アプリケーションを起動するための機能として用意されたスタートメニューはWindows OSと同じ歩みを経て現在に至っている。だが、Windows 8(開発コード名)はメトロUIとライブタイルによるユーザーインターフェースを採用し、今後増えるであろうタブレット型コンピューター向けのアプローチを打ち出した。今週のレポートは公式ブログに掲載された情報を元に、従来のデスクトップUIに慣れた我々の今後を熟考してみる。

スタートメニューが終わるとき

Windows OSのUI(ユーザーインターフェース)には大きな転換点がある。それが“Windows 95以前”と“Windows 95以降”だ。それまでのWindows OSであるバージョン3.xでは、従来のファイラーにあたる「ファイルマネージャ」と、プログラムを実行するためのランチャーである「プログラムマネージャ」という二つのツールを使い、コンピューターの操作を行っていた。

コード名「Chicago(シカゴ)」の名称で開発されたWindows 95は、現在の基礎をなすタスクバーやスタートボタン、前述のファイルマネージャとプログラムマネージャを統合したエクスプローラーなどを搭載。デスクトップというメタファーを実現することでOSの完成度は著しく高まり、現在のWindows 7にも受け継がれている。我々がWindows OSを使い続けられた長所の一つと言えるだろう(図01~02)。

図01 Windows 3.1のデスクトップ。MS-DOS上で動作していたため、OSというよりもランチャー的要素が強かった

図02 1995年にリリースされたWindows 95。GUIの改善やロングファイルネームの完全サポートなど、Windows OSを不動の地位に押し上げた存在である

1985年、世に生まれたWindows 1.0、1995年にリリースされたWindows 95(いずれも米国時間)以来の転換期となるのが、Windows 8の存在である。既にご存じのとおり同OSは、メトロスタイルUIを前面に押し出し、スタートメニューに変わるライブタイル(メトロシェル)をランチャーを用意した。Microsoftでは、このライブタイルを進化したスタートメニューとして捉(とら)え、タブレット型コンピューターの取り込みを図っている(図03)。

図03 Windows 8のライブタイル(メトロシェル)。従来の<スタート>メニューに変わる存在となる予定だ

図04 Windows Vista-Windows 7間のスタートメニューにおける使用状況の変化(公式ブログより)

ここでスタートメニューの役割について復習してみよう。Windows 95からWindows 7までの各Windows OSでは、スタートメニューにアクセス頻度の高い機能やプログラムメニューを呼び出す役割を担っていた。Windows 2000では、タスクバーを有効活用するためにクイック起動というフォルダーをタスクバーに貼り付ける機能を搭載。Windows XPでは使用頻度の高いアプリケーションを実行回数によって列挙する「最も頻繁に使用されるプログラム(MFU:Most Frequently Used programs)」を持たせた。そしてWindows 7では、タスクバーにショートカットファイルを"ピン留め"する機能を取り込んでいる。

この流れを踏まえると、これまでランチャーとしての役割が中心だったスタートメニューだが、クイック起動やピン留めなど各オブジェクトを活用した機能を盛り込むことで、スタートメニューの希薄化が進んだと表現が当てはまる。もちろんスタートメニューという一つのオブジェクトにこれ以上の機能を担わせるのは表示領域的に限界であり、同社のWindows開発チームも、スタートメニューの限られた表示領域を窮屈に感じていたという。

公式ブログに掲載された情報に一つ面白いものがある。それが、Windows Vista-Windows 7間におけるスタートメニューの利用状況だ。同社がまとめたレポート結果によると、スタートメニューからピクチャーフォルダーやドキュメントフォルダーを参照するユーザーは50%以上も減っている。これは、Windows 7のピン留め機能によって用意されたエクスプローラーのボタンをクリックすれば、簡単にライブラリが表示されるようになったため、使用するユーザーが減少したのだろう(図04)。

このような理由と、タブレット型コンピューターの台頭という時代背景を踏まえて生まれたメトロUIへの移行は、意外にも自然な流れなのかも知れない。