――福田さんはバラエティ番組出身ですが、その経験がドラマに生かされていると思うのはどのようなところですか?

発想の仕方じゃないですかね。バラエティの人間として、映画やドラマに対してのコンプレックスというか、複雑な感情がどこかしらにあるんですよ。だから若干、斜めに見るところがあって、そういう斜に構えたところから生まれたアイデアっていうのが多いと思います。

『33分探偵』とか『コドモ警察』なんか、バラエティをやってないと絶対出てこない発想だと思うんですよ。「子役の演技がうまいっていうんだったら子供だけで刑事ドラマをやってみよう」とか。ドラマの方はそういう発想がもしでてきても「最初はいいけど、ネタが続かないよ」って言われて会議で潰れちゃうと思うんです。でも、僕ら放送作家は、何年も何年も同じ番組でネタを考えなければいけない。なおかつ、それは前よりも面白いものでなくてはいけないっていうのは習慣としてやってきてることなんですよね。だから、踏み切れるんですよ。

――確かに『ヨシヒコ』などもバラエティ番組的な形式ですよね。

バラエティのように、毎回「○○のコーナー」があるってフォーマットが決まっているんです。『ヨシヒコ』だったら仏(佐藤二朗)が出て来るコーナーがあって、メレブ(ムロツヨシ)の呪文のコーナーがあって、というふうに。それをやるときに、ドラマだと、呪文は前よりも面白いものをやらなきゃいけないから、呪文のネタ続くの?って心配される。でも、それに対する恐怖感が一切ないんですよ。「全然出るよ、そんなアイデア。ナンボでも出るよ」っていう。だって12話分、作ればいいんでしょ。俺らなんて10年間、『黄金伝説』をやってたんだからっていう感覚だから、ネタを考えるとかは逆に楽しみでしかない。そこはバラエティ作家としてやってきて、良かったところですね。

――ドラマを作る上で信条やモットーのようなものはありますか?

当然のことながら視聴者の人たちが楽しめるっていうのが絶対的な条件だと思うんですけど、いま視聴者の人が、テレビに求めているのは確実に「情報」だと思うんですよ。バラエティが完全に情報化してしまって、コントとかは絶対できない時代になっちゃった。それがバラエティだけではなく、ドラマにも押し寄せてきている。僕はいわゆる職業モノのドラマが「情報」として流行るのは全然いいなと思うんですけど、やっぱり作り手ですし、「情報」のない、ただただ面白いエンタテイメントというものも絶対的に必要なんじゃないかと思うんです。それがたとえ多くの視聴者には認めてもらえなくても、やり続けなければならないことなんじゃないかと思いますね。

――演出面でのこだわりはありますか?

俳優さんの魅力を楽しむというのを大事に考えてるんですよ。僕は極端に言えば、ストーリーなんてどうだっていいんですよ!(笑)。「いい話」みたいなことを言われても全くうれしくないし、「よくできてる」みたいな言葉に全く興味が無いんですよ。「まあ、出来はよくなかったけど、役者さんが面白かったね」って言われたい。

だから僕の仕事は、テレビに出て来る人気者のタマをどれだけ増やせるかってことだと思っていて、タマが増えていけばいくほど、いわゆるエンタテイメントを投下できる力が蓄えられていくんじゃないかと思うんです。やっぱり魅力的な人がテレビに出ていれば、みんな見るじゃないですか。若い層をテレビの前に座らせる努力は絶対にしないといけないと思っていますね。

――『ヨシヒコ』の山田孝之さんも、『アオイホノオ』の柳楽優弥さんも、『左江内氏』の堤真一さんも、それまでクールなイメージのあった役者さんを起用してそのイメージを壊していますが、どのような基準で役者さんを選んでいるんですか?

非常に生意気な言い方なんですけど、「いい匂いがする」。悪い言い方をすると、「イジりたい人」。小学生のときから、好きな女の子をイジメたいみたいな、イジりたいとかっていう欲求があるじゃないですか。これはわりと自分の嗅覚を絶対的に信じてるところがあるんです。どれだけ売れても興味がない役者さんもいるんですよ。うまいだけの役者にも興味がない。そういう役者さんって「うまいでしょ」って顔するでしょ(笑)。逆に知名度にかかわらず、なんかこの人をイジってみたいなって人がいるんです。山田くんとか、柳楽くんに対してはまさにその典型だったんですよね。この子にこんな芝居させたら面白いんじゃないかっていうのがものすごくあって。堤(真一)さんもそうで、堤さんがマジな顔してカッコイイ芝居をすればするほど笑えちゃうんですよ。なにカッコイイ芝居してんだよ~って(笑)。そういう目線が昔からありますね。

その嗅覚で言うと、妻をすごく信頼していているんです。去年、山崎賢人くんと映画を撮ったんですけど、ホントに彼がいまほど全然メディアに出てきてない頃から、ウチの妻が「山崎賢人くんはいいから、次になにかやりたい映画があれば山崎賢人くんでやるべきだ」って。どこからか探してくるんですよ。ムロくんも菅田将暉くんもそうでしたね。

『スーパーサラリーマン左江内氏』クランクアップの様子(左から 小泉今日子、島崎遥香、横山歩、堤真一、福田雄一氏)
(C)NTV

――今回の『左江内氏』の中で、MVPを選ぶとしたら誰になりますか?

賀来賢人じゃないですかね。彼は去年、『宇宙の仕事』っていうAmazonで配信されたドラマを一緒にやったんです。その時に賢人が言っていたのは、「久しぶりに福田組の映像作品に呼ばれたので、先輩だろうがなんだろうが皆殺しにするつもりです」と。劇団☆新感線で共演してた橋本じゅんさんもいるし、ムロくんもいて、先輩がたくさんいたんですけど、ホントに「"俺が一番面白い"っていう匂いを福田さんにも見てる人にも、発信して納得させるだけの演技をしなきゃいけない」って意気込んでくれてたんです。だから『宇宙の仕事』での賀来賢人も本当にスゴかった。やっぱりアレがあったから『左江内氏』もあるんです。

今回、彼がクランクインしたばかりの頃、ちょっと遊んだシーンがあったんですけど、ゴールデンのドラマだと思ったからか少し抑え気味だったんです。だから「もっとやっていんじゃないの? 賢人、このドラマをゴールデンのドラマだと思って臨むと、ムロとか二朗にに完敗することになるぞ」って言ったんです。そしたら、だいぶがんばってくれましたね。

――本当に強烈なキャラクターでこんな弾けた演技ができる人なんだって驚きました!

でも役者さんって、多分ふざけた演技をすると「ふざけすぎたかな」って思っちゃうみたいなんですよ。第1話を仕上げた時に、これくらいやっていいと思ってふざけたところをだいぶ使ったんですよ。そしたらウチの嫁が出来上がりを見て「賢人くんが今頃不安になってる頃だから フォローしなきゃダメだよ」って言ったんです。それで、放送日の午前中ぐらいに「これぐらいやって全然大丈夫だから。絶対に視聴者は君のことを好きになる」ってLINEをしたら「ありがとうございます! ちょっと不安だったんで」て返ってきて、案の定不安だったんだなって。

でも、やっぱり第1話が終わってからのTwitterは、"賀来賢人祭り"でしたからね。「賀来賢人、面白い!」って。今回妻から言われている至上命題っていうのが、「このドラマでムロと二朗はもういいんだ」と(笑)。「今回のドラマで 中村倫也と賀来賢人の面白さをどう引き出すか」だって。基本的に嫁の指令で動いてるんで(笑)

――小泉今日子さんが演じる"鬼嫁"の役は、その奥様がモデルだそうですが、それに対する奥様の反応はいかがですか?

黙認……なのかな(笑)。だって文句の言いようがないと思うんですよ。実際に自分が言うようなことが書かれているだけなんで。ホントに8割方、ウチの奥さんが言った言葉で台本が埋められているので、「私、こんなことを言ったことない」なんて言えないし、むしろ、実際に言ってないセリフに関しては、いいセリフのほうが多いですから(笑)。例えば、コタツから頭だけを出して、夫に司令を出すっていうのは、ウチの奥さんの毎年の風物詩ですから(笑)

――そういう中でも、ドラマでは夫婦愛が感じられます。

嫁は怖いですけど、結局はなんだかんだ言っても家が好きなんですよね。仕事終わったら真っ先に家に帰りますし。プロデューサーといつも話してるんですけど、こんなにも夫婦の寝室の場面が多いドラマってあんまりないと思うんですよ。僕の場合は、家に帰ると必ずまず夫婦の寝室に最初に行って、嫁と1時間以上話さないといけないっていう"義務"があるんです(笑)。この時間が終わらないと仕事に移ってはいけないという規則。いきなり帰って仕事はできない。

――『左江内氏』の夫婦と関係は一緒ですね(笑)

まるっきり一緒です! ホントに演出することに迷いがないですね。小泉さんには絶対に言わないんですけど、これはどう演出しようかってなったときは、ウチの嫁がこうだからこっち、左江内さんは俺がこうだからこっちみたいな選択をしてるんで、迷いが全くない! 確固たる自信があります(笑)