家電メーカーのシャープでは、自然をお手本に新しい技術を創出する「ネイチャーテクノロジー※」の開発に注力しています。鳥の翼や貝の形状、ひまわりの種の配列など、アイデアの原点はさまざま。生物から学び、技術として取り入れ、効率的かつ環境にもやさしい製品づくりを目指しています。

※「ネイチャーテクノロジー」はシャープの登録商標です。

  • ネイチャーテクノロジーイメージ

今回は、そんなネイチャーテクノロジーの全貌を紐解くべく、動物の生態に着目したきっかけや開発事例をうかがいました。

また、シャープ八尾事業所では、ネイチャーテクノロジーの紹介展示を新設。記事内では、普段一般公開されていない展示の様子も特別にご紹介します。

進化の過程で研ぎ澄まされた機能・アイデアを応用!シャープのネイチャーテクノロジーとは?

取材を受けてくださったのは、SAS事業本部 要素技術開発部 ネイチャーテクノロジー開発担当の三角勝さんと公文ゆいさん、清潔ランドリー事業部 洗濯機商品企画部の吉岡直哉さんの3名。

  • 集合写真(肩書と名前入り)

三角さんは10年前、公文さんは13年前からネイチャーテクノロジーの研究・開発に携わり、家電製品の機能や効果を改良するため、ネイチャーテクノロジーを応用した技術検討に従事しています。

一方で吉岡さんは、入社から6年間の営業部勤務を経て洗濯機商品企画部に異動し、現在はドラム式洗濯機を担当。ドラム式洗濯機の売上拡大の他、社会貢献につながる製品企画をミッションとして日々の業務にあたっています。

彼らが手がけるネイチャーテクノロジーは「生物模倣」とも呼ばれる技術。生物模倣とは、自然界に生息する動植物の「構造・行動」などを手本に、商品や製品を改善する手法のことです。

自然界の生物は、厳しい環境の中でも効率的に移動やエサの捕食、繁殖ができるように太古の昔から進化を続けています。そのため身体構造や生態系など、あらゆる部分にムダがなく、洗練された機能やアイデアを兼ね備えているんです。

そんな自然が育んだ知恵を応用することで、短期間での製品改良が実現。健康で快適な生活をサポートする家電製品の開発に活かすことができます。


  • 公文さん

シャープがネイチャーテクノロジーの研究・開発に取り組み始めたのは2008年。高まり続ける白物家電の省エネのニーズに対して、既存の技術では大幅な製品改良が望めない状態になっていたため、当時学術の場で注目を集めていた「生物模倣」を活かした開発に着手することになりました。

最初は、鳥や蝶などの飛翔する生物の翼をエアコンの室外機や扇風機のファンに応用できないかと考えました。

当時のファンは飛行機の翼を基に開発されていたのですが、調べていくと飛行機の翼よりも飛翔生物の翼のほうが高効率であることがわかり、鳥の翼の形状を応用したファンを開発することになったんです。


  • 三角さん

2008年から現在までで、10種類以上の製品に搭載されたネイチャーテクノロジー。では、具体的にどのような製品が開発され、どのような効果を生み出しているのでしょうか?

マンタのエラ構造から糸くずフィルターを創造!ネイチャーテクノロジーで生み出す新しい技術

ネイチャーテクノロジーの代表的な製品は、令和4年度 近畿地方発明表彰「大阪発明協会会長賞」を受賞した「イルカの表皮しわを応用した撹拌翼」です。

  • イルカとパーツイメージ

    ※パーツは一例です

少ない筋肉量で効率的に推進力を生み出すイルカに着目し、「イルカの腹部に生じるしわ」を洗濯機の撹拌翼(パルセータ)に応用。洗濯機稼働時の水の摩擦抵抗を低減し、モーターの負荷を中和することに成功しました。

  • 受賞時の公文さん

    令和4年度 近畿地方発明表彰「大阪発明協会会長賞」の楯を持つ公文さん。

平成23年からタテ型洗濯機に搭載されたこの撹拌翼(パルセータ)は、経済的な効果が高く、国内外の機種に展開され海外にも波及している点が高く評価されています。

「イルカの表皮しわを応用した撹拌翼」以外の開発事例では、以下の3つが代表的です。


エアコン室外機ファン
鳥(アホウドリ・イヌワシ他)の翼の平面形状(上から見た形)を応用したファンを開発。ファン性能が向上し、省エネ化・軽量化・低騒音化を実現。ネイチャーテクノロジーとして初期に開発された製品。

  • 鳥とパーツイメージ

    ※パーツは一例です


サイクロン掃除機ゴミ圧縮ブレード
猫の舌の特殊な形状を応用した、掃除機のゴミ圧縮ブレードを開発。舌の凹凸形状で毛を絡めとり、毛玉として蓄積してから吐き出す猫の毛づくろいの仕組みに着目して開発。従来のブレードの5分の1までゴミの圧縮率を高めた。

  • ネコとパーツイメージ

    ※パーツは一例です


蝶の羽根扇風機
「アサギマダラ蝶」の羽根の動きを応用した扇風機を開発。当初は「鳥の翼」を応用したファンブレードを採用したものの、圧力変動と風速ムラが大きく快適性に課題が残った。そこで、ゆったりと一定のリズムで羽ばたきつつ、しっかりと推進力を生むアサギマダラの羽根の動きに着目。ムラの少ない快適な風を生むことに成功した。

  • 蝶とパーツイメージ

    ※パーツは一例です

このようにネイチャーテクノロジーでは、さまざまな生物の構造や生態を応用して家電の改良を実現しています。また、最近では「マンタのエラ構造」を応用したドラム式洗濯機の排水フィルター「するポイフィルター」を開発しました。

  • ドラム式洗濯機
  • するポイフィルター

「するポイフィルター」のポイントは、従来のフィルターよりもお手入れが簡単にできる点です。格子形状の従来のフィルターは、糸くずや髪の毛を排水溝に流すことなくしっかり受け止められる反面、フィルターに絡まりやすく、お手入れに時間がかかるのがデメリットでした。

  • 従来のフィルター

    従来のフィルター

一方「するポイフィルター」では、互いに重なる翼形状を採用。糸くずや髪の毛をしっかり受け止めるメリットはそのままに、お手入れのしやすさを格段にアップしました。

  • するポイフィルターを持って説明する吉岡さん

ユーザーからの不満が特に多かったフィルターの手入れのしにくさを見事に解決した技術です。

糸くずや髪の毛がすべて同じ向きに揃って引っかかるように設計しているので、振るだけでも取りやすく、残ったゴミは指でなぞれば気持ち良いほどにスルッと取り除くことができます。


  • 吉岡さん

自然の力をカタチにする。「するポイフィルター」の開発秘話

「するポイフィルター」の開発がスタートしたきっかけは、ドラム式洗濯機のユーザーが抱えるお手入れのストレスでした。ユーザーからの「糸くずフィルターの掃除が大変」という声に応えるため、改良に取り組んだのです。

当時はフィルターの改良にネイチャーテクノロジーを活用した事例がなく、まずはどの生物のどの動きを応用するかの調査からスタートしました。

どの生物が参考になるのかもわからなかったので、「洗濯機だから水中系の生物だろう」というアバウトな状態でしたね。


手探り状態で調査を進める中、三角さんが偶然目にしたのはマンタの捕食シーン。口を大きく開けて、海水ごとプランクトンを大量に取り込む姿にヒントがあると感じたといいます。調査をすると、エラで海水とプランクトンを分離して、プランクトンだけを効率的に捕食していることがわかりました。

  • マンタ

海水がマンタのエラを通過する際、エラの内部で渦が発生するようになっています。このとき、海水からプランクトンだけが分離されて体内に取り込まれます。

この構造を応用することで、掃除がしやすいフィルターができるかもしれないと感じました。


マンタのエラ構造を採用することで排水された際にフィルターで渦が発生し、糸くずが隙間を通過できずにフィルター内に留まると仮定し、試作の開発がスタート。その結果、糸くずをしっかり受け止めつつ汚れも取りやすくなっていることがわかり、製品化が決まりました。

  • するポイフィルターの説明図

ただし、完成するまでにはかなりの苦労がありました。

マンタのエラ形状をそのまま真似すると、渦ができず、糸くずが取れないこともありました。排水時の流れに合う適切な形状・サイズを見つけるために、何度も微調整を繰り返しましたね。


試作品は大体2つ目くらいでGOサインが出るのですが、4~5つ作ったと思います。

改良の度にモニター調査で寄せられたユーザーの反応が良くなっていったので、少し欲張ってしまったかもしれません。三角さんと公文さんには本当に苦労をかけてしまったと思います(笑)


こうして大変な手間と時間をかけ、完成した「するポイフィルター」。製品改良を成功に導いたのは、メンバーの努力だけでなく、シャープが持つ風土や文化も影響しています。

新しいことにチャレンジさせてもらえる環境が成功の一因だといえます。また、さまざまな部署と垣根を越えてスムーズに連携できたことも大きいですね。


風通しが良く、柔軟に対応できる文化がなければ、もしかすると「するポイフィルター」は生まれていなかったかもしれません。

自然界はアイデアの宝庫!暮らしにも環境にも貢献するネイチャーテクノロジーのこれから

ネイチャーテクノロジーには、製品改良や新製品の開発に活かせるアイデアがまだまだ数えきれないほど多く存在しています。現在は生物の形状模倣に留まっていますが、生物の動きや自然界のシステム・生態系を家電に活かすことができれば、アイデアが一気に広がります。

例えば、アリやミツバチの集団行動や植物が外敵から身を守るための仕組みなども応用できるかもできるかもしれません。

私たちが知っている自然はまだほんの一部。知れば知るほど家電に活かせる機能が発見できると思います。


「ネイチャーテクノロジーの進化によって、家電や機能が新たに生まれた」というのが理想です。場合によっては、今では想像もできないものや、既存の家電がまったく異なる形に進化しているということもあるかもしれません。

自然界はアイデアの宝庫だと思うので、研究・開発にチャレンジしながら、より多くの方にネイチャーテクノロジーの魅力を伝えたいですね。


未知の領域が残されたネイチャーテクノロジーは、驚きのプロダクトを生み出す源泉ともいえます。吉岡さんは企画部門として、洗濯機事業の拡大を実行しながら、人々の生活に寄り添う製品を提供していきたいといいます。

シャープの製品で少しでもユーザーの暮らしを豊かにできればうれしいですね。もっといえば、シンプルにシャープの家電を買ってよかったと思ってもらいたいです。


そして、3名が共通して語ってくれたのは、「ネイチャーテクノロジーを進化させて更なる製品改良や省エネ・節水・軽量化が実現すれば、それが社会・環境問題解決への貢献につながる」という点。SAS事業本部で解決を目指す社会課題のうち、「家事負担と働き甲斐の両立」および「環境への配慮」を実現し、健康で快適な暮らしの提供を通して社会貢献に取り組んでいきます。

  • ブース前での集合写真

シャープのネイチャーテクノロジーは、単なる製品改良を越えて、暮らしにも環境にもやさしいものづくりを目指す、まさにサステイナブルな取り組みなのです。

  • 展示ブース

シャープ八尾事業所内のショールーム(※一般のお客様には非公開)でネイチャーテクノロジー紹介展示を新設しました。 生物の造形が宿った技術や開発者の想いを図鑑のように展示し、知的好奇心をくすぐる場となっています。

ネイチャーテクノロジー
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