湯気をあげて蒸かされた「温泉まんじゅう」は温泉地ならではの風情ある光景。茶色や白の皮にあんこがたっぷり入ったおまんじゅうはお茶受けのお菓子として旅館の客室に用意されていることも多い、温泉地の定番土産ですね。ところで、温泉まんじゅうの発祥地をご存知でしょうか?

このまんじゅうが、「温泉まんじゅう」発祥地と称されているお店の品です

群馬県の温泉は強者ぞろい

現在、"温泉まんじゅう発祥の地"と言われているのは、365段を数える石段街で有名な群馬県・伊香保温泉。最近はオシャレなカフェなども増えて、若いカップルの観光客が増加しています。伊香保では「湯乃(の)花まんじゅう」という名称が一般的です。

ちなみにですが、群馬県の温泉には「一番」とか「発祥」と言われているものが多いようです。例えば、「温泉マーク」発祥の地は磯部温泉、環境省の「国民保養温泉地」の指定第一号のひとつが四万温泉、「日本一の自然湧出量」を誇る草津温泉等があります。

温泉まんじゅう発祥地である「勝月堂」は、伊香保神社の石段下、向かって右側にお店を構えています。この店は、東京の風月堂で修行をした創業者の半田勝三さんが明治43年(1910)に開いた店です。

両脇に旅館や土産物屋、射的屋さんなどが並ぶ伊香保の石段街。「湯の花まんじゅう」の看板を掲げた土産屋もあります

お店のホームページを見ると、湯乃花まんじゅうの歴史について「伊香保に帰郷した際、地元の古老から『伊香保にこれといった名物がない。何か新しい土産物を』と依頼を受け『湯乃花まんじゅう』を考案した」とあります。その後、昭和9年(1934)に陸軍特別大演習で来県された昭和天皇が、『湯乃花まんじゅう』を2円分お買い上げになり、そこから全国に温泉まんじゅうが広まっていったのでした。

勝月堂が「温泉まんじゅう発祥」と言われるようになったのはTBS系列のテレビ番組『そこが知りたい』(1982~1997年放映)がきっかけ。今から24~25年前の話だと言います。「それまで、日本で一番最初とは知らなかったんです。『うちが最初』とは言っていませんが、今のところ、全国のお店から苦情もないのでたぶんそうだろうと思います」と4代目女将の半田美樹さんが教えてくれました。

保存料を使わず、手作りの味を守る

勝月堂の「湯乃花まんじゅう」は全て手作り。伊香保温泉の茶褐色の温泉を、黒糖を入れることによって再現し、中のあんは北海道産の小豆を使用しています。手作りなので、写真のように大きさや形が均一ではありませんが、それが一層、味わい深さを醸し出しています。

「手作りでやっているので、柔らかさが違う」(半田さん)そうで、食べてみると、たしかに皮が違う。ふっくら、もちもち。しっとりとしてつやつや、柔らかい。まるで、とろろを入れたような滑らかな感触なのですが、「そういったものは何も入れていません」(半田さん)と言います。機械で作った皮はパサパサになりがちなので、この食感は出せないそうです。手作りならではのこの繊細な味はクセになりそう。ブラボー!

「勝月堂」は明治43(1910)年創業。お店は4年前にリニューアルし、オシャレな外観に変わりました

びっくりするのが、賞味期限。2日しかもたないそうで、作った日の翌日がタイムリミット。3日後には硬くなってしまうそうです。日持ちしないのは、保存料が一切入っていないから。旅館の売店などで売っている土産物は、賞味期限は数か月のものが多いですが、これは保存料などが入っているからです。

土産物として、日持ちしない商品は敬遠されそうなものですが、この味を味わいたくて、朝からまんじゅうを求めて多くの人が訪れます。午前中はできたてを食べられるとあって特に人気。6個650円、9個で900円(税込)。1個ずつでも購入することができるので、石段街散策をしながら、湯乃花まんじゅうをパクリ、とするのも一興。営業時間は9~18時ですが、売り切れ次第終了。特に土・日曜日だと早めになくなってしまうこともあるので午前中に出掛けましょう。

この湯乃花まんじゅう、創業当時から味も大きさもほとんど変わっていないそうですが、甘みは若干抑えたと言います。現在は息子さんがおいしいあんを作れるよう、修行中。変えるものと変えないもののバランスをとりながら、伝統を受け継ぐ湯乃花まんじゅう。伊香保に行ったら、おひとついかがですか?

筆者プロフィール: 野添ちかこ

全国の温泉地を旅する温泉と宿のライター。「宿のミカタプロジェクト」チーフアドバイザー。BIGLOBE温泉のほか、「すこやか健保」(健康保険組合連合会)で「温泉de健康に」連載中。著書に『千葉の湯めぐり』(幹書房)がある。日本温泉協会理事、3つ星温泉ソムリエ、温泉入浴指導員、温泉利用指導者(厚生労働省認定)、温泉カリスマ(大阪観光大学)、温泉指南役(岡山・湯原温泉)。公式HP「野添ちかこのVia-spa」