現在スペインのバルセロナで開催されているMWC 2015(Mobile Wireless Congress)において、IntelはSoFIAの名前で伝えられてきたSmartphone向けSoC、およびCherry Trailの名前で伝えられてきたTablet/Notebook向けSoCを、正式にAtom x3/x5/x7として発表した。これについて紹介したいと思う。
実はMWCにおけるIntelの発表に先立ち、米国時間の2月25日にChip Shotの形でIntelが新しくAtom x3/x5/x7というブランドを立ち上げたことは明らかにされていた(Photo01)。
これについては、Merlin Kister氏(Director of Global Product Brand Strategy)による解説も同時に掲載されており、要するにCore i3/i5/i7と同じように用途や目的に合わせてラインナップを明確にしたいということである。
その用途や目的であるが、今回発表の製品はこんな具合になる(Photo02)。SmartphoneやPhablet(大型のSmartphone)はAtom x3が、Tablet~2in1の小型スクリーン製品はAtom x5/x7が担う形だ。これにあわせて、Atom x3では3G/LTEやGNSS(Global Navigation Satellite System)などが全部統合される。それとは別にDiscreteの2G/3G/LTE/LTE Advanced対応モデムもラインナップされる形だ。
これをもう少し分かりやすく示したのがこちら(Photo03)である。ローエンドが75米ドル未満の低価格Smartphone向けで、ここがAtom x3、75~249米ドルのEntry~Value向けのSmartphone(や一部Phablet)がAtom x3のGT-R/LTEとなる。
また低価格Tabletもこの範囲に入り、そこはAtom x5のModemless(Wi-Fiのみ)がカバーする形だ。その上がAtom x5/x7のカバー範囲となり、おおむね400米ドル以上の製品でCore mに切り替わるという形になる。
Atom x3
ではまずSoFIAことAtom x3のスペックである(Photo04)。正式名称は
- Atom x3 3G : Atom x3-C3130
- Atom x3 3G-R : Atom x3-C3230RK
- Atom x3 LTE : Atom x3-C3440
となっている。今のところは各モデル1製品ずつがラインナップされている形だ。
コアそのものはSilvermont世代のものを利用しており、ローエンドは1GHz駆動のDual Core CPU + 3G、ミドルレンジが1.2GHz駆動のQuad Core CPU + 3G、ハイエンドが1.4GHz駆動のQuad Core CPU + LTEという構成になっている。
GPUにはARMのMaliシリーズを利用しており、ローエンドがMali 400MP2、ミドルレンジがMali 450MP4、ハイエンドがMali T720MP2となっている。またNFCはハイエンドのAtom X3 LTEのみとか、対応するMemory/Storageの種類にも差があるなど、かなりバラエティに富んでいるのが分かる。
内部構造をまとめたのがこちら(Photo05~07)であるが、物理的にこの3種類のAtom x3は異なるダイになっていると思われる。普通だとある程度ダイを共通化することで設計/初期コストの低減を図るとか、あるいはYieldの改善を図るなどの手法が使われるが、Atom x3の場合は、特にローエンドのAtom x3 3Gにおいてギリギリまで原価を下げる必要があり、それもあってかPMIC(パワーマネジメントIC)すら内蔵というか、使わずに済ませる様に設計されているように思える。
Photo06:Atom x3 3G-Rの詳細。PMICとはPower Management ICの略で、動作状態に応じて細かく電圧制御を行う回路。Atom x3 3Gはコストダウンのためにこれすら省いた模様。FEMはFront End Moduleの略で、これはアンテナに接続するための回路や一部パワーアンプなども含む |
Photo07:Atom x3 LTEの詳細。こちらではPMICも内蔵になっている。GNSSでは、米国や日本で使われているGPS、ロシアで使われるGLONASSに加え、中国で利用されるBeidouも対応となっている。個人的にはBeidouのサポートはむしろAtom x3 3G/3G-Rでこそ必要に思われるのだが、これがないというのは3G/3G-Rは中国以外の途上国向けということなのかもしれない |
このAtom 3Gに関しては製造は外部(恐らくTSMCの28nmプロセスと思われるが、公式には28nmを利用、とあるだけ)で行われているから、この様にラインナップに応じて異なるダイを複数用意する場合、どのモデルもそれなりの数を生産しないとコスト回収が難しい。それにもかかわらずダイを分けたというのは、全モデルをそれなりの数、意地でも販売するというIntelの強い意志の表れと見るべきなのかもしれない。
ちなみに性能に関してはMobileXPRT 2013を利用して、Atom x3 3G/3G-R((Photo08)およびAtom x3 LTE(Photo09)の性能を競合製品と比較した結果が示されている。3G/3G-Rの方は、おおむねCortex-A7が競合、LTEはCortex-A7に加えてCortex-A53も競合しているが、これらと比較しても良好な性能であるとされる。またLaunch Partnetとしては19社が既に公表されている(Photo10)。
Atom x3のスペックについては以下の図(Photo11)を参照してほしい。
Atom x5/x7
次がTabletや2in1向けとなる"Cherry Trail"ことAtom x5/x7である。こちらはAndroidも利用できるが、Windows Tabletや2in1向けという位置付けになる(Photo12)。
こちらは当然前世代のAtom製品との比較という形になるが、グラフィック性能が大幅に改善しているのがウリである(Photo13)。またRealSenseやPro WiDi、TrueKeyといったテクノロジも利用可能とされる(Photo14)。Launch Partnerは6社がラインナップされており(Photo15)、2015年前半には製品投入をするとしている。
Photo13:もっともGPUの性能で言えば、Atom Z3795は4EUだから、最大16EUのAtom x7と比較したらもっと差が出そうな気もする。とはいえ、最終的にはメモリ帯域がボトルネックになる訳で、結果としての性能差がこの程度、と理解すればよいかと思う |
Photo15:こちらにはLenovoがちゃんとあるあたり、同社は何かしら理由があってAtom x3を使ったSmartphoneには参入していないと考えられる。これまではAtomベースのSmartphoneを積極的にラインナップしていただけに、ちょっとこの動きは謎である |
内部構造はPhoto16に示す形である。細かいスペックはPhoto17に示す通りで、いずれもQuad Coreをベースに、あとは動作周波数とGPUのEU数の違いで差別化されているといったところだ。ちなみに同じくGen8のIntel HD Graphicsを搭載しているCore Mの場合はDirectX 12に対応が予定されているが、いまのところAtom x5/x7に関してはDirectX 11.1留まりのサポートになる模様だ。
Photo16:基本的な構造は22nm世代のBay Trailに近いが、USB 3.0への対応とか周辺回路の強化など、細かいところではだいぶパワーアップされていることが判る。ただ肝心のAirmontコアがSilvermontコアからどう改善されたかに関しては一切情報がない |
Modem
最後にこちらも。Atom x3はモデムが全て内蔵となるが、Cherry Trailは外付けとなる。これに対応して、Atom x3 LTEのモデム部だけを独立させた形で提供されるのがXMM3760 Modemとなる(Photo18)。
また、Atom x3 LTEに搭載されている802.11ac対応Wi-FiやGNSS、NFCコントローラなども個別の製品としても提供されるほか、このXMM3760に統合する形で搭載されており、OEMメーカーは個別に選んでつなぐことも、XMM3760をつかってまとめて利用することもできる様になっている。