先週は東京の新路線構想に動きが2つ。2017年度予算で葛飾区が貨物線を利用したLRT構想に調査費を計上した。南北方向の鉄道路線を整備し、地域の一体化をめざす。地下鉄よりも投資額が小さいから、実現の可能性は高そうだ。

葛飾区の鉄道路線と主要道路。赤線が新金貨物線。赤い点線が地下鉄延伸構想。環状7号線沿いにメトロセブン構想がある

葛飾区は南北交通の鉄道を検討

2月6日、葛飾区は平成29年度当初予算案を発表した。テレビの関東ローカルニュースとして報道されたほか、翌日の全国紙東京版に掲載された。妊婦さん向け無料バス乗車証「マタニティパス」の発行などの子育て支援、伝統工芸などの産業振興の取組み、モンチッチなどのキャラクターを生かした地域活性化などの他に、区内の南北を結ぶ鉄道路線について検討するという。調査費として2000万円を計上するという。

この調査費の中には、新金貨物線を区内の南北を結ぶ新しい交通機関として検討するほか、地下鉄8号線・11号線延伸、メトロセブン構想の調査費用も含まれる。

新金貨物線は総武本線の支線で、総武本線小岩駅と常磐線金町駅を結ぶ。開業は1926(大正15)年と歴史が長い。当時は総武本線がまだ両国橋駅を起点としており、都心に直通していなかったため、千葉方面と都心方面を結ぶ貨物列車は新金貨物線を経由した。総武本線~新金線~常磐線と経由して、隅田川を渡っていた。

地下鉄8号線・11号線延伸計画は、葛飾区内の京成押上線四ツ木駅付近を結節点として、東京メトロ有楽町線・半蔵門線を延伸する計画だ。有楽町線はさらに葛飾区内を亀有へ延伸し、千葉県野田市へ延伸する構想がある。半蔵門線も葛飾区内をさらに延伸し、金町経由で千葉県松戸市方向へ延伸する構想がある。

メトロセブンは都道環状7号線沿いの軌道系交通構想だ。全体としては江戸川区葛西臨海公園駅から葛飾区青戸・亀有、足立区北綾瀬・西新井、北区赤羽を結ぶルートとなる。葛飾区内では新金貨物線とほぼ並行する形になる。新小岩操車場付近と亀有付近で、新中川の対岸にあたる。

しかし、新金貨物線以外の3ルートは他の自治体と協議が必要だ。葛飾区単独では動けない。新線建設となるため、建設費も膨大で、地質調査、環境アセスメントの手続きなど時間がかかる。それに比べると新金貨物線の旅客線化はすでに線路があるし、ほぼ葛飾区内のため、決定は早そうだ。費用も駅施設と車両の調達程度で済む。

総武本線との分岐点は新小岩~小岩間の新小岩操車場にあり、実質的には新小岩操車場~金町間の6.6kmだ。新小岩操車場は新小岩駅側から分岐しているため、上記の貨物列車は新小岩操車場で機関車の前後付替え、貨車の入替えを行った。貨物の荷役もあったけれど、貨物駅としての機能は廃止されている。貨物時刻表によると、現在は定期貨物列車が1日4往復、臨時貨物列車が1日1往復、計5往復が設定されている。

新金貨物線は総武本線を分岐後、新中川を渡り、川に沿って北上する。沿線はほぼ住宅街で、途中にはプレジャーボートの保管場、テニスクラブなどがある。南北のちょうど中間付近で京成電鉄本線の下を通り、付近に京成高砂駅がある。京成本線の他に金町線・北総線が分岐する結節点だ。西側の青砥駅は京成押上線が分岐する。

現在は単線だけど線路の両側に余地も多く、すれ違い設備もつくりやすい。複線化が望ましいけれど、等間隔にすれ違い設備を設ければ、北行き・南行きともに10分間隔程度の運行は可能だろう。小岩は江戸川区だし、新小岩操車場の分岐形態を見ると、葛飾区が新金貨物線を旅客化する場合は、新小岩~金町間の運行になると考えられる。

課題があるとすれば、新金貨物線の新小岩操車場から北の地域が江戸川区にかかっている。複線化するにしても、駅を設置してすれ違い設備を設けるにしても、江戸川区との協議が必要だ。もっとも、この付近は小岩駅と新小岩駅の中間地点で、線路があっても駅がない。駅を設置するなら江戸川区にとって悪い話ではない。

沿線に大規模な集客施設がないけれども、新金貨物線の旅客化には大きな意味がある。葛飾区の南北を結び、行政や経済の一体化を促進する効果が期待できるからだ。葛飾区の鉄道は、東西方向に常磐線、京成本線、総武線がある。ここに京成押上線、京成金町線、北総線を加えると、区の中央部の青砥・高砂エリアから5方面に放射線ができる。しかし、北の市街地の亀有と、南の市街地の新小岩を結ぶ軌道系交通がない。

江東区も豊洲から住吉までの地下鉄8号線延伸を構想しているし、越中島貨物線を使ったLRT構想もある。越中島貨物線は新金貨物線ともつながっているから、葛飾区と江東区が協業すれば南北方向の長いルートができるだろう。江東区もまた、南北の鉄道路線がなく、東西方向の路線ばかりだ。地域の一体化を進めたいと考えている。

南北方向の交通機関の整備は、地域を一体化する意味で重要だ。たとえば横浜市北部の青葉区と都筑区は、地下鉄ブルーラインが開業するまで横浜駅へ直行できる鉄道路線がなかった。このあたりはバスで東急田園都市線の駅に向かい、東京へ通勤・通学する世帯が多かった。横浜に住みながら東京の経済圏で生活する地域だ。そのため、青葉区・都筑区・(新)緑区に分割される前の旧緑区は「東京都緑区」と揶揄された時期もある。

現在もこの地域は東京都との結びつきが強い。しかし南北方向の地下鉄ブルーラインがあざみ野駅まで延伸されたため、田園都市線沿線から横浜へ向かう流れができた。国道246号線元石川交差点の立体交差化も功を奏し、港北ニュータウン地域も新都心として発展している。首都高速神奈川線も横浜北線が来月18日に開業予定、横浜環状北西線も建設中だ。「横浜に住み、横浜で学び、横浜で働き、横浜で遊ぶ」理想の形態に近づいている。

南北の交通を整備して地域を一体化する。葛飾区や江東区がめざすところも同じだろう。鉄道ファンとしては、新金貨物線や越中島支線のLRT化を応援したい。地下鉄と違って景色が見えるし、電車の撮影もできる。街歩きも楽しそうだ。計画の実現が楽しみだ。