マレーシアから輸入している「水」を自前で

東京から南西へ5400km、赤道直下のシンガポールは、慢性的な水不足に悩まされている。かの有名なマーライオンのあるマリーナベイも、実は運河の河口をせき止めてつくった“ダムの一部”だ。

年間平均気温26~27度、熱帯モンスーン気候のシンガポールが抱える水不足という課題に、明電舎はどう取り組み、潤いをもたらしたか。水資源を確保するという至上命題に、明電舎が出した答えは、工業排水をろ過し、再利用するという仕組み。同社が持つ、工業排水処理システムの実績を活用したプロジェクトだ。

「わたしが所属している部署は、シンガポールおよび中東等にセラミック膜の営業・販売、セラミック膜を用いた水処理プラント設計・納入を行うセクションです。このなかでわたしは、シンガポール公益事業庁様(PUB)向けの水処理プラントの入札・提案活動、プラント設計・納入・試運転業務ならびにトラブル対応などのアフターサービスを担当しています」と話すのは、MEIDEN SINGAPORE、Water Technology Divisionの中村 安宏氏。

MEIDEN SINGAPORE Water Technology Divisionの中村 安宏氏

「シンガポールは、高温多湿の気候で、雨期にはスコールといった激しい雨が降り、決して降水量が少ないわけではないんですが、国土が狭く平坦なため貯水能力に乏しく、国内水源だけでは必要な消費量をまかないきれてないというのが現状です」

そのため、シンガポールは水資源の多くを隣国のマレーシアから輸入することで水を確保してきた。

「水資源の乏しいシンガポールでは、その水の大半をマレーシアからの輸入に頼っています。マレーシア政府は水の販売価格値上げを断行するなか、シンガポール政府は、二国間同意の有効期限である2060年までに、自国での水資源確保を最重要課題とし、『貯水』『下水処理水の再利用』『海水の淡水化』といった対策を推進してきました。政府は、水の完全自給を目指すうえで、海水の淡水化技術とともに、下水処理水の浄化・ろ過で、上水として再利用する技術開発を進めています」

こうした、シンガポールの水問題解決に向けて、明電舎は自社独自の技術をいかして下水処理や工業排水処理などに取り組んでいる。

「明電舎は、セラミック平膜を開発し、2010年よりPUB様と水処理技術の共同開発に着手しました。セラミック平膜は、NEWater(下水処理飲料水)の造水過程で不可欠な製品で、耐久性・耐薬性に優れています。この特長をいかして、シンガポール国内での水回収・再利用に貢献。下水処理、工業排水処理のみならず、上水処理の一過程にも明電舎のセラミック平膜が採用されました」

こうした取り組みのなかで、日本とシンガポールの水処理に関する違いを体感したと中村氏はいう。

「一年中高温で水温も安定しているため、水温変化により生物処理が崩れることはありませんが、日本とは食生活も違うので廃水の成分も異なりますし、廃水を処理する微生物の性状も異なってきます。日本で膜処理プラントをうまく運転できていてもシンガポールのプラントでの挙動が違うなどの事象が見られ、現場に合わせた運転管理・運転調整が必要になってきます」

技術の担当として、大型のプラント構築のノウハウから、微生物の活用にいたるまで、とても広い範囲をカバーして、一括で取りまとめることは非常に難しいが、だからこそやりがいも感じるという。

大学でインフラ整備の重要性を学んだ中村氏は、明電舎に入社し、赴任先のシンガポールでインフラ整備の現場に立つ。そこで、その地で暮らす人々の暮らし、経済活動が上向くことを肌で感じているという。

「人のためになる仕事に従事したい思いがあり、明電舎の仕事が、人々の社会活動を支える根幹、インフラに貢献していることに、大きなやりがいを感じています。日本と同じく、シンガポールでは、蛇口の水を飲んでも問題ないほど、きれいに浄化された水道水が供給されています。普段から、家では水道水を飲んでいますが、明電舎の技術がシンガポールのライフラインの一翼を担っていると考えると、うれしいです」

また、「シンガポールでの水処理事業は歴史が浅いですが、着実に実績を伸ばしてきています」という中村氏。明電舎ブランドとともに歩んでいく今後について、抱負をこう語った。

「多くの日系企業が進出しているシンガポールは、親日的。タクシーに乗っていると、『日本製品は物持ちがよく、壊れにくい。日本製品を好んで購入する』というローカルの声をよく耳にします。やっぱり、日本の技術に対する信頼性は高いんです。明電舎は、シンガポールで50年以上の実績があり、変電設備の日系メーカーとしての信頼があります」

新しいもの好きなシンガポール。世界有数の金融センターで国際物流の拠点となるこの国は、明電舎の技術や人をまだまだ必要としているという。

「この国は、新しい技術を積極的に取り入れる“お国柄”で、水処理・水の再利用の分野では、世界最先端の国といえます。世界的に見ても、セラミック膜技術をもつ企業は限られている。新しい技術を軸に、これからも水処理での“メイデンブランド”の向上、拡販に努めていきたいですね」