もはや「インターネットがなければ何もできない」と言っても過言ではない。このような状況下でWindows 8(開発コード名)はどのようなアプローチを仕掛けてくるのだろうか。公式ブログでは、一つの回答としてWindows Live IDの活用とオンラインストレージであるSkyDriveとの融合を説明した。今週のレポートはネットワークサービスとの連動についてお送りする。
Windows Live IDを用いてユーザー設定を共有
Microsoftは、以前からMicrosoft Passport Networkというシングルサインオンサービスを展開していた。そもそもシングルサインオンとは、一度の認証処理によって各種リソースを利用可能にする仕組みである。通常、異なるサーバーで展開されているサービスを受けるには、個別のログオン処理が必要だったが、シングルサインオンサービスを運用することで、ユーザーは一つのIDとパスワードによって、各種サービスを享受することが可能になるというものだ。
同社は2004年頃から運用していたMicrosoft Passport Networkの名称を.NET Passportに変更し、その後ネットワークサービスを一括管理・展開するWindows Liveに統合する際、現在のWindows Live IDに再び名称を変更。基本的な仕組みはすべて同じものであり、Microsoftも「読み替えて欲しい」と述べている
Windows Live IDを活用中の方はご存じのとおり、同社が提供しているIM(インスタントメッセンジャー)や電子メールクライアント、オンラインストレージなどを使用する際に活用できるが、この活躍の場をWindows 8にも広げることが公式ブログで報じられた。
具体的には、Windows 8セットアップ時に作成するユーザーアカウントをWindows Live IDとし、当初から同IDを用いる仕組みを組み込んでいる。ちなみにネットワークデバイスを接続しない環境では、従来のローカルユーザーアカウントでセットアップを続行する仕組みだ。
肝心なのは、Windows 8上でWindows Live IDをどのように活かすのかという点。同社の調査結果によると一人で複数台のコンピューターを持ち、それぞれのマシンで好みの設定に変更するカスタマイズ作業が煩雑と感じるユーザーが少なくないという。そこで、Windows Live IDとWindows 8の各種設定を紐付ける仕組みを持たせることにした。個人設定の各種設定やWebブラウザーの設定などをWindows Live IDと連動するネット上のストレージに保存し、各コンピューター間で同期するというものだ。
ここで同社のオンラインストレージであるSkyDriveが使用されるかは現時点で発表されていないが、冷静に考えれば同サービスを使用するのが自然だろう。なお、図01の画面でもわかるように共有内容は各種個人設定に加え、アプリケーションの設定や、Webブラウザーのお気に入りと履歴といったデータも共有される。また、Windows Store経由で入手・購入したアプリケーションの再ダウンロードも行えるという(図01~02)。
一見すると目新しく見える本機能だが、Windows Serverを活用している方ならお気付きのとおり、このロジックは新たに生み出されたものではない。ドメイン管理下にあるWindowsマシンであれば、ユーザープロファイルをサーバー上に保存し、ユーザーがログオンするコンピューターにダウンロードして使用する移動プロファイルを使用すれば、異なるコンピューターでも同様の環境で作業できる仕組みは以前から用意されていた。
つまり本機能は、ドメイン管理を行うActive Directoryの代わりにWindows Live IDの認証システムを用いるというものだ。そこで気になるのがセキュリティリスクである。プライバシー情報の漏えいにつながる可能性があるため、同社もこの点には大きな注意を払い、対処するという。
実際にWindows Live IDを用いてWindows 8にログオンすると、Windows Live ID作成時に登録した電子メールアカウントに「Windows Liveアカウントセキュリティの確認」というメールが届き、ここで認証を行うことで信頼済みコンピューターに含まれる。このような認証ロジックを用いることで、セキュリティリストを下げているのだろう(図03)。
正直なところ実際に運用してみないと、どの程度のセキュリティリスクが発生するか述べるのは難しいが、クライアントレベルでの暗号化やネット上のセキュア接続などを踏まえると、実用レベルに達する機能に仕上がりそうだ。
オンラインストレージと融合するWindows 8
Microsoftが提供するオンラインストレージSkyDriveは、数ある無償サービスのなかでも使用可能容量が25GB(ギガバイト)と、群を抜いて使用容量が大きい。しかし、ファイルサイズが100MB(メガバイト)に制限されているため、写真や短い動画、小規模のデータファイル用ストレージとなり、使い勝手が良いとは言いがたいのが現状である。
以前はUI(ユーザーインターフェース)面でも難があったが、現在はMicrosoft Silverlightを用いたUIに切り替わっているため、前述の写真などをアップロードし、遠距離の友人や家族とのコンテンツ共有やバックアップに用いている方も少なくないだろう。
既に各所で報じられているとおり、SkyDriveはWindows 8と統合し、保存済みの写真や動画を容易に閲覧可能になる予定である。同社も専用サイトを用意し、開発を推し進めている最中だが、興味深いのがメトロスタイルのアプリケーションに対するSkyDriveの開放だ(図04)。
図04 Windows 8と連動するSkyDriveのフォトアプリ(「Next at Microsoft」より) |
Windows 8 Developer Preview公開時に同時公開されたLive SDK Developer Previewを用いることで、ソフトウェア開発者は、SkyDriveへのアクセスAPI(特定の機能を使用するための関数)を用いてストレージ上の操作が可能になる。
前述したWindows Live IDを用いて異なるコンピューター間の設定を共有する仕組みやSkyDriveの開放は、Windows 8とネットワークの親和性を高める結果につながるだろう。誤解を恐れずに述べれば、これまでのSkyDriveは“宝の持ち腐れ”であり、同社のブランドイメージを高める程度に留まっていた。しかし、SkyDriveとWindows 8の統合はユーザーの利便性を大幅に向上させると同時に、オンラインストレージを有効活用につながる。ようやくSkyDriveを活用する時代が来たのだろう。
だが、手放しで評価するのはまだ早い。同社はインターネットに対するアプローチの一環として、Active Desktopという機能をWindows OSに組み込んだ経緯がある。具体的にはWindows 98にInternet Explorer 4.0のコンポーネントを使用し、デスクトップ上にWebコンテンツを貼り付けるというものだった。
当時のコンピューターはActive Desktopを活かしきるだけのマシンパワーを備えておらず、パフォーマンスダウンを嫌がるユーザーは最初に無効にする機能の代表格になってしまった。蛇足だがActive DesktopのロジックはWindows Vistaで廃止されている。
Windows 8の革新的な変化は、期待を持つと同時に戸惑いを覚える場面が多い。メトロスタイルやSkyDriveの融合化は、Active Desktopといったドラスティックな改革を連想させるのだ。もちろん現在公開されたのはプレビュー版であるため、この時点で苦言を述べるのが早計なのは筆者も重々承知している。
だが、これらネットワークサービスとの融合を、ユーザーや企業が活かしきれる仕組みを同社が提供しきれるのか首を傾げざるを得ない。この点に疑問を覚えるユーザーは今後の動向に注目すべきだ。
阿久津良和(Cactus)