駅の改札口とホームは一体だ。乗客は駅に着いたらすぐに列車に乗るためにホームへ行きたいし、列車から降りた客も速やかに駅から出て目的地に行きたい。ところが、上越線のある駅では改札口からホームまでの距離が481mも離れ、途中に486段もの階段がある。いったい、どうしてこんな構造になったのだろう。

486段という、山寺の参道みたいな階段を持つ駅。それは上越線の土合駅だ。土合駅では、上り線ホームだけが駅舎のそばにある。しかし、下りホームは階段をずっと下った地下にあるのだ。駅舎にも「日本一のモグラ駅」の表記がある。そんな土合駅に行ってみた。

上越線の土合駅(左) 玄関には「日本一のモグラ駅」の看板がある(右)

上りホームはすぐそこ、下りホームは階段の底

土合駅は谷川岳の麓にある駅。トンガリ屋根が特徴のカワイイ姿。駅舎だけ見れば、デザイン以外に変わったところがないように見える。改札設備はあるけれど現在は無人駅だ。その改札口のそばの掲示板に「下りホームは486段の階段を下りますので10分要します」という注意書きがあった。その改札口を通って右に行くと、すぐに上りホームが見える。

上りホームは地上にある

改札から下りホームは10分かかる!

では、下りホームへ行ってみよう。改札口を通って左へ。通路を進んでもう一度左に曲がると、予想より長い通路がある。まるで建て増しを重ねた旅館の廊下みたいだ。この通路は橋になっていて、国道291号線を跨ぎ、山肌に突っ込んでいる。その山の中に進むと、ポッカリと階段が口を開けていた。なだらかで真っ直ぐな階段だ。

実際に降りてみると、意外と歩きやすい。もっともこれは下りだから。上りはかなり大変だろうと思う。階段は5段ごとに広くなっていて、10段ごとに何段目かを示す数字が書かれている。時々ベンチがあって休憩も可能。「ここが階段のまん中です」という文字に励まされた。すると突然、ゴーという音が聞こえて、前から風が吹き上げてきた。下のホームを列車が通過したらしい。観察しながら歩いたせいか、少し時間がかかって20分でホームに着いた。この下りホームは、全長約14.5kmの「新清水トンネル」の中である。ホームと駅舎の高低差は約70mで、だいたい15~20階建てのビルの高さだろうか。

階段の上から見下ろす

階段の下から見上げる

もともと上越線は単線で建設されており、当時の土合駅は地上のホームしかなかった。上り列車も下り列車も地上のホームを使用していたという。しかし、鉄道輸送の需要が高まって上越線を複線化するときに、下り線は専用の新清水トンネルを掘った。そこで土合駅下りホームはトンネルの中になったというわけだ。

トンネルの中の土合駅下りホーム

土合駅は谷川岳の登山口として利用されていたため、「登山者ならこのくらいの階段は大丈夫」という考えがあったのかもしれない。現在の土合駅は無人駅となっているが、有人駅時代は下り列車に限り改札を発車10分前に終了した。市販の時刻表にも欄外に同様の注意書きがあった。

なお、486段の階段を「山寺の参道みたい」と書いたが、日本で最も長い階段は熊本県の金海山大恩教寺釈迦院に通じる階段で、なんと3,333段。標高差600mとのことだ。「日本一の階段駅」も、お釈迦様には敵わなかったようだ。