【コラム】

経済ニュースの"ここがツボ"

42 VWは不祥事の"典型"パターンの一つ--トップの指示? 黙認?

 

42/74

連載『経済ニュースの"ここがツボ"』では、日本経済新聞記者、編集委員を経てテレビ東京経済部長、テレビ東京アメリカ社長などを歴任、「ワールドビジネスサテライト(WBS)」など数多くの経済番組のコメンテーターやプロデューサーとして活躍、現在大阪経済大学客員教授の岡田 晃(おかだ あきら)氏が、旬の経済ニュースを解説しながら、「経済ニュースを見る視点」を皆さんとともに考えていきます。


VWの排ガス不正問題、組織ぐるみの疑いが一段と強まる

フォルクスワーゲン(VW)の排ガス不正問題の波紋がなおも広がりを見せています。焦点の一つはVWが不正に手を染めるようになった原因と背景の究明ですが、先週から今週にかけてさまざまな続報が相次いでいます。

各種報道を総合すると、排ガスを操作する違法ソフトは2008年頃から搭載し始めており、複数の幹部がそれを認識していたなど組織ぐるみの疑いが一段と強まっています。これがトップまたは上層部からの指示なのかははっきりしませんが、あるいは上司が具体的な言葉で指示しなくても、技術者が強いプレッシャーを感じて不正ソフトを使い始めたということも考えられます。エンジンの開発・製造には数多くの技術者が携わることや不正ソフト搭載の規模が大きいことを考えれば、社内でかなりの人数、そしてかなりの上層部が不正にかかわっていたか、または知っていたと見る方が自然でしょう。

東芝の不正会計問題と似た構図

このように考えていると、東芝の不正会計問題と構図が似ている気がしてきました。不正の内容は全く異なりますが、東芝の第3者委員会の調査報告によりますと、歴代社長や会長など経営トップが各事業部門の責任者に対し高い目標を課して利益を上げるよう強い調子で要求し、目標に達しない旨の報告を上げると突き返すといったことが長年にわたって繰り返されていました。このため各事業部門の責任者は利益を水増しするようになったというものでした。ひょっとするとVWの技術者もそのような立場に追い込まれていたのかもしれません。

東芝の歴代トップは「自分が利益水増しを指示したことはない」と否定しましたが、具体的に指示しなくとも、部下をそのような状態に追い込み会社全体を不正の道に走らせたことは間違いないわけです。社内では不正会計を多くの幹部が認識していながら、それをトップに指摘したり改善を進言する人はほとんどいなかったそうで、上司に逆らえないという企業風土があったと言われています。VWにもそのような企業風土があったかどうかは定かではありませんが、不正に多くの人がかかわっていた可能性や何年間にもわたって行われたことを見ると、結果としては共通する問題点があったように感じます。

数多くの企業不祥事、いくつかのパターンに

これまでも国内外で数多くの企業不祥事がありましたが、それらを総合するといくつかのパターンに分けることができます。

同じ自動車業界では米国のGM(ゼネラル・モーターズ)が昨年、大量のリコールに追い込まれました。エンジン点火装置の欠陥があったにもかかわらず10年以上も放置し、その間に124件の死亡事故が起きていました。昨年になってようやくリコールを開始し、その台数は3000万台に達しました。今年9月、米司法省に9億ドルの和解金、集団訴訟で5億7500万ドルの和解金を支払うことで合意したばかりです。

この問題はGMの経営を揺るがしかねない不祥事でしたが、エンジン点火装置の欠陥自体は意図的なものではなく、問題だったのは10年以上も放置していたことでした。実は不祥事で多いのがこのパターンです。不祥事を認識しながら解決を先送りにしたり黙認して事態を深刻化させたケースは少なくありません。VWの場合は「東芝型」だったのか「GM型」だったのかの見きわめは、もう少し事実関係の調査を待たなければなりませんが、不祥事のパターンとしては一つの典型例と言えそうです。

「オリンパス型」あるいは「エンロン、ワールドコム型」の不正か

もう一つの可能性として、VWの辞任した前CEOなど経営トップ自ら何らかの不正の指示をしたか隠ぺいなどを指示していたとすれば、それは「オリンパス型」あるいは「エンロン、ワールドコム型」の不正ということになります。

オリンパスの損失隠しは覚えている人も多いかと思いますが、90年代の財テク失敗で抱えた1000億円の損失を隠すため粉飾決算を長年続けていたというものです。元社長が一部の役員などに指示して行っていたことが明らかになり、元社長など7人が逮捕・起訴される事件となりました。

このケースはトップ自らが積極的に不正を行うという、企業不祥事としては最も悪質なものでした。元社長は数人の幹部に指示し、彼らの間だけで秘密を共有するという構図で、2001年に就任した英国人社長が会計の不透明さを指摘して逆に解任され、それがきっかけで明るみに出たものでした。

トップ自ら主導して起きた不祥事には、国内ではかつて廃業に追い込まれた山一證券の損失隠し、カネボウの粉飾決算などがありますが、世界的に最もインパクトのあったのが米国のエネルギー・IT複合企業のエンロン、大手通信会社のワールドコムの粉飾決算があります。

エンロンは2001年、ワールドコムは2002年に、相次いで粉飾決算が明るみに出た事件です。両社とも急成長を遂げた全米屈指の巨大企業で、粉飾規模もケタはずれでした。結局、両社とも経営破綻に追い込まれましたが、まずエンロンが当時としては史上最大の負債総額で倒産、翌年にワールドコムがその記録を塗り替えるという大ニュースでした。その後、2008年にリーマンが破たんするまでは米国史上最大の経営破綻となっていたと言えば、その衝撃の大きさをわかっていただけると思います。

当時、私はテレビ東京の転勤でニューヨークに駐在していましたので、この両社の事件は強烈でした。当時の米国はちょうど2001年の9.11同時多発テロの直後で、その衝撃さめやらぬ時期で、景気が急速に落ち込んでいた時でしたので、両社の粉飾と倒産は米国経済の冷え込みに拍車をかける結果となりました。

しかし両事件がきっかけとなって米国で企業統治(コーポレートガバナンス)を確立するための企業改革法が成立し、その影響で日本でも企業統治が重視されるようになったといういきさつがあるのです。その結果、米国も日本も欧州も先進国では制度の仕組みとしてはかなりしっかりしたものができていると言ってもいいでしょう。

企業不祥事はなくならないのが現実

しかし残念ながら、それでも企業不祥事はなくならないのが現実です。粉飾決算や不正会計と排ガス不正などとでは具体的な内容は異なりますが、根本的には企業経営者の姿勢、あるいは企業風土や意識の改革が重要だという点では共通しています。

VWは財務的には経営危機に陥る恐れは少ないと言われていますので、第二のエンロン、ワールドコムになる可能性は少ないでしょうが、早くも影響は現れています。 VWは9月の米国での新車販売台数が前年同月比0.6%増にとどまりました。米国ではもともとシェアが少ないのですが、市場全体では15.8%増で各社が二ケタの伸びとなったのと比べると、不振が際立っています。ドイツでも3.8%増と増加したものの、市場全体の平均伸び率を下回っています。

9月の米新車販売台数

ただ今回の問題はVWだけにとどまりません。この連載の前号で指摘したように、まず排ガス試験のあり方を抜本的に見直す必要があります。さらに、あえて言うなら自動車業界ではこれまでもさまざまな問題が起きています。GMは前述の通りですが、そのほかにも日本の部品メーカー、タカタのエアバッグのリコール問題、韓国の現代自動車が燃費の数値を誇大表示などが挙げられます(トヨタの米国でのリコール問題は、問題視された事例のほとんどが"濡れ衣"だったことが後になって明らかとなっています)。

自動車業界としても再発防止策など重い課題を背負うことになりますが、その基本は企業統治(コーポレートガバナンス)の確立です。それも形ではなく、経営者の断固とした姿勢と企業内部の意識改革など中身で。一般的に、米国では不祥事に対するメディアの論調は日本より厳しい印象で、今回の件でも「Scandal」と言う言葉を使っています。米国には集団訴訟の制度もありますので、それだけ企業はコーポレートガバナンスに真剣に取り組むことがより必要になっています。

企業が社会の信頼を得ることは健全な資本主義経済の発展に不可欠です。あらゆる業界や企業はVWの問題を他山の石とすべきだということを強調しておきたいと思います。

執筆者プロフィール : 岡田 晃(おかだ あきら)

1971年慶應義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞入社。記者、編集委員を経て、1991年にテレビ東京に異動。経済部長、テレビ東京アメリカ社長、理事・解説委員長などを歴任。「ワールドビジネスサテライト(WBS)」など数多くの経済番組のコメンテーターやプロデューサーをつとめた。2006年テレビ東京を退職、大阪経済大学客員教授に就任。現在は同大学で教鞭をとりながら経済評論家として活動中。MXテレビ「東京マーケットワイド」に出演。

42/74

インデックス

連載目次
第74回 トランプ大統領の衝撃--保護主義が最大の懸念だが国内経済政策には期待も
第73回 米大統領選の世論調査、トランプ氏が上回る - 株価下落・円高が現実に!?
第72回 米大統領選はどうなる!? 大詰めで波乱 - 市場は「トランプ大統領」を警戒
第71回 米大統領選が終盤戦 - 苦しくなったトランプ氏、浮かび上がった3つの問題点
第70回 現地で見た”Brexitショック”のその後(下) - スコットランド独立? 北アイルランドも!?
第69回 現地で見た"Brexitショック"のその後(上) - 予想外に活気があった英国
第68回 リオ五輪のメダル最多で、景気は本格回復!? 五輪と景気の意外な関係
第67回 28兆円の経済対策と内閣改造 - アベノミクス再強化でデフレ完全脱却めざす
第66回 トルコのクーデター未遂事件の影響は? 中東安定、難民問題、欧州経済の鍵
第65回 参院選の与党勝利はアベノミクスへの信任--脱デフレへ10兆規模の経済政策
第64回 英国EU離脱ショックはリーマン・ショック級--欧州統合は空中分解のおそれ
第63回 英国がEU離脱なら株安・円高進行のおそれ
第62回 消費増税を延期した本当の理由 - 経済成長なしに財政再建はあり得ない
第61回 伊勢志摩サミット、注目は"財政出動"--終了後に消費増税延期を正式決定か
第60回 急激な円高・株安はなぜ起きたか - 米大統領選も円高要因に?
第59回 セブン&アイ鈴木会長、突然の退任に波紋 - セブンは強さを維持できるか
第58回 公示地価は全国平均で8年ぶり上昇、地方圏も底上げ--資産デフレ脱却へ前進
第57回 自動車・電機など賃上げ低水準、景気浮揚には力不足 - 消費増税延期の後押し材料に?
第56回 "トランプ旋風"いつまで続くか - 世界経済にマイナスの影響のおそれ
第55回 シャープが台湾・鴻海の傘下入りで再建の行方は? - 創業者・早川徳次の不屈の精神を取り戻せるか
第54回 株安・円高が加速 - 主な原因は海外だが……
第53回 マイナス金利の影響早くも広がる - 預金金利引き下げなど続々
第52回 マイナス金利を導入したのはなぜ? - 景気回復が期待できる4つの経路
第51回 原油安で"イランつぶし"を狙ったサウジの戦略は変化するか?--減産の兆しも
第50回 原油安はいつまで続くのか!?--サウジVSイランで減産どころかシェア争いも
第49回 2016年、日本経済はどうなる?--"景気回復続く"4つの理由、消費増税再延期も!?
第48回 2015年の世界経済、救ったのは"米国"--2016年はギリシャ、原油安など要注意
第47回 パリの同時テロ、低迷する欧州経済に追い討ちか--"移動の自由"はどうなる!?
第46回 幕末の「薩長土肥」に学ぶ地方創生のヒントとは!?--日本は今"第2の明治維新"
第45回 中国やブラジルなど新興国はなぜ変調?--今や"世界経済最大のリスク"に
第44回 消費税の軽減税率、安倍首相は財務省に不信感--再増税自体の先送りも?
第43回 ノーベル賞日本人2人受賞の快挙が示す日本の底力
第42回 VWは不祥事の"典型"パターンの一つ--トップの指示? 黙認?
第41回 VWの排ガス不正、"史上最悪"の企業不祥事 - 自動車業界全体に影響広がる
第40回 欧州への難民流入、EU統合の理念揺るがす--受け入れめぐり"東西対立"
第39回 日経平均下落の原因は"中国"だけではない--"安倍景気"息切れ、追加緩和も
第38回 中国はなぜ人民元を切り下げた? - 「経済安定」こそ習近平政権の生命線
第37回 優等生・東芝はなぜ「利益水増し」を行ったのか!?--日立への対抗意識も動機
第36回 ギリシャ・チプラス首相はなぜ"豹変"したのか!?--EU支援決定の舞台裏
第35回 中国株はなぜ急落したのか!?--EUと深い関係、ギリシャ危機の影響に注意
第34回 ギリシャ「緊縮反対」が"勝利"、デフォルト・ユーロ離脱に突き進むのか!?
第33回 ギリシャ、ついにデフォルトか!?--7・1デフォルトの場合、国民投票はどうなる?
第32回 ギリシャ危機はひとまず回避、しかし険しい道続く--ロシア・中国の影も…
第31回 米国の利上げはいつ? - イエレン議長のバックグラウンドを考慮すると…
第30回 円安はどこまで進むのか?--米国はいつまで円安を"容認"する!?
第29回 日本の対外純資産が24年連続で世界一、もはや"貿易"で稼ぐ国ではない!?
第28回 "どん底"からの復活 - シャープは創業者・早川徳次氏の精神を取り戻せ
第27回 トヨタが3期連続最高益へ、好決算の陰で"死角"はないのか!?
第26回 安倍首相訪米の隠れた"もう一つの成果"--なぜ米国は「円安」を容認するのか?
第25回 「TPP交渉」加速の陰に「AIIB」の存在あり--日本を巡り米国と中国が綱引き
第24回 セブンが独走し明暗分かれるコンビニ業界--セブン好調はマック低迷と関係!?
第23回 「株価回復は2万円で終わりではない」 - 長期的な上昇相場の"通過点"
第22回 日銀短観、「景況感は横ばい」の"謎"--デフレの"トラウマ"いまだ
第21回 サウジはなぜイエメン内戦に介入!?--原油価格や世界経済に新たな波乱要因か?
第20回 貿易赤字が縮小傾向、何が起きているのか? - その原因と影響を探る
第19回 3月中にも「日経平均2万円」達成か--"賃上げ・原油安"が強烈な追い風に
第18回 賃上げ機運高まる - "実質賃金"はプラスに転換できるか?
第17回 なぜ日経平均が15年ぶりの高値をつけたのか!?--日本経済の"歴史的転換"背景
第16回 「日経平均」が15年ぶりの高値、過去3回の上昇局面と何が違うのか!?
第15回 ギリシャの「ユーロ離脱」はありうるのか?(3)--ドイツへの"敵意"の背景とは!?
第14回 ギリシャの「ユーロ離脱」はありうるのか?(2)--ユーロ発足時から危機の"タネ"
第13回 EUはけしからん!? - ギリシャの「ユーロ離脱」はありうるのか?
第12回 ECBがついに「量的金融緩和」、原油価格の下落で"最終決断"
第11回 フランスのテロ事件、経済への影響は? - 世界を揺るがす「地政学リスク」
第10回 なぜ原油価格が下落している?(2) - ヘッジファンドなどの資金が一斉に"逃げ"
第9回 2015年の米国経済、注目点は!? - 3つの構造変化で景気持続の可能性
第8回 2015年の日本経済はこうなる - 「日経平均2万円」へ"4つの追い風"
第7回 原油安でルーブル暴落、ロシアは一体どうなるのか?--欧米による"経済制裁"!?
第6回 総選挙で自民・公明の与党が勝利、でも株価が下落したのはなぜ?
第5回 なぜ原油価格が下落している? - OPECと米国が"我慢比べ"、日本への影響は?
第4回 "訪日外国人数"が過去最高 - 「観光」は"経済成長"の柱になりうるのか?
第3回 "GDPショック"走る - 消費再増税延期・衆院解散でアベノミクスの行方は?
第2回 「米中間選挙」でオバマ民主党が"歴史的大敗"、日本経済への影響は?
第1回 "電撃的"だった日銀の「追加緩和」~その背景と効果は?

もっと見る

関連キーワード

関連記事

あなたは貯まる人? 貯まりにくい人? "貯蓄力"がアップする「貯蓄力診断」
[2015/9/30]
経済ニュースの"ここがツボ" 第41回 VWの排ガス不正、"史上最悪"の企業不祥事 - 自動車業界全体に影響広がる
[2015/9/28]
経済ニュースの"ここがツボ" 第37回 優等生・東芝はなぜ「利益水増し」を行ったのか!?--日立への対抗意識も動機
[2015/8/7]
円の行方、ドルの行方 第3回 フォルクスワーゲン不正問題に思う--ドイツから米国へ富の移し替え!?
[2015/9/28]
窪田真之の「時事深層」 第31回 独フォルクスワーゲンが"とんでもない"不祥事--日本の自動車産業への影響は!?
[2015/9/24]
経済ニュースの"ここがツボ" 第36回 ギリシャ・チプラス首相はなぜ"豹変"したのか!?--EU支援決定の舞台裏
[2015/7/21]
経済ニュースの"ここがツボ" 第35回 中国株はなぜ急落したのか!?--EUと深い関係、ギリシャ危機の影響に注意
[2015/7/13]
経済ニュースの"ここがツボ" 第11回 フランスのテロ事件、経済への影響は? - 世界を揺るがす「地政学リスク」
[2015/1/20]
経済ニュースの"ここがツボ" 第13回 EUはけしからん!? - ギリシャの「ユーロ離脱」はありうるのか?
[2015/2/3]
経済ニュースの"ここがツボ" 第34回 ギリシャ「緊縮反対」が"勝利"、デフォルト・ユーロ離脱に突き進むのか!?
[2015/7/7]

人気記事

一覧

イチオシ記事

新着記事