連載『「老後破産」を回避せよ! - アラサーから始めるマネー対策』では、FPの馬養雅子氏が、貧困により老後の生活が破綻する「老後破産」をどのように回避すればよいのか、アラサーのうちからできる対策法をご紹介します。
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老後破産に至る理由にはいくつかのパターンがあります。例えば、病気で働けなくなって収入が途絶える、現役時代に浪費して十分な貯蓄ができず老後資金が不足する、親や配偶者の介護で老後資金が尽きる、そして子供が自立せずいつまでもお金がかかる、など。今回は子供について考えてみましょう。

間違った教育費のかけ方で陥る"パラサイト破産"とは

子供が自立できないと"パラサイト破産"する可能性も

子供が生まれたら生活費や教育費がかかりますが、期間限定なのがふつう。大抵の場合、子供が学校を卒業して社会人になったら、教育費はもちろん、生活費もかからなくなります。そこで浮いたお金を老後資金として貯めておけば、老後の生活のゆとり度がアップします。子供が独立してから自分がリタイアするまでは、人生で最後の"貯めどき"なのです。

でも子供が学校を卒業しても就職できず、あるいは就職せず、ニートになったり引きこもったりしてパラサイト化するとどうなるでしょう。親は子供の生活費を負担し続けることになり、そのぶんお金が貯められません。親がリタイアしたあともパラサイトのままだと、夫婦二人+子供の生活費を年金とそれまでの貯蓄から支出する必要があります。そうなると老後資金の減り方が早くなり、"パラサイト破産"するかもしれません。

いつまでも自立しないのは親にとっても子供にとっても不幸なだけでなく、社会を支える担い手が不足するという点で日本経済全体としての損失でもあります。

なぜ子供はパラサイト化する?

子供がパラサイト化する理由はいろいろかもしれませんが、他人とのコミュニケーションがうまくできない、周囲の人の気持ちを推し量って協調し合うことができない、というように社会性が身についていないことは要因の一つでしょう。社会性は、学力とは関係ありません。学業が優秀で、いい学校に進学していい会社に就職しても、そこでつまずいて引きこもってしまうケースもあります。

そう考えると、教育の最も大切な目的は「よい成績」ではなく、人とのコミュニケーションがとれて協調できるようにすること、働いて収入を得ることのできる自立した大人に育てることといえるでしょう。

ところが実際には多くの親が「いい成績、いい学校、いい会社」が子供にとって幸せであり、それを実現することが親の務めだと考えています。塾や家庭教師にお金を惜しまず、教育にお金をかければかけるほど成績が上がると信じている人もいます。そういう人は、「これだけお金をかけたのだから大丈夫」と安心してしまう傾向があるようです。でも、それだけでは子供を自立した大人にすることはできません。

子供の教育で考えるべきポイント

教育費でまず考えたいのは、お金をかけた分の教育効果が上がっているかどうかです。子供の成績や性格に合っていない塾では教育効果は上がらず、かけたお金はムダになります。

次に考えるのは、教育費が家計を圧迫していないかどうか。教育費はかけようと思えばいくらでもかけられるので、家計で負担できる金額以上にお金をかけてしまうリスクがあります。その結果、十分な貯蓄ができず老後資金が不足することになります。

そして、成績がよいことに安心してしまっていないかどうか。勉強ばかりさせていて、子供のコミュニケーション能力や社会性、協調性などが十分に育っていないと、パラサイト化のリスクが高くなります。

「いい成績、いい学校、いい会社」だけに目を奪われて、教育にお金をかけすぎたり子供の自立性を育てられなかったりすると、パラサイト破産する可能性があるということです。教育費はいい成績のためではなく、子供の自立のために使うもの。子供を自立させることが老後破産を回避することにつながります。

執筆者プロフィール : 馬養雅子(まがい まさこ)

ファイナンシャルプランナー(CFP認定者)、一級ファイナンシャルプランニング技能士。金融商品や資産運用などに関する記事を新聞・雑誌等に多数執筆しているほか、マネーに関する講演や個人向けコンサルティングを行っている。「図解 初めての人の株入門」(西東社)、「キチンとわかる外国為替と外貨取引」(TAC出版)、『明日が心配になったら読むお金の話』(中経出版)など著書多数。オフィシャルホームページ「あなたのお金のアドバイザー」。