いまや大都市以外に黒字路線はない。地方は赤字線ばかり。今期は黒字でも、累積赤字が残っていたり、沿線自治体の支援込みの業績だ。しかし赤字路線だからと廃止するわけにもいかない。鉄道は公共交通機関である。地域に必要とされ、社会に貢献する義務がある。だからこそ国や自治体が支援する。

養老鉄道は桑名駅から大垣駅経由で揖斐駅まで、57.5kmの路線を運営する

2016年第10週(2月29日~3月6日)は、3つの赤字鉄道路線に対して報道があった。養老鉄道、青い森鉄道、日高本線だ。それぞれの共通のキーワードは「上下分離」だ。これからローカル線問題を知りたい人には参考になる事例集となりそうだ。

養老鉄道は自治体保有に

養老鉄道については、運営形態変更について沿線自治体と近畿日本鉄道(近鉄)が3月1日に合意した。沿線自治体が主体の新会社を設立し、近鉄から線路施設を無償で譲り受ける。運行会社の養老鉄道は存続し、引き続き列車の運行と営業を担当する。養老鉄道は近鉄の100%出資子会社だ。しかし、新会社が近鉄から株式の一部取得を検討するという。

養老鉄道はもともと近鉄養老線だった。しかし年間で約14億円も赤字を出していたため、、近鉄が沿線自治体に運行支援を求めた。その結果、2007年に養老線を上下分離し、近鉄が線路施設を保有したまま、列車の運行については近鉄の子会社として「養老鉄道株式会社」を設立。沿線自治体は養老鉄道に対して一定額の金銭的支援を実施する形となった。

つまり、養老鉄道は大企業で黒字の近鉄運営のままでは国や自治体から支援を受けにくいため、金銭的支援の受け皿として作られた。養老鉄道は運行ダイヤを見直し、近鉄直通でなくなったことから初乗り運賃分の増収などが幸いして、初年度赤字を9億円にとどめた。5億円分の経営努力といえる。

今回の合意内容は、近鉄の経営撤退の意向を受けた協議の結果だ。近鉄は軽便鉄道規格の内部線・八王子線について廃止またはバス転換を提案し、2014年に「四日市あすなろう鉄道」を設立。公設民営化による上下分離化を実現した。養老鉄道の新体制もこれと同じ枠組みだ。合意内容には、近鉄が一定額の経営安定資金を拠出する。ただし今後、近鉄は養老鉄道の赤字補填は実施しない。赤字はすべて沿線自治体が補填する。

青い森鉄道は国が年間6億円を支援

青い森鉄道は、東北新幹線の開業を受けて設立された第3セクター鉄道だ。JR東日本から経営分離された東北本線の青森県内区間を運行する。隣のIGRいわて銀河鉄道と違って、発足時より公設民営方式で上下分離化された。線路施設は青森県が所有し、列車の運行と営業を青い森鉄道が担当する。青い森鉄道は列車を運行し、その線路使用料を青森県に支払うというしくみだ。

青い森703系。青い森鉄道は3月26日にダイヤ改正を行う

複線電化の東北本線も、主力の特急列車がなくなれば過剰投資のローカル線となってしまった。運行の赤字について、青森県が線路使用料減免などの形で支援していた。一方で、青森県はJR東日本の夜行列車やJR貨物の列車から線路使用料を得て、線路の保守や青い森鉄道の支援にあてた。

ところが、JR東日本は車両老朽化を理由に寝台特急「北斗星」を廃止。北海道新幹線開業で寝台特急「カシオペア」も廃止する予定だ。JR東日本は「カシオペア」を団体ツアー専用列車として復活させたい意向と報じられている。しかし運行本数は激減するだろう。

夜行列車からの線路使用料は青森県にとって鉄道存続の重要な財源であり、青い森鉄道支援の財源でもある。そこで青森県は夜行列車廃止反対を主張していた。しかし、青森県を深夜に通過し、沿線市民に縁のない夜行列車の運行継続要望には説得力がない。

青い森鉄道は首都圏と北海道を結ぶ貨物輸送にとっても重要な路線だ。ところがこの列車も青森県には縁がない。縁がない貨物列車のために、複線電化路線の維持費を負担する必要があるだろうか。地域住民の旅客輸送なら、単線非電化でも充分な運行本数だ。電化複線のうち、電気設備と線路1本は返納してもいいくらいだ。いや、いっそバス転換して、鉄道から手を引くという方法もある。

そうなっては、北海道との物流に支障がある。そこで、政府与党の検討委員会は3月1日、JR貨物の線路使用料を約6億円増額する形で青い森鉄道支援案を決めた。今後は国と県との調整になるという。実現すれば、青森県は青い森鉄道の線路使用料を全額免除する方針だ。

一部区間不通の日高本線、非公式に上下分離案

JR北海道は北海道新幹線に力を入れる一方、在来線の困窮が伝えられた。その中で最も行き詰まった路線が留萌本線と日高本線だ。留萌本線は2016年度中に留萌~増毛間の廃止方針が報じられた。この区間は現在、雪崩の怖れがあり、運休している。このままお別れ乗車もできずに廃止では悲しい。

日高本線は2015年1月の土砂流出以来、鵡川~様似間が不通となったままだ。復旧費用は最少でも約26億円、今後の安全のために万全な整備をすると約57億円という。さらに2015年9月の台風被害による路盤流出があり、この区間の復旧も約8億円と試算されている。

JR北海道の状況を考えれば、赤字の日高本線に対して総額65億円以上の復旧費は拠出しにくい。一方、沿線自治体は復旧させてほしい。そこで2月28日に「JR日高線沿線自治体協議会」が開催された。3月2日の北海道新聞ニュースサイトによると、その事前協議でJR北海道から沿線自治体側に「上下分離案」が示されたという。沿線自治体が線路施設を保有し、JR北海道は運行だけを担当する。

ただしこれは「選択肢の1つ」であり、協議では正式な提案はなかったとのこと。しかし、JR北海道が自社内のプランの中で「上下分離」案を検討していることはわかった。JR北海道はすべての路線が赤字と公表した。廃止もしくは上下分離化の提案は、他の路線でも検討中だと考えて良さそうだ。

鉄道路線はなぜ赤字か。その理由のひとつとして、事業者の設備負担がある。一般道路は国や自治体が建設し管理する。そのおかげで私たちは無料で歩いたりマイカーを走らせたりできる。バスも一般道路に使用料を払っていない。自動車やガソリンに関する税金で間接的に支払っているとはいえ、負担額は小さい。

空港も空港会社が維持管理し、航空会社は使用料を支払う。船舶も港に使用料を払うだけだ。鉄道だけが線路の建設費用や維持費用を負担している。交通機関としては不利な扱いといえる。鉄道路線の上下分離化は、鉄道会社を優遇する施策ではない。むしろ鉄道だけがいままで特殊な形態であり、他の交通機関の常識がやっと鉄道にも適用されるようになったとみるべきだろう。