フジテレビ系ドラマ『貴族探偵』が、きょう26日(21:00~)に最終話を迎える。アイドルグループ・嵐の相葉雅紀主演で、"月9"30周年、キャストに生瀬勝久、松重豊、滝藤賢一という豪華バイプレイヤー陣に加え、脇に回る中山美穂、声だけ出演の仲間由紀恵など(第7話から秘書・鈴木役として登場)の贅沢なキャスティングでフジの社運を賭けたともいわれた作品だったが、視聴率(ビデオリサーチ調べ・関東地区)は初回に2ケタを記録して以降、7~8%と決して成功したとは言えない数字になっている。

だが、本作の原作者・麻耶雄嵩ファンの間では「見事に実写化された」と絶賛されるなど、視聴者によって大きな温度差も感じるこの作品は、果たして失敗作なのか。視聴率とは違う別指標"満足度"を計測する「テレビウォッチャー」(データニュース社)の研究員が、その真偽を分析した。

●「テレビウォッチャー」満足度調査概要
・対象局:地上波(NHK総合、NHK Eテレ、日本テレビ、テレビ朝日、TBS、テレビ東京、フジテレビ)
・サンプル数:関東1都6県、男性1,200+女性1,200=計2,400 ※回収数は毎日変動
・サンプル年齢構成:「20~34歳」「35~49歳」「50~79歳」各年代男女各400サンプル
・調査方法:毎日モニターにテレビ視聴に関するアンケートを同じアンケートモニターへ配信、データを回収するウェブ調査
・採点方法:最高点を「5」とし、「3.7」以上を高満足度に基準

実は「満足度」も高くないが…

『貴族探偵』に出演する(左から) 井川遥、生瀬勝久、武井咲、松重豊、中山美穂、滝藤賢一

『貴族探偵』の満足度は、初回から第9話まで2.99→3.07→3.10→3.30→3.30→3.16→3.33→3.35→3.28という推移。やや上昇傾向にあるが、高満足度の基準は3.7以上のため、決して高い数値ではない。

その満足度を低くしている要因を視聴者の自由回答から読み解くと、「相葉くんがいまいち貴族に見えない」(44歳女性)、「主役が捜査しないドラマなんてありえない」(37歳女性)、「おもしろいのかつまらないのかよくわからない感じ」(31歳女性)など、貴族という突飛なキャラクターで、しかもその主人公が捜査をしないという今作の肝である設定に視聴者は戸惑い、「面白いかどうかわからない」と全体の満足度を下げているようだ。

だが一方で、視聴者層別に見ると、M3層(50歳以上男性)の満足度が最も高く3.61と、意外な層に響いていることが分かる。その層の感想を見てみると「ユーモアがあってなかなか推理が面白い」(59歳男性)、「予想外でおもしろい」(63歳男性)、「貴族探偵、あなたは誰?」(69歳男性)など、独特な世界観にハマっている視聴者も多い。

加えて、「このドラマはなぜか、うちの夫や同僚のだんなさんなど、男の人に人気がある」(47歳女性)と言った声もある。今作は嵐・相葉の主演ドラマでありながら主人公をなかなか登場させない、月9でありながら恋愛じゃない、というこれまでの定石を崩した作品。それだけに、ドラマに対して先入観のない世代こそ、入り込めるという側面もあるのだろう。

連ドラとしての面白さを追求した意欲作

このように一部の視聴者からは絶賛され、受け入れられてはいるのだが、視聴率や満足度に反映されないのは先のような理由のほかに、この作品がいくつもの伏線が仕掛けられている"ちゃんとした作品"であるにも関わらず、「嵐・相葉主演」「月9ドラマ30周年」といったキャッチーな謳い文句が多いことから、その"ちゃんと"がなかなか気づかれない作品になってしまっている点もあるだろう。

例えば、第1話の冒頭。通常のミステリードラマの場合、殺人現場のシーンや事件の発端を見せ、冒頭から視聴者を引き付ける工夫をとるだろう。もしくはキャラクターの濃いドラマや普通の連ドラ第1話であれば、主人公の魅力が伝わるような場面を頭に持ってくるのがお決まりだ。

だが本作は、ミステリーかつ、特異なキャラクターが主人公のドラマでありながら、そのいずれの方法もとらず、主人公のライバル・女探偵(武井咲)と師匠(井川遥)の他愛もない会話からスタートさせ、それをグラグラとした不安定な撮り方で演出するという、視聴者にまず違和感を与える挑戦的な手法をとった。この演出によって、師匠が実は死亡していたと判明した後に振り返ってみると、あの初回の意味深な会話劇が、師匠を不安定に映す=死んでいるという暗示だったことが分かる。

しかし、これに関して視聴者は「え?師匠って亡くなってるの?」(28歳女性)、「切子が死んでいたという認識がなかったので、理解するのに時間がかかり本題がしばらく入ってこなかった」(37歳女性)、「ドラマの最初の方で師匠が登場していたけど、それは幻なの?」(53歳女性)など、分かりにくく理解できないという声も多かった。物語冒頭から仕掛けられた伏線を見抜けた視聴者にとっては、なかなか深いと感じるこの部分だが、さすがにそこまで見ていない視聴者にとっては、分かりにくい演出だったのだろう。

この他、第4話で気づくはずのない箇所に物語のキーにもなった幽霊を登場させたり、第1話から小道具として登場していた音声検索アプリが実は貴族探偵の罠だったり(しかも、声だけの出演と思われた仲間由紀恵を実際に登場させるという二重の衝撃)と、誰もが見過ごしてしまう部分にさえも意味を持たせる、実に"ちゃんとした作品"に仕上げている。さらに、死んだと思わせている師匠に関しても、最終回で実は…という余地も残しているこの作品の奥深さは計り知れない。


最近のテレビドラマは、毎分視聴率を気にするあまり、テンポや分かりやすさを優先する演出が多いが、今作は毎回視聴者が気づかないようなヒントを散りばめ、全体を見わたしたときに驚きを与えるという、連ドラとしての面白さを追求した意欲作。だからこそ、この作品が視聴率や満足度だけでは見えてこない作り手の熱意を汲み取らず、"失敗作"というレッテルを貼ってしまうのはもったいない。