真剣に恋をする男の姿は滑稽で、せつなくて、男性諸氏は笑いつつも共感し、女性は母性を感じて応援したくなる。渥美清はそんな男を演じさせたら超一流の役者だ。それは『男はつらいよ』で誰もが認めるところ。『男はつらいよ』のTVシリーズ放送の前年に公開された『喜劇 団体列車』でも、渥美清が恋する駅員を演じている。

映画のタイトルになった団体列車はキハ58系(写真はイメージ)

舞台は四国。蒸気機関車から気動車に切り替わる時代だ。宇高航路・仁堀航路という2つの鉄道連絡船も登場。珍しい車両も大きく映る。いまとなっては資料価値の高い作品だ。

思い、思われ…、奮戦するも、じつは幸せな独身男

『喜劇 団体列車』の公開は1967(昭和42)年。その半年前に公開された『喜劇 急行列車』に続くシリーズ2作目にあたる。瀬川昌治監督、舟橋和郎脚本など、スタッフもほぼ同じ。次作『喜劇 初詣列車』と合わせて、「喜劇列車シリーズ3部作」と呼ばれている。もちろん主演はすべて渥美清。ただし役柄は異なる。『喜劇 急行列車』の主人公は夫であり、父親でもある寝台特急の車掌が、初恋の女性と再会し、ときめくという話だった。

『喜劇 団体列車』の主人公、山川彦一(渥美清)は独身。四国の小駅の駅員だ。マドンナは2人もいて、シングルマザーの教師、志村小百合(佐久間良子)と、お見合い相手の日高邦子(城野ゆき)。彦一はイケメンではないけれど、実直な性格でモテモテである。1作目より寅さんのイメージに近いけれど、じつは幸せで、本人はそれに気づいていないという役柄だ。

母(ミヤコ蝶々)と彦一は2人暮らし。四国の伊予和田駅に勤務している。ある日、列車の車掌から迷子の男の子を託され、仕方なしに親元へ連れて行く。男の子の母親、吉村小百合と出会い、母子家庭と知ると、彦一にほのかな恋心が芽生える。そんな彦一の気持ちとは別に、母や近所の人々は彦一の見合いを進める。相手は国鉄勤続40年で退職した駅長(笠智衆)の娘、邦子だった。

しかし、団体旅行の勧誘担当である彦一は、対面しても見合いの席とは気づかない。邦子は実直な彦一に好意を寄せる。しかし当の彦一は、助役試験の勉強を理由に小百合の家に通い続ける。彦一の恋の行方はいかに……。

転んだり落ちたり、勘違いで会話が進んだりと、笑いの典型的な場面を散りばめつつ、彦一のまっすぐな気持ちに共感する。それだけに笑いどころが際立つ。いまとなっては古い映画だけど、笑いのツボは現代にも通じる。そしてロケ地・四国の景色の美しさ。いまも変わらぬ景色だろうか? 松山、宇和島、奥道後へと旅立ちたくなる映像だ。

佐久間良子の登場シーンに謎の車両が……

彦一が勤務している「伊予和田駅」は架空の駅。ロケ地となった駅は予讃線の堀江駅だ。ヒントは案内掲示の「道後温泉バスのりかえ」「呉行きフェリー連絡口」だ。この呉行きフェリーとは、国鉄の鉄道連絡である。仁堀航路といって、愛媛県松山市の堀江港と広島県呉市の仁方港を結んでいた。本四連絡船といえば宇高航路が知られているけれど、宇高航路は四国の東寄り、仁堀航路は四国の西寄りで本州と連絡していた。堀江駅は現在は無人駅となっているけれど、当時は10人以上の駅員が詰めていたようだ。

伊予和田駅を発着する列車は、蒸気機関車牽引のスハ43系客車列車と、キハ58系急行形気動車だ。国鉄が協力したためか、どちらもピカピカに磨かれている。もしかしたら両方とも新車かもしれない。グリーン車キロ28を含む急行形気動車の勇姿、キハ58形のヒゲ付き顔もちらりと見られる。中間に荷物車を入れて4両で走るキハ20系も頼もしい。蒸気機関車はC58形と9600形が登場する。来年春、東北地方のJR釜石線でデビューする「SL銀河」もC58形だ。『喜劇 団体列車』を見て、往年の姿と見比べてもいいかもしれない。

面白い車両として、序盤、小百合の登場シーンの背景に妙な形の気動車が出てくる。101系電車を思わせる平たい顔にヘッドライト1灯。これはキニ15形だろう。キロハ18形を改造した荷物専用の気動車だ。無理やり運転台を作ったために、平たい顔になったというわけだ。同種の改造は四国内では10両ほど。うちキニ15は2両しかなかった。現在も模型で紹介されているけれど、ほとんどは首都圏色。ところが劇中では一般色だ。珍しい映像といえる。

この他、国鉄四国支社の配慮のせいか、ロケ地は松山駅、宇和島駅、高知駅、徳島駅を網羅。すべて現在は見られない旧駅舎だ。この建物や駅周辺の風景も見所といえる。

映画『喜劇団体列車』に登場する鉄道風景

C58形蒸気機関車 劇中では249号機と333号機が登場。333号機は準鉄道記念物として四国旅客鉄道多度津工場で保存されている
9600形蒸気機関車 49613号機がクライマックスの重要な場面で登場する
DF50形ディーゼル機関車 松山駅の場面で背景に登場。スハ43系客車を牽引している。同型が四国鉄道文化館で展示されている
キハ58系気動車 急行形気動車で、エンジンを2基搭載した車両がキハ58。エンジン1基搭載型はキハ28。キロ28は運転台を持たない中間車で、急行色に加えてグリーンの帯が施された。劇中に登場する5両編成はヘッドマークから、高松~宇和島間の急行「せと」と思われる
キハ20系気動車 蒸気機関車列車の引退に合わせて導入された普通列車用の気動車。劇中では中間にキハユニ26を組み込んだ普通列車が登場する
土佐電鉄の路面電車 型番は103と読める。旧100形か
堀江駅 主人公が勤務する伊予和田駅のロケ地
宇和島駅・松山駅・高知駅・徳島駅 駅ビルのない小さな駅舎。現在との違いに驚く
仁堀航路連絡船 序盤、彦一が駅に向かう途中で背景に停泊している
宇高航路連絡船 彦一が大阪へ旅立つ。上下便のすれ違いである人と再会する