物音が何一つしない場面で「シーン」、主人公がショックを受けたときに「ガーン」など、マンガには状況や感情を表現する擬音語や擬態語が多く使われています。心理学者の内藤誼人(ないとうよしひと)先生によると、マンガで擬音語・擬態語が多く使われているのには「ドラマ効果を高め、読者をひきつけるため」だと言います。

 ●擬音語が加わるとよりドラマチックになる●

 「マンガで擬音語や擬態語を多く使うと、臨場感が出るのです。これを心理学では『ドラマ効果』と言います。イラストとせりふだけでなく、状況や感情を表すオノマトペが加わることで、読者はマンガの世界をよりリアルにイメージできるようになるんですよ!」(内藤先生)

 確かに、擬音語や擬態語が登場しないマンガの方が少ない気がします! 独自の擬音語・擬態語を生み出すマンガ家も少なくありません。「マンガは視覚にしか訴えられないメディアだけど、擬音語や擬態語を使うと聴覚にも訴えることができる」と内藤先生は言います。この「ドラマ効果」を実証した面白いデータを紹介してくれました。

 「シカゴ大学のジョン・デイトンは、40本のテレビCMを分析しました。半分は映像と映像には関係のないナレーションを組み合わせたシンプルなCM、もう半分は映像と効果音が組み合わさったドラマのようなCMでした。40本のCMを被験者に見せてその感想を分析したところ、人の感情を揺さぶって注意をひくのは映像と音を上手に使ったCMだったのです。視覚、聴覚の両方を刺激するものが、人の感情を動かすと言えます」(内藤先生)

 より人の心を惹きつけるには視覚だけでなく、聴覚にも訴えると良いことが上記の実験で実証されています。やっぱり擬音語や擬態語はマンガには欠かせないものだと言えるようです。

 ●音を言語としてとらえる日本人●

 日本では、マンガだけでなく、文学作品でも擬音語・擬態語が古くから使われています。日本語の擬音語と擬態語の数は、世界の言語の中でも群を抜いて多いとか。なぜ、日本人に擬音語・擬態語を多く用いるようになったのでしょうか。

 「日本人は音に対して非常に繊細な感性を持っています。例えば、雨の降り方を表す擬音語ひとつとっても、『ざーざー』、『しとしと』、『ぽつぽつ』といったようにさまざまな言葉で表現することができます。西洋人は雨の音や虫の声を言語以外の音を扱う右脳で処理しますが、日本人はそれらを意味ある言葉として言語をつかさどる左脳で聴いているというデータもあります。明治時代に来日し日本を愛したラフカディオ・ハーン(小泉八雲)も、『日本人は虫の鳴き声にオーケストラを感じることをできる国民だ』と驚いたとか。音に対する繊細さや、四季折々の自然を楽しむことができる感性を持つ日本人だからこそ、多様な擬音語・擬態語が発達したのかもしれませんね」(内藤先生)

 コオロギの鳴き声に秋を感じ、静かに降る雪に切なさを感じる日本人の感性を満足させるために、マンガの中でも多くの擬音語が生まれ、発達していったんですね。今度、マンガを読むときには、擬音語・擬態語に注目して読んでみてはいかがでしょうか。

文●ペンダコ

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