JRグループの駅で最も標高の高い駅は小海線の野辺山駅。私鉄にこの高さを超える駅はない……と思ったら、あった。標高は2,450mで、野辺山駅の1,345mより1,000m以上も高い。

ところがこの駅、鉄道事業法で定められた駅で、現在も営業しているというのに、やって来る乗り物はバスばかり。廃線でも建設途中でもなく、初めからレールがなかった。今後もレールが敷かれることはなさそうだ。

鉄道の駅だけどバスしかこない。なんとも不思議な日本一高い駅の名前は室堂駅。富山県中新川郡立山町にある。立山黒部アルペンルートの経路のひとつで、駅の裏手から立山連峰を望める。開業は1971(昭和46)年。当時はバスターミナルだった。それが1996年に鉄道の駅となった。しつこいけれど、鉄道の駅になってもレールが設置されたことはなく、当時もいまもバスしか走っていない。

室堂駅

立山トンネルトロリーバス

どうしてこの駅が鉄道事業法で「鉄道駅」とみなされているのだろう。その理由は、バスが通常のバスではなく、トロリーバスだからである。運営会社は立山黒部貫光。室堂駅で案内される路線名は「立山トンネルトロリーバス」。室堂駅と大観峰駅を結んでいる。

この3.7kmの路線は、法規上は鉄道路線となっている。鉄道事業法における鉄道事業の定義は「他人の需要に応じ、鉄道による旅客又は貨物の運送を行う事業(第2条)」となっている。条文の中の「鉄道」は、専用の軌道という意味。一般道路ではなく、自社専用の走行路を持っていれば、鉄のレールだろうとコンクリートだろうと、法的には鉄道と解釈される。

この法律上の鉄道については、鉄道事業法施行規則の第4条で説明されている。鉄のレールで走る「普通鉄道」のほか、モノレールの「懸垂式鉄道」「跨座式鉄道」、新交通システムの「案内軌条式鉄道」、ケーブルカーの「鋼索鉄道」、リニモや中央新幹線のような「浮上式鉄道」、そして、トロリーバスの「無軌条電車」と、「これら以外の鉄道」となっている。

室堂駅が開業した1971年は、立山トンネルを普通のバスが走っていた。しかし環境保全のために1996年にトロリーバスに転換された。立山トンネルトロリーバスは、専用のトンネル内で、バスに電力を供給する設備を備え、身内や自社の社員ではなく、よそからやってきた観光客を運ぶ。だから鉄道事業である。電気で動くバスは「電車」というわけだ。実際にこのバスに乗ると、運転席の後ろの電光掲示板に「レールはありませんが電車の仲間です」と説明が表示される。

要するに、「専用の線路設備があり、他人のために人や物を運ぶから鉄道ですよ」というわけだ。似たような業態にロープウェイがあるけれど、こちらは鉄道事業法でも扱うものの、「索道」として、鉄道とは別の分類となっている。ただしロープウェイの乗り場も「駅」という。索道を含めると、日本で一番高い駅は中央アルプス観光が運行する駒ヶ岳ロープウェイの千畳敷駅となる。こちらは標高2,611.5mで、室堂駅より161m高い。でも前述のように、こちらは「鉄道駅」とはならない。