「Thank you for understanding our situation」

現地との交渉は、すべて忍耐が必要

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この言葉を見ると、ぞっとする。今まで何度となくこの言葉で済まされてきたアジアとのビジネス。私には中国、ベトナム、インドネシアにパートナーを持っているが、彼らにしてもドライな所はドライだ。そこを短所としては捉えず、彼らなりの考え方として受け取るように努めている。

現地との交渉は、すべて忍耐が必要だ。日本人からすると「メールの返事が遅い」「何でもすぐに! とあおってくる」「ぎりぎりの進行が多い」「仕上がりが違う」など様々な調整事項があり、それを踏まえた業務が中心となる。

ただし、これも日本人的にはそう思うが、現地ではたいしたコミュニケーションミスとは受け取っていない。たとえばメールの返事が遅いのは、彼らにとって急を要することではなかったり、または確認できてから回答すればよい(「メールを受け取りました」的な返信はない)という判断だろう。

「なんでもすぐに!」と言ってくるにしても、1~2日遅れてなんとかなる場合もある。だからカリカリせずこちらのペースで回答すればよいし、ぎりぎりの進行になりがちなことについても、彼らは結果的に納期通りに成し遂げる(仕上がりについては課題を残すが)。

いきなり連絡が取れなくなってしまうケースで聞く言葉

そういった状況でビジネスを進めていくと、いきなり連絡が取れなくなってしまうケースがある。これは非常に危険なサインだ。こうなるともう、悪い予感はほぼ的中する。

しばらくすると、短いメールで諸事情によって対応ができないことが書いてあり、最後に「Thank you for understanding our situation(ご理解いただきありがとうございます)」と締めくくられる。「そんなの何も理解していないぞ」と言いたくなる瞬間だ。決して悪気があるわけではないが「だめなものはだめ」とあっさりとビジネスが終わってしまう部分もある。

本来であれば難関にぶつかった時、「どうそれを乗り越えられるか?」と、一緒になって考えるべきだが、私と信頼すべきパートナーまでは考え方を共有していても、その先は大海原、その国の仕事のやり方が中心だ。だからこそパートナーは「現地でいかに我々の考え方を理解して伝達できるか」という強い力を持った者がよい。そうでないと思わぬ損害を被るだろう。

契約社会ではあるが、契約書に書いたからと言って守られるとは限らない。とはいえ、異国の法廷に立つ気があるか? それは勝ち目の少ない消耗戦、できるだけ避けるべきだ。

何度ももらった「Thank you for understanding our situation」のメッセージ。

私にはトラウマになっている。


秋山岳久
1963年生まれ。東京都出身。大手ITメーカー勤務。PCのマーケティング担当する傍ら、アジアで活動するバンド「GYPSY QUEEN」のリーダーを務め、ブルネイ、カンボジア、ラオス、マレーシア、シンガポール、タイ、ベトナム、中国、モンゴル、日本の10カ国において10年間で130回以上の公演活動を実施。特に中国では、17都市70回以上の公演を行い30万人を動員。その他、ASEANに関連するイベントや観光交流の事務局を務め、国のトップから実務担当者まで、10カ国で500人以上と接点を持つ。著書『アジアで勝ち抜くビジネススキル』(パブラボ/1,500円+税)