広角レンズとはその名のとおり、広い画角(範囲)を写すことができるレンズです。合わせてパースが強くなり、肉眼で見るよりも遠近感が強調された絵になります。広角は普段からなじんでいる被写体でも別物に見えることもあり、驚きや発見のあるとても楽しいレンズです。今回はこの広角レンズの魅力について考えたいと思います。
広い画角で近づいて撮影できる広角レンズ
広角レンズとは、簡単にいえば焦点距離の短いレンズです。だいたい焦点距離35~50mm(35mm版換算、以下同)あたりを"標準"といい、それより長いものを"望遠 (テレ)"、逆に短いものを"広角 (ワイド)"と呼ぶことが多いようです。焦点距離が短いと広い範囲を映すことができます。広い範囲を一枚に収める風景撮影や、被写体との距離を確保できない室内撮影などで有効です。たとえば焦点距離50mmの場合、画角は約47°(対角画角、以下同じ)ですが、35mmでは約63°、28mでは約65°、20mmでは約94°まで広くなります。
広い範囲が写る、もしくは、被写体に近づいて撮影できるというのが広角レンズの第一のメリットです。インターネットで"画角 焦点距離"などで検索すると、解説がたくさんありますので気になるなら読んでみてください。
【焦点距離による変化】
【画角の変化】
万華鏡のような広角レンズ
広角は広い場所が写るというだけではなく、いわゆるパース(遠近感、遠近法)が強く表れ、絵的な変化が楽しめるのがもうひとつの特長です。被写体に近づくと大きく見えるし、離れると小さく見えます。これが一枚の画像に写し取られるため、結果としてパースが強く表れるのです。たとえばデフォルメされたような絵になったり、人を下から撮ると脚がものすごく長く見えたりします。
広角レンズのでパースの変化は、撮影ポジションやアングルによってものすごく変化します。だから撮影者のフットワーク次第でパースを強調したり抑えたりすることができます。レンズの焦点が短ければ短いほど遠近感は強くなります。また正面より斜めからのほうが、遠くより近づいて撮影したほうが、パースは強くなります。
私は数多くあるレンズの中で、広角レンズが一番好きです。三脚を据えてじっくり撮影するより、フットワークを使ってあちこち動きながら撮影する広角撮影のスタイルが、落ち着きがなく飽きっぽい私には性に合っているみたいです。被写体に対して近づいたり離れたり、かがんで見上げたり、高いところへ登って見下ろしたりと、自分が動けば動くほど被写体はクルクルと変化して、ファインダーを覗いたときはまるで万華鏡を見ている感覚なのです。積極的にカメラの位置と角度、被写体との距離や角度を変えて、最適のポジションとアングルを見つけることが広角撮影の楽しさであり、広角撮影の魅力だと思います。
【アングルによる効果の違い】
手ブレしにくいのでノーファインダーでもOK
広角レンズの特長の3つめ(?)は、画角が広いので、ときに予想もつかない面白い要素が写り込んでくることです。もちろん不要なものを削ぎ落としていくのが写真のひとつの撮り方ですが、偶然性も写真の楽しみのひとつです。私は変なものが写り込んでいる広角のスナップが大好きです。
また、広角レンズは焦点距離が短いために手ブレしにくいという特長があります。これが4つ目ですね。構図などを意識せず、ノーファインダーで(ファインダーを覗かないで)撮影してみるのも面白いと思います。構図を意識して撮影するよりダイナミックな構図になることもけっこうあります。個人的にノーファインダー撮影はとても好きで、よく撮影しています。
【ノーファインダーで撮影】
不思議で特殊な魚眼レンズ
ちょっと話はずれますが、広角レンズと同じように焦点距離の短いレンズとして「魚眼レンズ」があります。約180度相当の広い画角が特長です。目の前の景色すべてを写し込むことができ、中心に円を描いたように歪む画像になります。また、魚眼レンズには、対角線で180°の画角が得られる対角魚眼と、全方向180°の円形の画像になる円周魚眼の2種類があります。
しかし、魚眼レンズは広角レンズ以上に遠近感が強調され、一般的な見え方とはまるで違う絵になります。また、あまりに画角が広いため、多少カメラの向きを変えたぐらいでは同じような絵になってしまうなど、使いこなしがかなり難しいのです。魚眼レンズは特殊なレンズと割り切ったほうがいいでしょう。
【対角魚眼と円周魚眼レンズの違い】
左は対角魚眼レンズのシグマ 10mm F2.8 EX DC FISHEYE HSM。右は円周魚眼の4.5mm F2.8 EX DC CIRCULAR FISHEYE HSM |
対角魚眼レンズで撮影。地面が大きく湾曲しているが、中心を観覧車に合わせたため、観覧車はそれほど歪んでいない |
円周魚眼レンズで撮影。周りの部分は露光されていないので真っ黒になり、日の丸のような画像になる |
【撮影距離による効果の違い】
広角レンズは親しさも写る
広角レンズの特長の最後は、写真の勉強になるということでしょうか。広角レンズで大きく写したいときは被写体に近づかなければいけません。私が写真を撮り始めたときは、フィルムカメラに50mm F1.4の単焦点レンズを付けて半径1メートル程度にいる友達ばかりを撮っていました。2本目のレンズとして28mm F2.8のレンズを買ったのですが、50mmレンズと同じ大きさで撮ろうとすると思いきり近づくことになるのですが、すると50mmレンズでは写らなかった親しい空気のようなものが写りはじめた気がしました。一般的にポートレートを撮るときは70mm程度より長い中望遠が望ましいと言われています。しかし、友達や子供のように親しい間柄なら、相手の息づかいがわかるほど近づいた広角ポートレートも面白いと思います。そうやって写真を覚えていったように思います。
広角レンズは、撮れば撮るほど新しい発見がある面白いレンズです。広角レンズほど、撮る人によって被写体の見え方が変わってくるレンズはありません。まずは興味があるものをどんどん撮って、広角レンズの特長である視覚効果を楽しんでみてください。
撮影・レポート : 加藤真貴子 (WINDY Co.)