武家の都の中心「鶴岡八幡宮」を目指して

鶴岡八幡宮は、言わば「武家の都」鎌倉の中心だ。現在も残る、鎌倉の主な道路など街の基本的枠組みをつくったのは源頼朝だが、京都生まれの頼朝は京都(平安京)を参考に鎌倉の街づくりに着手した。そして、京都で言えば天皇の住まわれる場所である内裏(だいり)の位置に、軍(いくさ)の神である八幡神をまつったのが鶴岡八幡宮なのだ。

正月の鶴岡八幡宮境内。三が日の参詣客の数は全国屈指

鶴岡八幡宮を出たら、目の前の道を左手に歩を進めよう。この先、バス通りを歩いて行くが、この道は「金沢街道」と言い、横浜市金沢区六浦(むつうら)方面へ通じている。鎌倉の海岸は遠浅で大きな船が着岸できなかったため、かつて六浦の港は鎌倉の都市経済を維持する上で、とても重要な存在だった。そのため鎌倉と六浦港を結ぶ金沢街道は、多くの人や物が行き交ったという。

さて、金沢街道を歩くこと20分ほどで、「報国寺入口」という交差点がある。ここから小さな川の流れを渡って谷戸(やと)の奥へ少し進むと、美しい「竹の庭」で知られる"竹寺"こと報国寺がある。

陽射しが差し込み美しい、報国寺の「竹の庭」

竹林の所々に灯篭や石仏を配したシンプルな庭は、「和」の雰囲気を感じられるスポットとして、近年とても人気が高く、休日ともなれば随分と人も多いようだ。竹林の一隅には、庭を眺めながら抹茶をいただける茶席「休耕庵」がある。竹の葉ずれの音に耳を傾けながら、ゆったりとした時間を過ごしたい。

報国寺の拝観を終えたら、バスで鎌倉駅へ戻ろう。ちなみに、報国寺の最寄りのバス停名は「浄明寺」といい、近くには鎌倉五山第五位の「浄妙寺」という寺院がある。バス停と寺の名前で違う漢字を使っているのは、聞くところによれば、格式の高い寺に遠慮して地名には違う漢字を当てたのだという。

若宮大路の中央に一段高く盛り土された、鶴岡八幡宮の正式な参道「段葛」

鎌倉駅までは、バスで10分ほど。途中、鶴岡八幡宮から鎌倉駅前までは、鎌倉のメインストリートである「若宮大路」の中央に一段高く盛り土された「段葛(だんかずら)」という歩道が車窓からも見える。段葛は、頼朝が妻である政子の安産を祈願して奉納したという鶴岡八幡宮の正式な参道なので、時間に余裕があるなら、ぜひ、バスを下りて歩いてみたいところだ。

●information
報国寺 竹の庭
拝観時間: 9:00~16:00(抹茶の受付は15:30まで)
拝観料: 200円 抹茶代: 500円
拝観休止日: 12月29日~1月3日

大仏や長谷観音の門前町、長谷エリアへ

最後は鎌倉観光の人気エリアである、鎌倉大仏や長谷寺の門前町でもある長谷へ向かおう。鎌倉駅から長谷へは江ノ電またはバスで向かうことができるが、今回は江ノ電を使おう。

鎌倉駅の江ノ電乗り場は西口にあり、バスロータリーのある東口とは逆側だが、IC乗車券を持っていれば東口のJR改札から入場し、そのまま江ノ電の改札を通ることができる。鎌倉駅から長谷駅までは、わずか3駅5分ほどだ。駅を下りれば門前町らしく、通りに沿って飲食店や土産物屋が並び、活気がある。

長谷寺は初夏のアジサイの名所。裏山の散策路では数多くの色とりどりの花を楽しめる

長谷寺までは、長谷駅から徒歩でおよそ5分だ。長谷寺の本尊である「長谷観音(十一面観音像)」は高さ9.18mもあり、歴史ある木造の仏像としては日本最大級のもの。また、境内からは由比ヶ浜の海岸を一望でき、とても清々しい。長谷寺は、初夏のアジサイ、晩秋の紅葉の名所としても知られ、紅葉の時期には鎌倉で唯一、夜間ライトアップが行われる。

また、大仏へは長谷寺から徒歩でさらに2分ほど。大仏は2016年3月に、およそ半世紀ぶりとなる本格的な調査・清掃作業が終了したばかり。ぜひ、きれいになった大仏さまをお参りしよう。

時間があれば、足をのばして「銭洗弁財天」まで

さて、ここまででも十分見所満載だが、もし時間と体力に余裕があるなら、「裏大仏ハイキングコース」を歩いて源氏山周辺にある"金運"にご利益ありとされる銭洗弁財天や、"仕事運"にご利益ありとされる佐助稲荷神社へも足をのばしてみよう。大仏から徒歩5分ほどの「大仏坂トンネル」の側道の石段がハイキングコースの入り口になっており、ここから源氏山までは、およそ20分だ。

銭洗弁財天の湧き水でお金を洗うと増えると言われることから、多くの人々が訪れる

鎌倉のランチは弁当もオススメ?

鎌倉を観光していて、意外に困るのがランチだ。鎌倉の飲食店は小規模な店が多く、人気店は休日ともなれば長蛇の行列ができるため、店に入れない観光客を指す「ランチ難民」という言葉もあるほどだ。

もし、天気が良ければ弁当を買って、外で食べるのもオススメだ。鎌倉駅の周辺では、鯵(アジ)のそぎ身を伝統の"合わせ酢"でしめた大船軒の「鯵の押寿し」(税込960円)や、昔ながらの手揚げ風の油揚げを使用したジューシーなロールいなり「はんなりいなり」(税込660円)など、おいしい弁当が売られている。

筆者自身、好物で昔から食べている大船軒の「鯵の押寿し」

さて、鎌倉の主要観光名所6カ所を1日で巡るモデルコースいかがだったろうか。今回紹介したコースを基本に、季節の花の美しいスポットや、穴場スポットなどを組み入れて、ぜひ、好みのコースを作り、鎌倉散策を満喫してほしい。

筆者プロフィール: 森川 孝郎(もりかわ たかお)

旅行コラムニスト、オールアバウト公式国内旅行ガイド。京都・奈良・鎌倉など歴史ある街を中心に取材・撮影を行い、「楽しいだけではなく上質な旅の情報」をメディアにて発信。観光庁が中心となって行っている外国人旅行者の訪日促進活動「ビジット・ジャパン・キャンペーン」の公式サイトにも寄稿している。鎌倉の観光情報は、自身で運営する「鎌倉紀行」で更新。