既に報じられている通り、いよいよAMDの45nm SOIプロセスを使ったDeneb(開発コードネーム)こと「AMD Phenom II X4」の発売が開始される。今回はこの発売に先立ち、評価キットを入手することが出来たので、その性能などをまとめてレポートしたい。

Product Specification

Photo01: TDPは125Wとちょっと高めだが、それでもPhenom X4 9950の140Wよりは下がっている。

まず、新製品の特徴と公表された詳細をまとめておきたい。今回発売される製品は「Phenom II X4」というブランド名になり、920と940(Black Edition)の2製品がまずは用意される(Photo01)。両製品の特徴は表1に示す通りだ。とにかく意欲的なのはその価格設定で、対抗馬となる「Intel Core i7」はローエンドの920でも$284、ミッドレンジの940で$562といったところ。実売価格で見ても、920が大体\32,000前後、940は\60,000といったあたり。「Inte Core 2 Quad」にしても、Q9650が\54,000前後、Q9550が\32,000といったあたりになっており、価格的にはCore i7-920とかCore 2 Q9550あたりが競争相手になりそうだ。

■表1
モデルナンバー 940 920
動作周波数 3.0GHz 2.8GHz
HT速度 3.6GT/s
ソケット Socket AM2+
コア電圧(V) 0.875~1.5V
Max Temp(℃) 62
TDP(W) 125
L2キャッシュ 512KB/Core
L3キャッシュ 6MB
価格 $275 $235

内部構造としては、既に発表されているShanghaiコアのOpteronをデスクトップ向けにした製品、ということになる。ダイサイズは258平方mm、トランジスタ数は7億5,800万個と発表されており、従来の65nm SOIのPhenom X4ではそれぞれ285平方mm、4億5,000万個と発表されていたから、ダイサイズをわずかにシュリンクしつつ、トランジスタサイズを大幅に増やした事になる。もっともこの増分の殆どはL3キャッシュに費やされている訳だが。

さて、そのPhenom II、性能面では従来のPhenomと比較して最大20%以上の性能の伸びがある、としている(Photo02)。同一周波数で比較した場合でも、IPC Improvementと4MB Additional Cacheの2つの効果で10%弱の性能アップが期待できる事になる。

Photo02: 伸びの内訳は、内部の改良によりIPCの若干の向上(~3%)、最高動作周波数を3GHzに引き上げ(~11%)、L3キャッシュの大容量化(~6%)、DDR3-1333メモリの利用(~4%)といったところ。ただDDR3-1333は後述する、将来のSocket AM3対応Phenom IIの話で、現時点では無縁である。

ただこうした性能のアップよりも、実際に望まれているのは低消費電力化であろう。AMDはIEDM 2008で45nm SOIのトランジスタの内部構造を発表しており、これが消費電力低下に繋がる大きな鍵となっていると見られる。Phenom IIではCool'n'Quiet(CnQ)がVersion 3.0に上がっているが(Photo03)、アイドル時からフルロード時までで30~50%程度の消費電力低減が実現できている、としている。

Photo03: ちなみにCnQ 2.0との大きな違いは、P-Stateが追加されている事だそうである。また最低動作周波数が800MHzに引き下げられた(従来のPhenomの場合、こちらに詳細が示されているが、最低動作周波数は900MHz~1.3GHzになっていた。要するに定格動作周波数の半分である)のも、変更点の一つだろう。

この低消費電力は、そのままオーバークロック動作のヘッドルームとして機能することになる。Phenom IIの場合、空冷のままでも4GHz近い動作が狙える(Photo04)という点は大きなウリであり、これを支える新しいAMD OverDrive 3.0も現在開発中であるそうだ(Photo05)。

Photo04: 空冷で3.9GHz、液体窒素を使っての6.3GHz動作のビデオも公開されており、このあたりのヘッドルームの大きさにはかなり自信があるようだ。勿論ながらこれは自己責任での設定ではあるのだが。

Photo05: こちらの一般公開時期は現時点では未定(一応第一四半期中を予定)であり、また細かな仕様もまだ固まっていないとか。

ちなみに今回リリースされる製品は、あくまでSocket AM2+に対応した製品であり、DDR3に対応するSocket AM3に準拠した製品はこれからということになる。もっとも現時点ではまだSocket AM3対応マザーボードも存在していないので、CPUだけAM3対応を急いでも仕方が無い話ではあるが(Photo06)。

Photo06: 現在のPhenom IIはSocket AM2+対応なので、従来のマザーボードにそのまま装着して使う事になる。

ついでにプラットフォームについても少し触れておきたい。Phenom X4の投入時に発表されたのが「Spider Platform」であるが、Phenom IIではこれが「Dragon Platform」に進化した(Photo07)。もっともAMDのPlatformは、「これを組み合わせる事を推奨する」という程度の緩い縛りであり、例えばRadeon HD 4800以外のグラフィックカードでは動かないとか、そういった話ではない。またチップセットにしても、Socket AM2+である以上(BIOSの対応さえ行われれば)Socket AM2/Socket AM2+のマザーボードでそのまま利用できる事は保障されている。

Photo07: ちなみにチップセットはAMD 790FXもDragon Platformに含まれる模様。それ以外の、AMD 780ファミリーとかAMD 790Xなどは対象外だそうだ。