美しい山を背に走る列車はそれだけでも絵になるが、撮影の真の楽しみはその先にある。山をとりまく複雑な大気、雲、光。その一期一会の自然現象を切り取るように、列車が通過する。「列車を題材に、大気を撮る」というマシマ・レイルウェイ・ピクチャーズの長根広和さんに、その楽しさをうかがった。

快晴・順光は基本だが、つまらない!?

基本の例。JR上越線上牧 - 水上。左奥は谷川連峰。これを貫くのが「国境の長いトンネル」こと清水トンネルだ

鉄道の有無に関わらず、山そのものを美しく撮影する基本条件は「早朝・快晴・順光」である。「広角レンズだと山が小さくなってしまうので、135~200mmくらいの中望遠で、山を引き寄せるのがいいですね。以上! 」と、あっさり基本テクの解説を終わらせた長根さん。このような順光の写真は、観光写真コンクールやストックフォトに向いている。必ず覚えておきたい超基本だ。「でも、僕が山と列車の写真を撮る楽しみは、ちょっと違うんですよね」。では、応用編に続こう。

名峰をとりまく雲と、夕日に注目!

三島 - 新富士間の有名撮影地で、8月の14時頃

応用その1は、雲。名峰と呼ばれるような目立つ山の周辺では、平地に比べて複雑な気流が発生する可能性が非常に高い。「僕が山を撮る楽しみの1つは、複雑な気流によって発生するおもしろい雲を撮ることなんです」。夏の富士山は、意外に姿を見せないもので、上の写真の撮影時も入道雲はすぐに崩れて、日は陰り、富士山は隠れてしまったそうだ。「一時も同じ形に留まらない一期一会の入道雲。そこに一番撮りたかったN700系が来ました。うれしいですよ」。

JR五能線川部 - 藤崎

応用その2は、光。「夕方の光を利用して、山を普通にではなく、遊びを効かせて撮るのも僕の楽しみです」。日中は空気が霞んでいた日でも、日の入り間近になると再び空気が澄んできて、山が姿を見せることがある。一日中山が見えなかった日でも、夕方にはもう一度、山のある方向を見てみよう。

加えて、夕方の光はドラマチックである。「雲は自分ではどうにもできないですが、光なら、太陽が動く位置や時刻を調べて、自分の行動を合わせることによって、自分の意志を反映させることができると長根さんはいう。「きれいな日の出や日没を見たときには、そのときには撮れなくても、日付、時刻、場所をメモしておいて、次のロケハン、そして撮影へとつなげましょう」。このように、長根さんが写真を撮る楽しみとは、大気が織りなす様々な現象と遭遇し、それを鉄道と共に切り取ることだそうだ。

鉄道は完全におまけになってしまった今回のインタビュー。カメラと画像ソフトの進化で、列車そのものの撮影にプロアマの垣根はなくなったといってもよい。だからこそ、アウトドアで撮る写真の要素として欠かせない「大気現象の美しさ」を確実に捉えることが、これからの鉄道写真家の重要な仕事になるのだろう。

この連載も今回で最終回。ということで、今回ご登場いただいた長根さんとマシマ・レイルウェイ・ピクチャーズからのメッセージをお届けする。

40回にわたる「プロに学べ! 鉄道写真の撮り方」、いかがでしたでしょうか。鉄道写真の初歩的なことから、時にはハイレベルなテクニックまでお伝えしてきましたが、これはまだまだほんの一部にすぎません。鉄道写真は本当に奥の深いジャンルです。
このコーナーはこれで終了してしまいますが、今後も鉄道写真の魅力をあらゆる方面から発信していきたいと思っております。短い期間でしたが、お付き合い本当にありがとうございました。みなさん、素晴らしい鉄道写真撮りましょうね! 今度は線路端でお会いしましょう!
鉄道写真家 長根広和
マシマ・レイルウェイ・ピクチャーズ