さて、例えば「女が男子トイレを覗いて逮捕」とか「男子更衣室を盗撮容疑で女性を逮捕」とか、聞いたことがあるだろうか。とりあえず私は、ない。その理由は何か。もちろん、女に男の裸を見たくて見たくてたまらないという欲求がないからだ。筋肉質の美しい肢体を見れば、「ああ、きれいだな」とは思うけれど、「じゃあ、これを今晩おかずにして、はあはあ」とは思わない。女にとって男の裸体は、美術品以外の要素は非常に少ないのである。

ということも、少女漫画から分かる。執事のように主人公に寄り添うイケメン妖怪・巴衛の衣装だ。フツーに和服である。そのほかに登場する天狗や蛇の妖怪も特段、露出度の高い格好はしていない。もしも女に男の裸体視聴願望があったら、彼らの服装は間違いなく薄手になっているはずなのだ。

一方で、多少ファンタジー色のある少年漫画に登場する女子キャラは、間違いなく露出度が高い。または、ぴっちぴちボディコン衣装を着ているはずである。間違っても十二単とか冬装備のドレスとかではない。そんなもの着せたら、女子キャラとしての価値が限りなくゼロに近くなるからだ。だいたいさー、人目を忍んで泥棒しようって女が、レオタードなんか着るかっつーの。しかも三姉妹おそろいでさ。

『神様はじめました』には、沼の神に現代衣装を着せてみたり、神楽を踊るのにご大層な衣装を着てみたり、結構、衣服の話がある。これも少女漫画の特徴のひとつである。なかには、驚くほどセンスのない格好を描く漫画家もいるけど、人気漫画は大抵ファッションリーダーとも言えそうなお洒落な格好を主人公にさせているのだ。

センスがよくないと、どうにも話に感情移入できなかったりするんだよな。いい年した男女が、イルカのペンダント交換されてもなあ、とかさ。どの漫画かは言いませんが。

で、衣服関連で面白かったシーンが「奈々生、シャツを脱ぐ」だ。

巴衛は、「人間である奈々生には懸想(恋い慕うこと)はしない」と思っている。……思ってはいるんだけど、どうやらしっかり懸想をしているようである。なぜなら、奈々生は少女漫画の主人公だから。登場する男子は全員、主人公に惚れなければいけないのが少女漫画のセオリーなのだ。しかし、それを認めたくない巴衛。そんなときに、シャツにそばつゆをかけてしまった奈々生は、部屋に戻って巴衛の前でサバサバとシャツを脱ぎ始めるのだ。

自分が、奈々生に懸想してるのかどうだか悩んでいるときに、目の前であっさり服を脱がれて、思わず巴衛は怒り出す。「男の前でホイホイ服を脱ぐな」とな。でも奈々生にとっては、シャツの下にキャミソール着てるから大丈夫でしょ、ということらしい。女は、何回か痛い目とかに遭わないと、自分の身体が売り物になることに気付かなかったりするものである。何しろ自分たちは男の裸体に興味がないもので。

男からしたら、女が目の前で衣服を脱いだりしたら、「おおこれはOKサイン!」と大喜びかもしれないけど、女のほうからしたら、特に大して意識してないかもしれないので、要注意である。しかも何が要注意かって、もしも女がその気満々で脱いだとしたら、女心としては男にめいっぱいサカってほしいのである。でも、もしもその気がなかったら、痴漢だセクハラだの大騒ぎになる。男子にはその辺の見極め能力が大きく求められるのだ。大変だなあ。

で、なんやかんややって、ふたりは仲直りするんだけど、「なんで怒ってるのか、ちゃんと話して。理解するから」と奈々生は言う。何かトラブルがあったときに、ちゃんと話して解決する。理想の桃源郷だよなあ。そんでまた、その後に巴衛が奈々生に「俺が脱がせてやろう」とか意地悪するのも萌えである。ここら辺、最新刊8巻のラストだけど、なかなか面白い展開なので、犬系動物が嫌いじゃない人には、ぜひオススメしたい。
<『神様はじめました』編 FIN>