30年にわたってアニメの楽曲などを手がけてきた作曲家・田中公平。その活躍は『ドラゴンボール』から『ONE PIECE』まで多岐にわたる。作曲の手法やポリシー、そこに込められた想いなど、現場からの証言を後進へのメッセージとともに訊いた。
アニメ劇伴を作曲するには
田中公平 |
――劇伴の作曲をされるのに先立って、どのような情報を参考になさいますか?
「とにかく、監督にしゃべってもらうのが一番早いです。例えば、『勇者王ガオガイガー』の監督の米たにヨシトモ君や、『OVERMANキングゲイナー』の富野由悠季監督は、いっぱいしゃべってくださるんですよ。さらに、それに加えて、設定資料も全部いただくんです」
――その段階で入手可能な資料はすべてもらうということですか?
「そうです。キャラクターデザインから、美術ボード、シナリオ。絵コンテができ上がっていれば、それもいただきます。それらを読んで、その作品世界と自分の中にある世界との合致するところを見つけるんですね」
――そのような資料を整え、作曲を始めるときは、まずどこから着手されますか?
「主題歌を依頼されているときは、当然それを最初に作ります。というのも、主題歌ができた後に、監督が絵コンテを描いたり、オープニングの絵をつけなくてはならないので。『完尺』と呼ばれるものをまず作ります」
――ひとつの作品あたり、劇伴の曲数はどのくらいですか?
「今は、だいたい40~60曲くらいかな」
――それだけの作曲の注文が来るのは、放映のどのくらい前なんでしょう?
「劇伴だけなら、だいたい放映の1カ月半ぐらい前ですね。2カ月前っていったら、相当恵まれてる方です。ですから、作曲期間そのものは、1カ月間もないくらいですね。その後、写譜に出したりする時間も必要ですから」
――そういった曲のうちわけは、どのようになっていますか?
「音響監督さんが決めているんですけど、昔はルーチンワークの方が多くて、前の作品と同じようなことをやるんですよ。例えばロボットものなら『喜びA』、『喜びB』、『喜びC』や、『闘いA』、『闘いB』、『闘いC』。ほかにも『苦しい闘い』や、『かっこいい闘い』などです。イマジネーションをすごく必要とするんですよ。やはりそうやって書くとステレオタイプの曲になってしまうんです。それが嫌だなと思って、『どういう場面で使うかを詳しく書いてください』とお願いしています」
――実際に作曲なさるときは、どのような道具をお使いになるんでしょう?
「道具は、頭と紙と鉛筆と消しゴムですね。頭の中で、だいたいできて、ピアノはメロディの確認とか、コードの確認など、ちょっとしか使いません」
――書き上げた後、写譜に回すほかに、どんなことをなさいますか?
「シンセサイザーを使っていたり……。駆け出しの頃は、自分で打ち込んでいたんですよ。今は時間的にそれができなくなって、うちの事務所の担当の者にやってもらってます。そうやって作ってもらった音も使って、スタジオミュージシャンを何十人も集めて、さらにレコーディングします。指揮も自分でするんです。そうやって全部録り終わったら、トラックダウンして完了ですね」
――場合によっては、当初の予定より放映が長期間にわたり、劇伴を作り足さなくてはならないこともありますよね。
「それは、喜んでやらせてもらいます。ただ、主題歌を替えるっていうのが、難しいんですよ。初めの主題歌にすべてを出し切っていますからね(笑)。『サクラ大戦』のときがそうだったんですが、最初に書いた『檄!帝国華撃団』が大ヒットして『サクラ大戦2』もそれでやりたいと。ところが、『サクラ大戦3』になったら、今度は巴里だから替えてくれと言われました。プレッシャーの中、がんばって『御旗のもとに』っていうのを書いたんですけど、最後には、『サクラ大戦V』で、さらにいいのを書いてくれと。まあ、なんとか『地上の戦士』っていうのを書いたんですけど」