映画『ALWAYS 三丁目の夕日'64』が21日より全国公開される。東京オリンピック開催の頃が舞台で、開業したばかりの東海道新幹線が登場する。一方、鉄道ファンとしてはもうひとつの見所がある。ある登場人物が乗るキハ58系「急行アルプス」だ。当時の1等車(いまでいうグリーン車)の特徴から、当時の編成を忠実に再現しているとわかる。

映画『ALWAYS 三丁目の夕日'64』は21日より全国東宝系ロードショー

「アルプス」はその頃、新宿~松本間に3往復設定され、キハ58系気動車の6両編成だった。新宿~辰野間では、新宿寄りに「赤石」を2両連結していた。このうち4~5号車が1等車だった。

この1等車は現在のグリーン車に相当する。「アルプス」は地方へ向かう急行列車にもかかわらず、1等車を2両も連結していた。スクリーンでもそれがはっきりわかる。なぜなら当時の1等車は、窓の下にグリーンのラインがあり、遠目に見ても判別できたからだ。

1964年当時はまだ等級制だった

映画の舞台となった時代は、まだ「グリーン車」ではなく「1等車」と呼ばれていた。その違いは料金の考え方だ。普通列車の場合、1等車の運賃は2等車の2倍。急行・特急料金も2倍で、さらに2割の通行税が加算された。いわゆる"ぜいたく税"だ。

現在は運賃、急行・特急料金は共通で、グリーン車に乗る場合はグリーン料金が加算される。かつてグリーン料金には通行税が含まれていたが、こちらは消費税制度が始まったときに廃止された。消費税は内税となっていて、税率が下がったため、グリーン料金は値下げされた。

ところで、この等級制は1960年に改定されている。それまでの国鉄は3等級制で、普通車は3等車だった。1等車は東海道本線の特急列車「つばめ」「はと」の最後尾の展望車などに連結され、本当に限られた最高級の車両だった。しかし1960年、「つばめ」「はと」が電車に置き換えられたため、1等車を連結する列車はなくなった。これがきっかけで等級が見直され、旧1等車と旧2等車は1等車に統合、旧3等車を2等車と呼ぶようになった。

グリーンのラインは"新1等車"のしるし

3等級制だった頃は、1等車に白いライン、2等車に青いライン、3等車に赤いラインが入っていた。その後、3等車の赤が廃止、2等車の青も廃止され、1等車と同じ白帯に。そして2等級制になった後、新1等車にグリーンのラインが入った。現在のグリーン車の名前は、このグリーンのラインに由来する。ちなみにグリーン車の四つ葉マークは、2等級制からグリーン車になったときに設定された。

上越線を走行する165系の急行電車。先頭から4~5両目がグリーン車だと、遠くからでもわかる。1978年撮影(写真提供 : 「昭和の残像 鉄道懐古写真」著者・松尾かずと氏)

国鉄時代、1970年代までのグリーン車は窓下にグリーンのラインがあったため、遠くから列車を見たときにグリーン車の位置がはっきりわかった。例外は東海道新幹線で、こちらは青と白の編成美を考慮してグリーンの帯は使われなかった。在来線のみに使われたグリーンの帯は1978年から順次廃止され、現在のグリーン車の目印は四つ葉のグリーンマークだけとなっている。

車両記号では、グリーン車の記号は「ロ」、普通車の記号は「ハ」となっている。映画に登場する急行「アルプス」のグリーン車も「キロ58形」。これは3等級制時代の名残で、1等車から順に「イ」「ロ」「ハ」となっていたからである。「イ」がなくなってしまったので、「ロ」と「ハ」が残った。

現在、JR東日本の新幹線E5系「グランクラス」をはじめ、グリーン車よりワンランク上の座席も登場したが、車両型式はグリーン車に分類されたまま。「イ」の復活とはならなかった。

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