連載コラム『サラリーマンが知っておきたいマネーテクニック』では、会社員が身につけておきたいマネーに関する知識やスキル・テクニック・ノウハウを、ファイナンシャルプランナーの中村宏氏が、独断も交えながらお伝えします。

住宅ローンの「借り入れ可能額」を試算することがポイント!

失敗しないマイホームを購入するコツは、欲しい物件を探し求めるだけではなく、自分の家計の実力を把握することだと前回述べました。その上で「自分は、いくらまでの物件ならムリなく買えそうか?」という予算の枠組みを決めて、その枠に入る物件を探すことが大切です。

予算が決まると「マンションか? 一戸建てか?」「場所はどの辺りか?」「新築か? 中古か?」「どんな設備をつけるか?」「部屋数はいくつまでか?」などの条件が絞り込まれます。これらの条件に「勤務先との距離」「車を持つか、持たないか?」「将来子供は何人か?」「どんな教育を子供に授けたいか?」などの要素も加味して検討することになるでしょう。

マイホーム予算をなかなか決められない最大の理由は「自分はいくらまでなら住宅ローンを借りられるか?」がわからないからです。住宅購入後、住宅ローンの返済、子供の教育費の支出、夫婦の老後資金の準備などをできるだけムリなく行えるように住宅ローンの借入額を決める必要があります。

住宅ローンの借り入れ可能額が決まれば、前回の「マイホーム資金の構造」でも示した通り、

住宅ローンの借り入れ可能額+自己資金=物件価格+諸経費

となり、マイホーム予算を決めることができます。住宅ローンの借り入れ可能額の試算には、「毎月返済額」「返済期間」「適用金利」の3つの情報が必要です。

「毎月返済額」の決め方

毎月返済額を決めるときのヒントは、現在の家計の中にあります。それは、家賃と住宅購入のための積立貯蓄額です。これらは住宅購入後には必要なくなるため、住宅ローンの返済に充てることができます。事例で考えてみましょう。

<事例>
夫:35歳、会社員(定年は60歳、65歳までは再雇用)
妻:32歳、専業主婦
長女:3歳
長男:1歳
家賃:月額12万円
住宅取得のための毎月積立額:2万円、ボーナス積立額:4万円/回(年額:32万円)
住宅取得のための自己資金:600万円

この世帯の家賃と住宅取得のための貯蓄額の年額は、以下の通りです。

家賃額:12万円×12カ月=144万円
住宅取得のための貯蓄額:(月2万円×12カ月)+(ボーナス4万円×2回)=32万円
合計:144万円+32万円=176万円

これを12カ月で割ると、176万円÷12カ月=14.7万円になります。

したがって、14.7万円を毎月返済額に決めてもよいのですが、住宅を取得した後は毎年固定資産税がかかります。マンションの場合は管理費や修繕積立金などもかかります。また、この世帯は子供の成長に伴って今よりも教育費がかかるでしょう。これらのことを考えて、長期的に安定的に返済できる額をやや少なく見積もり、毎月返済額を12万円と仮に決めることにしましょう。

定年時の退職金が多い会社に勤務している場合や、共働きで妻にも収入がある場合には、やや多めに設定してもいいかもしれません。

「返済期間」の決め方

毎月返済額を決めたあとは、返済期間を決めましょう。理想は定年年齢までです。定年までに返済が終われば、退職金をすべて老後資金に使うことができます。事例の定年年齢は60歳ですので、60歳-35歳=25年が理想的と言えます。

ただ、これから子供の教育費がかかるため毎月返済額を抑えたいと思う場合には再雇用が終わる65歳まで、また、退職金の一部で住宅ローン完済ができそうなら、もっと返済期間を長くしてもいいかもしれません。ここでは、仮に65歳までの30年間と決めることにしましょう。

「適用金利」の決め方

住宅ローンの金利は、市場金利によって変動し、実際の借り入れ時の金利が適用されるため、自分で決めることはできません。

借り入れ可能額を試算するときの適用金利は、最も金利水準が高い「全期間固定金利タイプ」を活用し、試算するときに実際に提示されている金利を活用しましょう。ここでは、全期間固定金利タイプの代表格である「フラット35」の2017年3月金利1.120%(借入期間21年以上、融資率9割以下の最低金利)を使いましょう。

ネットを使って「借り入れ可能額」を試算する

「毎月返済額」「返済期間」「適用金利」を決めると、「借り入れ可能額」が試算できます。現在では住宅ローン取り扱っている様々な金融機関が、自社のサイトに試算機能を設けていますので、簡単に算出することができます。

【金利:1.120%のときの借入可能額】

毎月返済額:12万円、返済期間:30年、適用金利:1.120%の場合、借り入れ可能額は3,667万円になります。

事例の世帯では、自己資金が600万円でしたので、3,667万円(借り入れ可能額)+600万円(自己資金)=4,267万円の予算枠で、住宅の価格と諸経費を捻出することになります。

借り入れ可能額の試算は、条件を変えていろいろやってみるといいでしょう。上記の表を例にとると、毎月返済額を1万円増やすと借り入れ可能額は200万~300万円アップします。返済期間を5年延ばすと400万~600万円アップします。金利を変更してもいいでしょう。

この試算は、是非、夫婦で一緒に、様々条件を変更していっていただきたいと思います。マイホーム予算を夫婦で検討することは、マイホームのことだけでなく、子供の教育や夫婦の老後、仕事のこと、家計の運営の仕方など、今後のライフプランに関する様々なことを一緒に考えることにもなります。その中で、長期的な家族の目標を決めることにもつながります。

執筆者プロフィール : 中村宏(なかむら ひろし)

ファイナンシャルプランナー(CFP認定者)、一級ファイナンシャルプランニング技能士。ベネッセコーポレーションを経て、2003年にFPとして独立し、FPオフィス ワーク・ワークスを設立。

「お客様の『お金の心配』を自信と希望にかえる!」をモットーに、顧客の立場に立った個人相談やコンサルティングを多数行っているほか、セミナー講師、雑誌取材、執筆・寄稿などで生活のお金に関する情報や知識、ノウハウを発信。新著:『老後に破産する人、しない人』(KADOKAWA中経出版)

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