これまでWindows OSの複雑なエディション構成が問題視されてきた。現在開発中のWindows 8でも多数のエディションが採用されるのかと思われていたが、Windows OSの公式ブログである「Blogging Windows」で「Windows 8」が正式名称であると同時に、エディション構成もコンシューマー向けの「Windows 8」、ビジネス/プロ向けの「Windows 8 Pro」、そしてARMプロセッサー向けの「Windows RT」の三つであることが発表された。まずはWindows OSにおけるエディション構成の歴史から始めよう。
Windows NT時代から続けられるエディション構成
Windows OSは機能差を分かりやすく主張するため、「○○エディション」という名称を用いてきた。出版物における「○○版」を意味するエディションを製品名に用いるようになったのは、Windows NT 3.5の時代からである。クライアントOSであるWindows NT 3.5 WorkstationとサーバーOSであるWindows NT 3.5 Serverというシンプルなものだったが、Windows NT 4.0以降は用途や規模によってサーバーOSのエディション名に変化が付けられるようになった。
そのOSがコンシューマー(消費者)向けなのかビジネス向けなのかエディション名に盛り込まれる様になったのは、ご存じWindows XPから。コンシューマー向けエディションであるHome Edition、ビジネス向けとなるProfessionalの二種類が用意されていたが、メディア機能を強化したMedia Centerエディションや、タブレット型コンピューター向けとなるTablet PCエディションなども用意された。当時を知るユーザーには懐かしい話ではないだろうか。
このエディション構成が複雑になるのは2006年に登場したWindows Vistaからである。ユーザーニーズや市場によって機能が異なる六つのエディションを用意したものの、ユーザーの間でも不評だったのは記憶に新しい。新興国市場のStarterエディション、コンシューマー向けのHome Basic/Home Premiumエディション、ビジネスユーザー向けのBusinessエディション、ボリュームライセンス提供のEnterpriseエディション、そして"全部入り"のUltimateエディション。
改めて列挙するのが億劫になるほどだが、この構成はWindows 7にも引き継がれることとなった。加えて、Windows Vista Starterの役割がWindows 7 Home Basicへ、Windows Vista Home Basicの役割がWindows 7 Starterへ変更されるなど、一歩間違えれば大混乱しそうなエディション構成だが、これら下位エディションを選択する場面やユーザーは限られるため、大きなトラブルに至ることはなかったのだろう。
エディション構成で思い出すのが、Windows Vista Ultimateユーザー限定のファイルや追加機能を提供するWindows Ultimate Extrasの存在だ。本来は他エディションとの差別化を目的として用意されたものの、当初発表した"定期的に提供する"といううたい文句とは裏腹にソフトウェアの提供は遅延による遅延を重ね、ラインナップに並んだソフトウェアは10本程度。Windows Vista自体の市場的不振や、Windows 8への開発リソースを裂かなければならなかったなど、Microsoft側の事情はくみ取れないものではないが、発表内容と異なる結果に至った。いずれにせよ、Windows 7ではExtrasというコンセプトの破棄に至っている(図01)。
三つのエディションを持つ「Windows 8」
このエディション構成がWindows 8にも継承されるのか注目されていたが、現在公開されているWindows 8では、HKEY_LOCAL_MACHINE\SOFTWARE\Microsoft\Windows\CurrentVersion\Component Based Servicing\PackageIndex\Product
キーにあるエントリから、エディション構成を確認されていた(図02)。
同エントリでは従来のエディション名に加え、RC(製品候補)版などに使用されるであろう「PrereleaseEdition」や評価版となる「EnterpriseEval 」に加え、「Professional Plus」「ARM edition」など合計十種類が確認されている。もちろん同情報はMicrosoftが公式に発表したものではないものの、再び多種類のエディションで悩まされる可能性は高い。
このような予想をくつがえしたのが、Windows OSの公式ブログである「Blogging Windows」でWindows 8のエディション構成を説明する最新記事だ。簡単に内容を説明すると、Windows 8はコンシューマー向けの「Windows 8」、ビジネス向けの「Windows 8 Pro」、ARMプロセッサー向けの「Windows RT」と三つのエディションにわけられることになる。つまりWindows XP時代と同じくコンシューマー向けエディションとビジネス向けエディションの二種類に加え、従来Windows on ARM(WoA)と呼ばれていたエディションが「Windows RT」として独立することになった(図03)。
また、これまで開発コード名として呼ばれていたWindows 8が正式名称となり、コンシューマー/ビジネス向けエディションはWindows 7と同じく32/64ビット版を用意するという。図04は先のブログ記事で公開されたエディションの機能差をまとめたものだが、Windows RTは従来のアプリケーションがそのまま使用できないため、Microsoft Ofiice(ARM版)が標準添付するようだ。また、ローカルデバイス上のデータを保護するDevice Encryption機能もWindows RTのみサポートとなる(図04)。
このように、従来のコンシューマー系エディションを使用してきたユーザーは「Windows 8」を選択し、ビジネスシーンでの使用や"全部入り"でなければ満足しないユーザーは「Windows 8 Pro」を選択するというシンプルな構成になったのである。もっとも従来どおりソフトウェアアシュアランス契約ユーザー向けとして、「Windows 8 Enterprise」は残されており、Windows 8 Proの機能をすべて網羅するものの、一般小売店やOEM販売はなされないため、事実上除外していいだろう。いずれにせよ、Windows 8におけるエディション問題はここに解決した。ユーザーは用途に応じて「Windows 8」もしくは「Windows 8 Pro」を選択すればよい。
阿久津良和(Cactus)