Microsoftは新しいオンラインストアとして「Windows Store」を発表した。Windows 8(開発コード名)のメインUI(ユーザーインターフェース)であるMetroスタイルアプリケーションの販売などに活用される予定だが、既に公式ブログを立ち上げるあたりに、同社の本気度が見えてくる。過去にもオンラインストアを立ち上げてきた同社だが、Windows Storeは三度目の正直となるのか。今週も同社のブログに掲載された記事を元に、Windows 8を中心とした最新の動向をお送りする。

Windows Storeに至るMicrosoftの苦悩

先週の話題は何を差し置いても「Windows Store」の正式発表である。本誌でも既に報じられているとおり、Windows Phone用のオンラインストアである「Windows Phone Marketplace」に近い構成で、Windows 8用ソフトウェアの販売が行われる予定だ(図01)。

図01 現在予定されているWindows Storeのインターフェース(公式ブログより)

AppleのApp StoreやMac App Store、Android端末向けのAndroidマーケットに続くソフトウェアの有償/無償ダウンロードサービスだが、Microsoftがこのような展開に出てくるのは以前から予想されている。Windows OSを使ってきた方ならご存じかと思うが、Windows Vistaには、「Windows Marketplace」「デジタルロッカー」というサービスが用意されていた。

前者はソフトウェアやハードウェアをインターネット経由で販売するサイト「Windows Marketplace」への接続機能であり、後者は同サービスを制御する「デジタルロッカーアシスタント」を起動するというものだった(現在はMicrosoft Storeへアクセスする)。しかし、現行OSであるWindows 7には、その影も形もない。Windows Vistaの商業的不振が相まって同ショップが充実する日は訪れず、Windows 7で機能削除に至ったのだろう(図02~03)。

図02 Windows Vistaに用意されていたWindows Marketplaceへのリンク。現在はMicrosoft Storeへリンクが切り替わっていた

図03 Windows Marketplaceで購入したソフトウェアを管理する「デジタルロッカーアシスタント」。残念ながら活躍する場面は皆無だった

ここで思い出して欲しいのがApp Storeのサービス開始日。こちらは2008年7月だが、Windows Vistaがリリースされたのは2006年11月である。つまり、ソフトウェアをオンラインで販売する、という仕組みはMicrosoftが先に始めていたのだ。もちろん、このアプローチに至るには2003年に発表され、現在では当たり前のように使われているiTunes Storeの存在が大きいだろう。

Appleのオンラインショップ展開が功(こう)を奏しているのを横目に、Windows Marketplaceは死に体となり、2009年7月末から「Windows Market Place for Mobile」と題したWindows Mobile向けのアプリケーション配信サービスを強化するようになった。それまでWindows Marketplaceが担っていた役割は、2008年末からサービスを開始した「Microsoft Store」に受け継がれたが、そのラインナップはB2C(企業から一般消費者)にとどまっている。

改めて述べるまでもなく、App StoreやAndroidマーケットはB2CだけでなくC2C(一般開発者から一般消費税)をサポートすることで、世界中の開発者が新しいマーケットに参加できるメリットがある。一方のAppleも数十億ドルという売り上げを手にすることができるため、一定以上のシェアを持つ企業ならば、目を付けないわけがない。

Windows Storeは成功するか?

まずは端的にWindows Storeが成功するか否か考えてみよう。個人的感情を述べれば成功して欲しいのだが、現実的な線では首をかしげざるを得ない。そもそも、App StoreやAndroidマーケットはいずれも専用のハードウェアを対象にしたオンラインストアであり、特に前者は独占的な存在である。

その一方Windows Storeが対象に含めるWindows 8は、一般的なコンピューター上で動作するOSであり、Appleのような"囲い込み戦略"を由としてきた人々とユーザー層が異なるだけに、すぐさま爆発的ヒットに至るとは考えにくい。

ユーザーから見れば、ソフトウェア品質の安定化やマルウェア侵入機会の低下などのメリットもある。だが、販売チャンネルを持たない小規模なソフトウェア会社や、シェアウェアを作り続けてきた個人開発者にはメリットがあるものの、これまで無償ながらも有益なソフトウェアを作り続けてきた個人開発者が49ドルを支払うメリットはないだろう。

また、公式発表はないもののMetroスタイルアプリケーションは、Windows Store経由でしか配布できないと噂されていることを踏まえると、Windows 8の普及に歯止めをかける可能性も高い。App StoreはiPhoneという高評価を得たデバイスが存在することで成功したが、Windows 8とWindows Storeの両輪は正しくまわるのだろうか。このような理由でWindows Storeの成功に疑問が残るのである。

今度は他社のオンラインストアと比較してみよう。現在もっとも成功しているApp Storeにソフトウェアを提供するには、Mac OS X 10.5以降を搭載したIntel Macを保有し、Apple Developer Connectionへの無料登録と、年間99ドルのiOS Developer Programへの加入が必要。ソフトウェアの公開はAppleの審査を通過すれば、設定価格の三割がAppleに、残りの七割が開発者に支払われる(Mac App Storeも同等)。

Androidマーケットもデベロッパーアカウントを取得し、25ドルのアンドロイドマーケット登録料を支払ってから、ソフトウェアの登録を行う流れは同じ。ソフトウェアの売り上げはGoogleが三割、開発者が七割とこの点も同じである(もっともGoogleの取り分は5%に過ぎず、残りの25%は通信事業者に支払われるという)。

そしてWindows Storeだが、同プログラムへの登録料として49ドル(企業は99ドル)を支払い、ソフトウェアの売り上げはMicrosoftが三割、開発者が七割だが、売り上げが二万五千ドルを超えると、二割対八割に配分が変化する仕組みを設けている。前述したWindows Market Placeが99ドル/年の登録料に加えて、99ドル/1アプリケーションという高額な課金設定だったことを踏まえると、ようやく同社も現実路線を歩むようになったのだろう(図04)。

図04 各社オンラインストアの料金内容

先行するAppleに追いつきたいGoogleは、Androidビジネスの参加者に取り分を多くし、事実上の後発となるMicrosoftは、ソフトウェア開発者の取り分を増やすことで参加者の増大を図っている。このように料金設定から、各社の思惑や事情がくみ取れるのが実に面白い。

繰り返しになるが、App StoreおよびAndroidマーケットは、あくまでもスマートフォン系の特定デバイスを対象にしているため、オンラインストアという囲い込み戦略が成功している。MicrosoftもMetroスタイルアプリケーションをWindows Storeでのみ販売することで、同様の成功を狙っているのだろうが、そもそもMetroスタイルを主体としてWindows 8を欲するユーザーはどの程度いるのだろうか。Windows Storeという新しいチャンネルが登場することで、ユーザーの利便性が向上するのは歓迎するが、Windows 8普及の足かせにならないことを祈りたい。

阿久津良和(Cactus