先月までの「鉄道、昭和の旅」に代わり、今月から新たに「関西オモシロ鉄道の旅」というエッセイ風の連載を担当することになりました。前の連載でお気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、筆者は兵庫県の阪神電車沿線で生まれ育ち、いまも住んでいます。

それにしても、「オモシロ」やなんて、いきなりタイトルでハードルをあげてしまってどうするのか? と思われる向きもございましょう。内幕をバラすと、このタイトルは担当編集が考案したものなんです。でも納得して引き受けた以上、毎回なにか面白いものを探してお届けできるよう、がんばっていきたいと思います。勢い余って、たまに「関西」を逸脱する場合もあるかもしれませんが、そこは暖かい目でスルーしていただければ幸いです。

谷町線で活躍した30系が10月6日、ラストランを迎えた

大阪市営地下鉄の"顔"だった30系の引退に思う

さて、大阪ではつい先日、地下鉄谷町線を長年走り続けた30系車両がラストランを迎えました。最後まで残ったのは、アルミボディの真四角な車両。いつも当たり前のように乗り降りしていた電車ですが、お別れとなると寂しいものですね。

地下鉄という乗り物は、一部区間を除いて基本的に地下を走るので、車窓に景色がありません。だから筆者のようなゆるい「乗り鉄」にとって、あまり鉄道としての興味の対象になりにくい印象があります。また、都市交通という性質上、「あまり遠くへ行けない」「ぼーっと長時間乗り続けられない」というところも、興味を持ちにくい理由です。

大阪市営地下鉄といえば、もう30年ほど前の話ですが、就職先の新人研修で、市営地下鉄の偉い方の話を聞く機会がありました。

その頃、御堂筋線は我孫子駅から中百舌鳥駅へ向けて延伸工事の真っ最中で、「1mあたり4,000万円以上の工費がかかります」とその工事について話していたのが印象に残っています。既存の線路や地下鉄、地下街の下をかいくぐっての工事だったようです。「御堂筋線はゆくゆく、箕面の先の山をトンネルでくぐって亀岡まで行く計画がある」とも話されてました。本当かどうかはわかりません。日本の国が、バブルでイケイケだった頃のお話です。

亀岡までは荒唐無稽にしても(北急が箕面方面へ延伸する話はあるらしいですが)、大阪市営地下鉄はわりと最近まで、新しい路線を延ばすことに積極的だったようです。

平成に入り、「国際花と緑の博覧会」(花博)に合わせて開業した長堀鶴見緑地線は、いつの間にか門真市の門真南駅まで延びてますし、中央線の先、大阪港からコスモスクエアまでの海底トンネルも、知らない間に開通してました。最近だと、大阪環状線のさらに東側に、今里筋線なんていう路線も新規に開業しています。ちなみにこの路線、大阪市営地下鉄では初めて、淀川の下をくぐっているそうです。

もうひとつ、大阪の地下鉄で思い出すのは、就職して間もない頃、ラッシュアワーの梅田駅で御堂筋線に乗ろうとしたとき。改札を抜けて階段を下りようとした筆者は一瞬、「うっ……」となりました。半円形の天井で広々とした、まるで穴倉のような地下空間。ホームを見下ろすと、大勢の人間がひしめき合っていました。

その様子は、まるでコップに水がなみなみ注がれ、表面張力で盛り上がっている状態を見ているかのようでもありました。ちょっとの刺激ですぐにこぼれ落ちてしまいそうです。もうこれ以上、人間が入り込む余地はないのではないか? いま僕が降りていったら、連鎖的に押されて誰か線路へ落ちるんやないか? そう思うほどでした。ドーム天井で知られる梅田駅ならではの思い出ですね。そんな梅田駅も、並行して掘られたもうひとつのトンネルを利用してホームが拡張され、いまではゆとりの大空間になっています。

谷町線30系が回送列車となり、中央線の地上区間を走り去っていった

就職した当時、30系は御堂筋線をはじめ、大阪市営地下鉄の各路線で見られました。しかし新しい車両が登場するたびに出番は減り、あのウインクしたような顔の30系を見られるのは谷町線だけに。ラストランとなった10月6日には、撮影会や特別運転が行われたそうです。回送列車として中央線も走行し、その雄姿を写真に収めることができました。

地下鉄の「前面展望」は意外にダイナミックで驚き!

筆者はこの間、ふと思い立って、天王寺駅から谷町線の電車に乗りました。東梅田駅で降りるまで、運転席の真後ろに立ち、行く先を眺めてみることにしました。

電車の前に広がるのは、ねずみ色の薄暗い風景ばかり。予想していたとはいえ、あまりにも殺風景です。しかし、走り出してスピードが上がるにつれ、そのトンネルは右へ左へカーブしていて、さらに上ったり下ったりと、意外にうねうねしていることに気がつきました。

地下でなにも障害物はないから、目的地までまっすぐに掘ればいいだろう、なんて漠然とイメージしていたので、個人的にかなり意外でした。後で考えてみたら、大阪市内、とくに谷町線のあたりは、「上町台地」という大きな起伏があるし、地下も他の路線や地下街があるので影響を受けるのでしょう。

いずれにしても、地下鉄の「前面展望」は意外にダイナミックな風景が続くことに気づき、興味深く感じました。地下鉄もやっぱり鉄道なんだなあ……と、当たり前のことですが、あらためて思い知らされた気がします。