フジテレビ系平日昼の情報バラエティ番組『バイキング』(毎週月~金曜11:55~)が、7月6日の放送で自己最高視聴率8.0%(ビデオリサーチ調べ・関東地区、以下同)を獲得し、初の横並びトップとなった。この週(7月3~7日)の平均は6.5%となり、初めて日本テレビ系『ヒルナンデス!』を抜くなど、昼の勢力図を塗り替えつつある。

32年間にわたって放送され、お昼の代名詞だった『笑っていいとも!』の後を受けてスタートした同番組。当初は苦戦が続いていたが、ニュースや時事ネタをスタジオで生討論する現在のスタイルを採り入れてから、視聴率が徐々に上昇してきた。

そこで、ここに至るまでの経緯や今後の展望、そしてMC・坂上忍の素顔などについて、フジテレビの小仲正重チーフプロデューサーに話を聞いた――。


小仲正重
1973年生まれ、東京都出身。立教大学卒業後、96年にフジテレビジョン入社。以来、バラエティ制作で『ダウンタウンのごっつええ感じ』ADからスタートし、『笑う犬』シリーズでデイレクターとなり、『ワンナイR&R』『チンパンニュースチャンネル』『ワールドダウンタウン』『(株)世界衝撃映像社』などを担当し、現在は『バイキング』『ネプリーグ』『新しい波24』のチーフプロデューサー。

――『笑っていいとも!』という大きな番組の後を受け、最初は苦戦していましたが、3年たってようやく結果が出てきましたね。

正直言いますと『いいとも』の後枠だけはやりたくないな…と思ってたんです(笑)。あまりにも偉大な番組だったので。そんな中、僕に話が来たので、最初、港(浩一バラエティ制作担当常務、現・共同テレビ社長)さんに「僕よりも適任者がいると思います…」と辞退気味に答えたら、「会社がお前で行くって言ってるんだから、ここで意気に感じるのが男だろ! 何断ろうとしてんだ!」ってものすごく怒られまして(笑)。そんな中で『いいとも』は終了が発表されて以降、どんどん視聴率が上がっていき、最後は『グランドフィナーレ』でテレビ史に残るような奇跡の共演が次々に起こって。その光景を『バイキング』のスタッフルームで、翌日の初回放送の準備をしながら見ていて、あらためて「これはエラいことになったな…」と思いましたね。

――『いいとも』終了後には「タモロス」という言葉も生まれました。

もうタモリさんが神の領域に達してましたから。そして、『バイキング』がスタートするとネットニュースに「また視聴率が下がった」「2%、1%が出た」と書かれてしまい…。それはひとえに我々制作陣の力の無さが原因だったんですが、今振り返るとそういった壮絶な逆風があったからこそ、チームが団結できたように思えます。

――そんな中で、転機はどのタイミングであったのでしょうか。

まだ「生ホンネトークバラエティ」という現在のスタイルを打ち出す前、昨年の1月くらいに、坂上さんから時事ネタを扱ってみたいという提案があったんです。番組開始当初に「Yahoo!検索急上昇ランキング」という時事ネタを扱うコーナーがあったんですけど、それをもっと本格的にやろうという話になって。早速、2月上旬の金曜バイキングに東国原英夫さんをゲストに迎えてガッツリ時事ネタ討論にトライしました。ちょうど前日にある大物有名人が違法薬物関連で逮捕されたというニュースがあって、スタジオがどんな空気になるか不安だったんですが、そこで坂上さんが7分半にわたってその事件に対する持論を展開されたんです。あえて厳しいことも恐れずに言う姿を間近で見て、坂上さんの覚悟を知り、こちらも覚悟が決まりました。それが1度目の転機です。

金曜日のトライで「時事ネタ生討論スタイル」に手応えがあったので、4月には全曜日で時事ネタを扱っていくことになったんですが、7月に2回目の転機が来ました。東京都知事選の主要3候補(増田寛也氏、小池百合子氏、鳥越俊太郎氏)がスタジオに生出演したんです。これは北口(富紀子)という火曜班のプロデューサーが「都知事選の候補者で生討論をやりたい」と提案してきて、僕は内心「さすがにバラエティ班が作っている『バイキング』には来てもらえないだろ…」と思ったんですが、北口には「(ブッキングするべく)動いてみよう」と指示をしました。そうしたら北口がOA前日まで粘って、なんと3氏全員のOKをもらってきたんです。結果的に、地上波全局全番組の中で主要3候補が同時にスタジオ出演した番組はまさかの『バイキング』だけでした(笑)。

すると、翌日の『めざましテレビ』から『みんなのニュース』まで、フジテレビの全ニュース・情報番組で『バイキング』での討論映像が多く流れました。それによって、それまで『バイキング』をよく知らなかった視聴者の方にも「バイキングってこういう番組なんだ」と認知していただいたのではないかと思っています。

生放送が行われているフジテレビ=東京・台場

――「生ホンネトークバラエティ」を導入した当初、出演者の皆さんはどんな反応だったんですか?

正直、戸惑っていた出演者の方もいたと思います。元々、スタートした時はニュースについて持論を言うというコンセプトの番組ではなかったわけで、出演者・スタッフともにニュースに対して色んな意味で経験値がありませんでした。でも、時間をかけていろいろなニュースに向き合っていく中で、少しずつ今の番組コンセプトに慣れてきたという感じです。最近は特に各週刊誌さんがとんでもないスクープを飛ばされるので、出演者の方々にとっては生放送ではコメントしにくいネタもあると思いますが、皆さん、踏ん張ってコメントをしてくれています。

――最近は、放送中のトークなどを拝見しても、スタジオの雰囲気がすごく良いように見えます。

数字が悪かった時期は、みんな口には出さないんですけど、しんどかったです…。まだ1回横並びトップを取っただけですし、立場は変わらず挑戦者ですが、最近数字が上向いてきてスタジオの空気が変わったというのは、社内外から言われますね。

――先日、大相撲の懸賞幕を番組名で出すという企画もありましたが、まさにスタジオの良い空気感から出てきたアイデアですよね。

あれは事前の打ち合わせが全くなく、本番で坂上さんが突然、発案されたんです。『バイキング』には芸人さんもたくさんいて、皆さんアイデアマンですので生放送中に面白い発想が生まれるんだと思います。ちょっと硬めの情報番組では「懸賞幕を出そう!」なんていう話にはならないと思いますが、そこがバラエティ班で作っている『バイキング』のノリであり、カラーなんだと思います。

――坂上さんがライオンの担当者の人をイジるインフォマーシャルにも、そういうノリの雰囲気を感じます。

あの掛け合いの最後のオチは、ライオンさんが作ってきてくれる台本があるんですけど、坂上さんは担当の方々のキャラを見て、本番でオチのセリフを変えるんです(笑)。坂上さんはスタッフとすごく向き合ってくれるんですよ。上はうちの局長から、下は入りたてのADまで、スタッフ皆と飲みに行きます。だから自然とチームも1つにまとまりますよね。『バイキング』での坂上さんはMCであり"座長"なんです。