『海猿』、『ブラックジャックによろしく』などを執筆する人気漫画家 佐藤秀峰氏。インタビュー前編では、「デジタルはひとつの画材」と語った佐藤氏に、自身のこれからの創作のあり方、新しい作品発表の形、漫画出版業界のあり方など、様々な話を訊いた。
新しい仕組みを作りたい
佐藤秀峰 |
――「アナログで仕上げるのは、今連載を手掛けている作品が最後になる」とのことですが、これから、佐藤さんはどのように作品を読者に届けようと試みていくのでしょうか?
佐藤秀峰(以下、佐藤)「『漫画 on Web』というサイトをオープンして、そこをメインの場として作品を公開し、収入を得る仕組みを作っていけたらいいと、試行錯誤しています」
――そういう、新しい作品の発表の仕方に関して、読者からの手応えは感じていますか?
佐藤「雑誌連載では、直接の読者からの反応はないんですよ。青年誌の連載では、単行本が100万部売れていても、ファンレターは月に1通あるかないかなんです。ただ、Webでは皆さんが感想を下さる。雑誌では、誰にどう伝わっているのかわからなかったのですが、Webでは、それがわかるので、とても楽しいですね」
――『漫画 on Web』は、ビジネスとしては成立しそうですか?
佐藤「色々と悩んでいるのですが、昨年までは、これまでの雑誌連載にあたるものが、Webに置き換わるような印象があったんです。だから、原稿料に相当する部分を、Web配信の収入で得ることができれば良いという考えがありました。でも、単行本も売れなくなってきているという現状もあるので、これからどうなるのかという部分はありますね」
デジタルデータがあるからこそ、原画の価値が上がる
――これまでの既存のシステムのように、出版社からの雑誌掲載料や、単行本の印税に頼らない漫画ビジネスというのは成立するのでしょうか?
佐藤「Web配信で収入を得ることができて、雑誌連載という概念が消え、次に単行本収入という概念が消えてしまったとき、収入を得る方法として『原画を売る』という事が成立するかもしれません。今は、漫画をデジタルで全て作ることも、どんどんデジタルで加工することも出来る。でも、そのデジタルデータはいくらでもコピー出来てしまう物なので、本物という意味で原画の価値がこれから上がると思うんですよ。逆に作家自身はデジタルデータを保有すれば問題ないですし。データを安く皆に公開して、本物である原画に値段をつけて売るという事が成立するかもしれないと思います。このような考えや、僕のやっていることは、ビジネスとして素人臭い部分も多いと思うのですが、漫画に関しては出版社について行っても先がないような気がするんです。ただ、僕はまだ、漫画を描きたいので、色々とやってるんです。5年後の業界の姿は誰も予想できないけど、だからこそ、どのようにやってもいいと思うんです。ある意味では、面白い時代といえるかもしれません。それで、間違えていたら、5年後謝ればいいんじゃないかな(笑)」