ワコムはこのほど、小学4年生から中学3年生までを対象にした「クリエイティブ法人ワコム学園 夏季特別研究会」を実施。2つ開かれた講座のうち「マンガ家への道」では、講師に集英社の少女まんが雑誌「りぼん」で『バディゴ!』を連載中の漫画家・黒崎みのり氏を招き、マンガの描き方や漫画家になるために大切なことなどについてレクチャーを行った。

漫画家の黒崎みのり先生を招いて、講座が開講された

黒崎先生が漫画家になるまで

この講座に集まったのは、漫画を描くことに興味を持ち始めた子から、漫画家になりたい子、黒崎先生のファンや漫画の編集者になりたい人など、さまざまな子供たち。最初は、登壇した黒崎先生と担当編集の鈴木さんに緊張気味だったが、漫画家の生活や漫画家になるまでの話には興味津々で、真剣に聞き入っていた。

黒崎先生は、小さなころからマンガが大好きな子供だったという。「漫画が大好きで、自然な流れで自分も描けたらと思うようになった。小学生のころから、らくがき帳にえんぴつで絵を描いていたし、小学校高学年になるとストーリーも考えるようになった」と、小学校のころから絵を描くことも好きにだったことを明かした。

講師を務めた黒崎みのり先生。授業後半では実際にペン入れの作業を披露してくれた

実際に、ペンなどのマンガの道具を使って書き始めたのは中高生になってから。だが、「途中で飽きてしまって、新しい話を描きたくなってしまうんです(笑)」と話し、なんと、ひとつのマンガを最後まで初めて仕上げたのは高校生になってからだったという。そのマンガは雑誌に投稿。それから月1回投稿するようになり、高校3年の春に雑誌編集部から担当がつくようになったという。

担当がついたからといって、すぐにデビューできるワケではない。「自分としては最高だと思って描いているのに、担当編集さんに直されるのは正直テンションが下がる。だから、はじめはなかなか1作が描きあげられなかった」と黒崎先生は当時の苦労を懐かしんだ。

しかし、ある時から「ダメだと言われているんじゃなくて、読者にもっとわかりやすく、伝わりやすくしてくれているんだ」と気づき、そこからデビューまではすぐだったという。

漫画家に向いている人は?

実際、漫画家にはどのような人が向いていて、どんなことをすればよいのだろうか。黒崎さんはイラストの話ではなく、まず「いろんなことを経験して感受性を高めて、何かに感動したときにそれを誰かに伝えたいと思うこと」が重要だと話した。

その上で、ただイラストを描いてみるだけでなく、描いたキャラクターに一言でもセリフをつけるなど“キャラクターを動かしてみる”ことがポイントだという。黒崎さんはクラスの子の似顔絵を描いていたそうで、「クラスの子の全員分、その子に似合う背景も描いていました。恥ずかしいんですけど、小学生のころから高校生まで、ずっとやっていましたね。たとえ嫌いな子のでも、描くのは楽しいんです。嫌いなところばかり書いていたら、その絵も嫌いになっちゃう。だから、良いところも見つけようとしてくるんです。交流のない子も、描くために興味をもったりしましたね」と話し、人をしっかり観察して、描いたものを動かしてみるのが大切だと語った。

担当編集の鈴木さんも「漫画家は12歳でも40歳でも、いつでもなることができる職業。小学生まんが大賞など、小学生が応募できる賞もあります。漫画家は作業は孤独だけど、人が好きじゃないとできない仕事だと思うので、いろいろな経験をしてください」とエールを送った。

実際にマンガができるまで

次に、実際にマンガが出来上がるまでの流れについて教わった。まず、漫画家がプロットを考え、どんな話にするかを漫画家と編集担当が打ち合わせをするが「さすがに、そろそろハヤテは怒りそうだよね、とか、あれは愛が悪い!とか(笑)」と、まるでキャラクターが友達みたいな感じで話すことが多いそう。話の展開として、告白やイベントなどをやりたかったとしても、キャラクターの心情を考えると……といろいろ考慮するなどして、キャラの反応が楽しいという。その後、ネーム、下絵、仕上げと進められていく。

漫画が出来上がるまでには、いくつかの段階がある

黒崎先生は40ページの原稿で下絵に4日くらい、下絵を仕上げるまでには、アシスタントの手も借りて5日くらいかかるという。ここで鈴木さんが「だいたい10日くらいですね、出来上がるまで」とコメントするが、すかさず黒崎先生が「いや、11日と考えておいてください!」と訂正。漫画家にとって、締め切りまでの時間がいかに大切かがうかがえた。

実際に漫画の原稿を描いてみよう!

いよいよ、ワコムのペンタブレット「Intuos」を使って漫画の原稿を仕上げてみることに。黒崎先生は『バディゴ!』の連載からデジタルに移行しており「デジタルだと線をいくら重ねて書いても、ガンガン消せる。例えば、まぶたを塗ったあとに線を消したりできるが、これはデジタルじゃないとできない。デジタルならではのことはたくさんある」と、ペンタブレットだからこそ、表現の幅が広がったという。また、線は一気に書くのではなく「細い線を何度も重ねて書くことでニュアンスが出る」と描き方のポイントも教わった。子供たちは、下絵に線を入れてみたり、スクリーントーンを貼る作業を体験し「これができれば、アシスタントもできるようになるよ」と声を掛けられていた。

子供たちもペンタブレットを使って実際にペン入れやトーン貼りを体験。ペン入れのコツは細かく線を重ねていくことだとか

最後に、子供たちから黒崎先生に対し、「自分の絵柄が定まったのはいつ?」と、なかなか鋭い質問が。黒崎先生は「デビューしたときに、ほかの人よりも目立ちたいと思って工夫した」と答えたが、さらに担当編集の鈴木さんが「実は絵柄は定まっているようで、漫画家さんもどんどん探求して絵も変わってきている。それでもいつも“黒崎先生らしい”絵柄なのはすごいなと思います」と付け加えた。黒崎先生は「それがクセってやつなんでしょうね(笑)」とはにかんだが、プロの仕事の大変さを子供たちも感じ取ったようだった。

そして、黒崎先生は子供たちに「こんなに早くからデジタルツールを学ぼうという姿勢がもう、すでに熱いものがある。その気合があれば、きっと何でもできる。今のうちにペンタブレットにも慣れて、どんどん新しいものを取り入れていってください」とエールを送り、講座を締めくくった。

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