米Appleと台湾のHTCは11月10日、スマートフォンやタブレット端末に関わる特許を巡り、世界各地で提起している訴訟について和解したことを発表した。両社は係争中のすべての訴訟を取り下げ、将来取得する特許を含む10年間のライセンス契約で合意したという。和解の内容やライセンス契約の詳細などは明らかにしていない。

Appleのティム・クックCEO

和解についてHTC CEOのPeter Chou氏は「Appleとの係争を解決できたことをうれしく思う。これでHTCは訴訟ではなくイノベーションにフォーカスできる」とコメント。Apple CEOのTim Cook氏もHTCとの和解を喜び、そして「われわれは、これからも製品のイノベーションに重点を置いた取り組みを継続する」と述べた。

AppleとHTCの訴訟合戦が始まったのは2010年3月。Appleが保有するユーザーインターフェイスや基本アーキテクチャに関する特許を、Android端末を開発・製造するHTCが侵害したとして、まずAppleがHTCを米国際貿易委員会 (ITC)と米デラウェア州連邦地方裁判所に提訴した。同年5月にHTCが反訴し、さらに2011年8月にはHTCが保有する通信技術の特許をAppleが侵害しているとして訴えた。

Appleが法廷で争っているAndroid端末メーカーはHTCだけではない。Steve Jobs氏がCEOだった頃に、AppleはAndroid陣営との全面戦争に突入した。評伝「Steve Jobs」の中で、Jobs氏はiPhoneを模倣したようなAndroid端末に怒り、「Androidを叩き潰す」と宣言している。今回の突然のAppleとHTCの和解を受けて、米メディアの多くはTim Cook体制になったAppleがAndroid陣営に対するこれまでの強硬な姿勢を和らげる可能性を指摘している。

AllThingsDのIna Fried氏は「AppleとHTCの和解で最も注目すべき点は、iPhoneメーカーが金額を示したことだ。これまでAppleは他の企業による模倣を絶対に許さないという姿勢を崩さず、特許のライセンスに応じるような気配を示さなかった」と、これまでの経緯を解説。今回の和解に関してHTCがライセンス料の支払いの事業への影響に言及していないことから、「Samsungが米連邦地裁の陪審評決で命じられた損害賠償支払い(10億5000万ドル)に比べると出血は少ない」と分析。「この特権(ライセンス)のために、(Appleが)多額の支払いをHTCに強いなかったのは驚きに値する」と述べ、Microsoftと同じようにAndroid端末メーカーが事業を継続できる範囲でライセンス料を徴収するモデルにAppleが転換する可能性を指摘した。ただし、Appleの事業戦略上の最大のライバルはSamsungとMotorolaを傘下に持つGoogleであり、「敵のライバルは味方」と見なして、和解という形で同じライバルを持つHTCを支援したという見方もできると付け加えている。

フェイク・スティーブ・ジョブズとして知られるReadWrite編集長のDan Lyons氏は「創設者でもある前CEOが起こしたドンキホーテ流の聖戦は、Appleにとってコストとエネルギーの無駄でしかなかった。Cook氏はそれに気づいているようだ」と、Appleのこれまでの対Androidメーカー訴訟に対して手厳しい。

逆にAppleがこれまでの主張を曲げずに、HTCとの和解を得た可能性もある。Fried氏が言うようにユーザーインターフェイスの特許に関してAppleがこれまでライセンス供与を頑なに拒んでいたかというと、例外的にMicrosoftとクロスライセンスで合意している。その契約でAppleはMicrosoftに対して「Apple製品を模倣しないこと」を条件とした。HTCも、Appleが主張する同社独自のデザインとユーザー体験を尊重することで合意した可能性もある。