千葉県八千代市のイトーヨーカドー八千代店。店内一角にあるパソコン教室で、女性が真剣な表情でパソコンに向かって学習している。使用しているのは富士通のらくらくパソコン。キーボード部が色分けしてあるため、遠くからでもひと目でわかる。

イトーヨーカドー八千代店の店内にあるわかるとできる八千代校

わかるとできる八千代校の教室の風景

わかるとできる八千代校でらくらくパソコンを使用する受講者

ここは、ビデオ教材を利用したパソコン教室として全国展開している「わかるとできる」の八千代校。BUNちゃん先生の愛称で親しまれる硲(さこ)弘一氏の講座のわかりやすさと、自分のペースで進めることができるスタイルが評判で、とくに中高年齢層の生徒から高い人気が集まる。

現在、教室数は全国に300以上。これまでに70万人の卒業生を誇る国内最大規模のパソコン教室だ。

わかるとできるでは、昨年から全国100教室にらくらくパソコンを1台ずつ配備した。

八千代校をフランチャイジーとして運営するのは、有限会社たかの。同社では、「わかるとできる」のパソコン教室として、千葉県、神奈川県、茨城県に12校を展開している。受講者の約6割が50代から70代のシニア層だという。

わかるとできるの(左から)中村玲子さん、足達裕子さん、坂梨くるみさん、中山こず恵さん

「らくらくパソコンを教室に1台導入したところ、とくにシニア層からの評判が高い。これを使って学習したいという生徒さんが増えている」と語るのは、有限会社たかの教室事業部東関東地区第1ブロック長の足達裕子氏。

色分けされたキーボードが見やすさが、初心者に人気の理由だ。

教室事業部PCサポート担当の中村玲子氏も、「らくらくパソコンを使った生徒さんの進み具合は、平均に比べて1.5倍ほど早い。キーボード操作でつまずかないことがその背景にある」と語る。

受講時間によっては、らくらくパソコンをほかの生徒が使っていて、利用できない場合もある。

「通常のパソコンを使ってみると、らくらくパソコンの使いやすさを理解する生徒さんが多い。なかには、今日はらくらくパソコンが使えないのならば、別の日にしますというケースもあるというほど」(足立氏)だ。

一方で、パソコン教室の先生は、生徒からパソコンの購入相談を受けることが少なくない。

「一番適したパソコンのスペックを教えても、量販店に行くと、店員に別の安いパソコンを勧められて、思わずそれを買ってしまったという例が多い。価格は安かったが、オフィスソフトが入っていなくて、あとから追加したら結局高くなってしまったという例もある」(中村氏)

実は、初心者が使うパソコンほど、一定以上の性能が必要であるというのが、パソコン教室の先生の考え方だ。

「メモリが少ないために、起動やシャットダウンに時間がかかり、余計な操作をしてしまい、パソコンの動作がおかしくなったというようなケースがその一例。中級者、上級者ほど、少ないリソース環境をうまく使いこなすことができる。そうした手法を知らない初心者こそ、高いスペックが必要」。

一般的に、初心者は価格が安いものでいいという発想がある。だが、パソコンに関しては、そうではないのだ。

わかるとできるでも、2年前から直販の仕組みを用意し、生徒向けの販売を行ってきた経緯がある。だが、量販店に比べて割高感があったため、あまり積極的には勧めていなかったということも、そうした購入時の「失敗」を増やすことにもつながっていた。

有限会社たかの・高野広明社長は、「これまではメーカーが作る初心者向けパソコンは、残念ながら初心者向けとはなっていなかった」と指摘する。

富士通が、らくらくパソコンで用意した製品は、先に触れたように日経PCビギナーズ編集部とのコラボレーションモデルであるが、その製品企画の上では、「わかるとできる」をはじめとするパソコン教室の意見を、数多く取り入れている。富士通の製品企画担当者も20カ所以上も教室を訪問し、インストラクター、生徒の意見を直接聞いた。「わかるとできる」のほか、やはりパソコン教室大手で、イチロー先生でおなじみのハロー! パソコン教室を運営するイー・トラックス(早崎伊知郎社長)からも意見を得た。

コラボモデルに、4GBのメモリを搭載したのも、ノングレア液晶を採用したのも、これらのパソコン教室の現場の意見を取り入れたものだ。

「これまでのパソコンは、量販店店頭に並んだ時のことを考えて製品企画をすることが多かった。画面が鮮やかに見える光沢液晶が並ぶなかで、反射がないノングレア液晶のパソコンを展示すると、どうしても見栄えが悪く、店頭ではマイナス要素となる。光沢液晶は目が疲れるのでノングレアにしてほしいという意見があっても、量販店向けの製品には、採用することはできなかった。また、4GBのメモリも、他社製品とのコスト競争力の観点から、2GBでいいと判断するのが通常。だが、将来に渡って使い続けることができると考えれば、4GBの採用は当然のことと判断した」(富士通・三竹本部長代理)。

通常1年間の保証期間を3年間として、専用の問い合わせ窓口を用意したのも、量販店向けのパソコンの企画では、コスト上昇につながるとして実現しにくいものだった。だが、それも、コラボモデルでは3年間の保証期間を用意し、購入後長期間に渡り、安心して利用できる仕組みとしたのだ。

つまり、コラボモデルは、量販店で売るという視点から作ったパソコンではなく、真に初心者が使いやすいパソコンを作るという観点から開発したものといえる。

株式会社わかるとできる東京本社システム部 課長 古屋敷慎氏

株式会社わかるとできる東京本社システム部・古屋敷慎課長は、「最初に、この話をご提案いただいたときには正直にいうと、疑心暗鬼だった。どこまで大手パソコンメーカーが、初心者のことを考えたパソコンを作ることができるのかに疑問があったからだ。だが、話を進めていくうちに、富士通の本気ぶりがわかってきた。らくらくパソコン向けに専用のサポート体制を敷いたことにも驚いた」と語る。

結果として、らくらくパソコンのコラボモデルは、パソコン教室が取り扱う、量販店では販売されていない特別な初心者向けモデルとしての差別化が可能となり、先生が、生徒に自信を持って勧められるパソコンとなったのだ。

わかるとできるでは、昨年11月に生徒を対象に販売を開始して以降、わずか3カ月で300台以上のコラボモデルを販売したという。

「生徒の習熟度や、どんなことをやりたいかといったことを熟知した先生が、自信を持って生徒に勧めているパソコンがコラボモデル。量販店がその場でやりたいことを聞いて、勧めるのとは意味が違う。また、生徒自身も教室で何度もコラボモデルを使い、使いやすさを身を持って体験しているからこそ、安心して購入している」(わかるとできる・古屋敷課長)

こうした成果を見て、富士通の三竹本部長代理は、「初心者に対する新たな販売手法として、また、それに合致した製品づくりを可能とする販売ルートとして、パソコン教室との連携を深めていきたい」と語る。

らくらくパソコンは、初心者向けパソコンとしての地位を築き始めている。だが、その背景には、パソコン教室との緊密な連携が功を奏しているのだ。