現在、東京大学とSony CSL(Sony Computer Science Laboratories)が共同で開発を進めているのが" PossessedHand"と呼ばれる装置。

" PossessedHand"を何の予備知識もなく訳すなら、「取り付かれた手」となってしまうのですが、この一見不気味な雰囲気を醸し出す呼び名を与えられた装置の実態は――28の電極を持ち、そこから送られる複数の電気パルスが肌を通して(肌の外側から)指の神経を刺激することで、人の指(5本全て)を制御するというもの。ギター演奏の実験装置として発表されました。

"今までにもこれに似た装置はUS Food and Drug Administration(アメリカ食品医薬品局)から身体に障害を持っている人への補助機器として既に認可を受けていたりはしているんですが、"PossessedHand"の様に、"What's novel about this is they can control finger movement at multiple joints at the same time, and then program when those movements occur"と、複数の指の関節を同時にコントロールし、また動きも自在にプログラム出来るなんて正に画期的で、さらには肌の外側から電気的刺激が与えられるというのもこの装置が初めてなんだそうです。

ミュージシャンらからは、音楽は機械だけに頼って作れるものではなく、指がよく動くからだけでもダメ。奏者のハートが大事だったり、長い間の練習による積み重ねから生まれるテクニック、または、偶然のひらめきなどは欠かせないといった反論も多くあるようです。しかし、ギターを少しでもかじったことがある人なら分かると思いますが、小指の動きを完璧にコントロールするのは至難の業。この装置はそこまでも自由自在に、思うがままに動かせるというからまた改めてビックリ。つまり、この装置さえ付ければ、誰だってあっさり「スーパーテク・ギターリスト」になれてしまうということのようです

しかしこの" PossessedHand"のポテンシャルはこれだけにはとどまりません。世界中の学者たちは、これこそが" the handycaped(身体障がい者)"の人たちが待ちに待っていたものと口を揃えて言います。特に"people with paralysis(体に麻痺を持っている人たち) "にとっては、これは" 「取り付かれた手」どころか、"God's Helping Hand(神が差し伸べし救いの) "だと絶賛しています。

もしこの装置が"joints(体の間接) "の動きと共に、"the flexor muscles(屈筋) "と"the extensor muscles(伸筋) "の"tense and relax"「張り詰めた状態とリラックスした状態」もコントロールできるならば、そこには素晴らしい未来が待っているというのが多くの学者たちの見解です。

今までは麻痺した部位を電気的に動かすには、「電極」は体内に埋め込むのが常識。多くの苦痛を患者に与えるだけでなく、見かけもかなり大げさになっていたものが、この新たな方法では、「電極」を埋める手術も不要。装置自体も携帯可能になり、その上、身体の動きのプログラミングもよりたやすくなるんだとか。

現状の開発段階では、自動演奏ピアノのギター版と言うところのようですが、いずれは「脳→電極→身体の障害箇所」と、「プログラミング」が「人間の脳の指令」に代わり、思うがまま体の部位を動かせる装置として期待が高まっています。

ある学者などは「30年前に誰が今のように2,000、3,000曲もの音楽を当たり前にポケットに入れて持ち運べる時代を想像しただろうか……、今まさに同じようなことが起きようとしている。近い将来人間の麻痺はもう障害ではなくなる日がきっとやってくる、そしてこの"PossessedHand"こそがそれを実現させる鍵」だとまで言ったり……。

「取り付かれた手」が「神が差し伸べし救いの手」として、一日も早く実用化されることを期待したいものです。

今回のURLは、Possessed Hand: Nerve-Stimulating Device Makes Fingers Move - ABC News。興味がある方は是非チェックしてみてください。

英語ワンポイント:

英語で「曲」のことは"song"とも言いますが、他に"tune"とも言い、「歌詞」のことは"lyrics"と言います。

作曲家のことはクラシックやオーケストラ用の曲などを手がける人たちのことは"composer"と言ったりもしますが、最近の流行曲などを手がける人たちのことは"song writer"と言う方が一般的です。そして作詞家のことは"lyricist"と言います。ただし詞曲両方を手がける人のことも"song writer"と言ったりもします。

そして編曲家のことは昔は"arranger"と言っていたのですが、最近では" (sound) producer"と呼ばれるようになってきています。

ではまた次回。