bit版Windows 8のデスクトップアプリ版Internet Explorer 10を使用した。各ポイントは数値が高いほど優秀な結果となる。
結果はご覧のとおり、デスクトップアプリ版とWindowsストアアプリ版の差異は誤差程度。その一方で参考用にベンチマークを取った自作マシンとは3~4倍の開きが生じている。もっともCore i7は3.4GHz、Surface RTのNVIDIA Tegra 3は1.3GHzで動作するARM Cortex-A9のため、その結果は順当と言えるだろう。
万人向けではないがOfficeユーザーにはこの上なく便利なデバイス
以上でSurface RTのファーストインプレッションを終えるが、最後に個人的感想を少々述べさせていただきたい。Surface RTはデバイスとして魅力的ながらも、タブレット型コンピューターとしての活用場面はあまり想定できない。これは筆者がOfficeスイートを使用する機会が少なく、冒頭で述べた「出先での備忘録マシン」としてタイプカバーもしくはBluetoothキーボードなどが必要となるためだ。
逆に言えば、Officeスイートを日々活用し、Windows OSとほぼ同等の機能を備えるコンピューターをタブレット感覚で使用できるアドバンテージはこれ以上なく大きいだろう。今回筆者はSurface RTを購入したことを後悔していない。発表会やインタビューなど素早いタイピングが求められる場面では利用できないものの、クライアントとの打ち合わせやブレーンストーミングによる会議では、十分に威力を発揮する。また、タイプカバーや手になじむキーボードを用意すれば、入力効率も高まるはずだ。
現時点ではSurface RTの置かれた状況は万全とは言いがたく、万人にお勧めできるデバイスでもない、というのが正直な感想である。だが、常にWindows OSを使ってきたユーザーにとっては、これほど気軽に扱えるデバイスは存在しないだろう。
一歩先の未来を具現化したSurface RTがユニークであり魅力的であることを共感できる方は是非店頭で触れてみてほしい。その魅力の虜(とりこ)になるはずだ。
阿久津良和(Cactus)