神奈川県の横浜市鶴見区と川崎市の京浜工業地帯を走る鶴見線。現在もなお2つの支線があって、土日もとなれば鉄ちゃんたちが訪れる。今回と次回はこの鶴見線について語ろう。鶴見線は、鶴見駅から扇町駅までの本線、浅野駅から海芝浦までの海芝浦支線、安善駅から(ただし、正式には武蔵白石駅からだが)大川駅までの大川支線からなる京浜工業地帯を支える鉄道網である。まず、本線について書いてみよう。

浅野駅。浅野支線の乗り換え口である

鶴見駅で京浜東北線の電車を降りて、鶴見線に乗り換えようとすると、びっくりするのが鶴見線の改札口があるということ。次の国道駅までの乗り継ぎ切符のみが自動精算機で、それより遠い駅は改札口で清算を行う。取材で訪れたのは土曜日の午後。時刻表を見ると、出発まであと15分も待たなければならない。そこで、鶴見駅から国道駅までぶらぶらと歩いていく。

レトロな駅舎・国道駅

鶴見駅近くには、曹洞宗大本山である総持寺がある。鶴見線は鶴見駅を高架で出発し、この総持寺付近を右手に過ぎて少し行くと、左にカーブして京浜東北線、東海道線、貨物線、京浜急行線の上を横切って、工業地帯へと走っていく。このカーブの手前にあるのが、総持寺踏切である。この踏切内には京浜東北線、東海道線、貨物線といった運行間隔が非常に短い鉄道の線路が走っているため、「あかずの踏切」となっている。総持寺踏切だけでなく、近くの京浜急行花月園駅や生麦駅付近には、これらの線の(踏切によっては横切る鉄道は微妙に異なるが)「あかずの踏切」があって、踏切フェチの私には聖地ともいえるところだ。

開かずの踏切、総持寺踏切

さて、このあかずの踏切を見たあとは、国道まで出て新子安方面に歩いてき鶴見線「国道駅」に到着。私は道に迷って、国道を1つこえた路地を行き、国道駅の裏口を発見したのだが、もうびっくりした。なんてったって駅ガード下がまるで「防空壕」のような状態。ガード下には、釣り船屋と飲み屋が1軒ずつあるものの、あとは空家のように見える。しかも土曜日の夕方のため、釣り船屋も飲み屋も開いておらず、まるで廃墟のよう……。17時前というせいか、国道駅は無人駅となっており、階段を上っていくとアーチが目立つホームに出る。ホームのブザーが鳴って、鶴見線の電車が入ってきた。黄色をメインとした車両である。

国道駅ガード下。ちょっと怖いレトロな感じがシュール

土曜日の夕方、のんびりと線路を走る

16時2分に国道駅を出ると、鶴見川を渡って鶴見小野駅に着く。この駅周辺は住宅街になっているようで、多くの乗客が下車していく。電車の車庫がある弁天橋駅を経て、16時7分に浅野駅へ到着する。ここは、海芝浦支線との乗り換え口。ゆるやかなカーブと構内踏切、レトロな駅舎がかわいい。次が安善駅。大川駅まで走る大川支線との乗り換え口だ。大川支線は朝夕だけ電車が走るため、この時間、ホームは閑散としている。武蔵白石駅を経て浜川崎駅へは16時15分に着く。ここで1分弱待ち合わせのため、駅のホームを撮る。木造のホームは懐かしさが感じられて、心が安らぐ。すると、工場帰りのひげ面のおっちゃんが「何を撮ってるんだ」と聞いてくる。「駅舎ですよ」というと、「そうか、古いからな」と納得して笑ってくれた。

浜川崎駅。南武支線の乗り換え口でもある

次第に工場地帯を走っていく

16時20分、終点の扇町駅に到着。わずか20分ほどの旅ではあるが、途中の引き込み線の多さに楽しみを覚えた。扇町駅の周囲も工場があり、駅の先にはさらに線路が続いている。16時30分発の鶴見駅行きで戻ろうとしたときに、涼風が薫った。浴衣姿の娘さんが改札口を通っていく。髪には大輪の青い花が。花火大会に行くのだろうか。鶴見線の印象が鮮やかに残った。次回は支線の話を。

切符はこの中へ(扇町駅)

扇町駅にて。鶴見線の駅の特徴である、鉄骨のカーブが美しい駅

扇町駅の踏切。ひっきりなしにトラックが通る

貨車があちらこちらで見られるのも楽しい