日本マイクロソフトは2016年10月25日、教育機関向け施策に関する発表会を開催。教育のデジタルトランスフォーメーション(変革)を加速させるため、新たな教員研修プログラムとICT教育研修モデルルームの設立、「Mincraft: Education Edition」の国内提供開始、SINET5とMicrosoft Azureの直接接続を発表した。
日本マイクロソフト 執行役員 常務 パブリックセクター担当 兼 Windowsクラスルーム協議会 理事長 織田浩義氏は、「単にソフトウェアやデバイスを配るのではなく、いかに新しい学び方を実用化し、定着させるかが重要。これまでもさまざまな観点から教育分野に貢献する取り組みを行ってきたが、さらに加速させる」と、日本のICT教育について誠実な姿勢を見せた。ここでは、Microsoft: Education Editionを中心に発表会の内容をレポートする。
日本マイクロソフトが注力する3つの教育施策
欧米に比べると、日本のICT教育は遅れている。ここ数年、ICT教育に関する取材をしてきた筆者の紛れもない感想だ。例えば米国では、「Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)」の頭文字を取ったSTEM教育を採用し、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)、ビッグデータなどを利活用できる次世代の人材育成に注力している。
日本政府も2016年からはICT教育分野に重い腰を上げ、2016年4月には、プログラミング教育を2020年までに小中学校で必修科目化することを提言(産業競争力会議)。2016年6月に閣議決定した「日本再興戦略2016」では、初等中等教育向けに「授業中にITを活用して指導できる教員を2020年までに100パーセント」「都道府県および市町村におけるIT環境整備計画の策定率を2020年までに100パーセント」など、ICT教育環境の整備や情報活用能力の育成を政府目標に掲げている。
Windowsクラスルーム協議会の理事長も務める日本マイクロソフト 執行役員 常務 パブリックセクター担当 織田浩義氏は、政府の取り組みに沿って、自社の戦略を次のように説明した。
「情報活用能力の育成」に対するプログラム教育の必修化については、「Minecraft: Education Edition」を2016年11月1日から提供し、文部科学省「情報教育推進校(IE-School)」を積極的に支援する。
「教育環境の整備」に対するICT教育の教員研修の提供については、「新たな教員研修プログラム」の提供と、産官学連携の教育研修環境となる「ICT教育研修モデルルーム」の提供だ。
AI/IoT/ビッグデータなどを牽引するハイレベルな人材育成に対するプラットフォーム構築については、国立情報学研究所の学術ネットワークであるSINET5とMicrosoft Azureを直結。これにより、教育関係者がパブリックトラフィックの影響を受けずに、Microsoft Azureを利用できるようになる。
「Mincraft」のICT教育活用がいよいよ始まる
Minecraft(マインクラフト)は、Markus "Notch" Persson氏とMojang ABが開発した、ブロックを組み合わせた仮想空間で自由に生活するサンドボックスゲーム。PCやコンソール機など多くのプラットフォームに移植され、世界中で人気を博している。
Microsoftは2014年9月にMojang ABの買収を発表し、現在はWindows 10上のUWP(ユニバーサルWindowsプラットフォーム)アプリケーションとしても動作するようになった。Microsoftは2015年の時点で、Minecraftを教育分野で活用できる「Minecraft in education」を発表しているが、教育の現場で適切に利活用できる形に変更したのが「Minecraft: Education Edition」だ。動作には、Windows 10、もしくはOS X El Capitan(10.11)以降を搭載したマシンと、Office 365 Educationアカウントが必要となる。
さて、Minecraftに触れたことがある読者諸氏は、「あの広大な世界に生徒が参加しても、自由気ままに動いて授業にならないのでは」と思うかもしれない。Minecraft: Education Editionでは、授業支援機能として、生徒の活動範囲を設定したり、居場所を示すマップを表示したりできる。また、生徒へのブロック一斉配布、授業を進行させるための教員用コンソール、カメラとポートフォリオを利用した学習記録といった機能も利用可能だ。
日本マイクロソフト パブリックセクター統括本部 文教本部 原田英典氏は、MinecraftとMinecraft: Education Editionの違いについて、「指導者(教師)がいるか否か。Minecraft: Education Editionへの参加はMinecraftと同じくLAN経由で行い、(Realmsのような)サーバーは必要ない。マルチプレイの上限である30名の参加が可能」と話す。
Minecraft: Education Editionは2016年11月1日(米国時間)から、教員あたり月額120円(ボリュームライセンス参考価格)で提供を開始。Windows Store for Businessでの購入も可能だ。ちなみに、学校の所属教員分を購入することで、生徒は無償で利用できる。
2016年10月25日から同年12月23日まで、「はじめよう教育用Minecraft活用キャンペーン」を実施。ライセンスを付与するための無償ボリュームライセンス契約を結べる教育機関(教育委員会や学校など)を対象に、教員2,500名(生徒約3万8,000名相当)に、1年間のMinecraft: Education Editionのライセンスを無償提供する。
また、Minecraftがスウェーデン生まれのタイトルであり、スウェーデンでは一部の学校が授業の必修科目としてMinecraftを採用している。そこでスウェーデン大使館から、「スウェーデン大使館主催Minecraftコンペティション」を主催することが明かされた。小学4年生から中学3年生までのグループを対象に、「2030年にどんな街に住んでいたいか、人にも地球にも優しい街にするには」といったテーマを掲げて、サステナブル(持続可能)な街を作成するコンテストだ。応募締め切りは2016年11月24日まで。最終選考および受賞記念スペシャルディナーは、2016年12月10日にスウェーデン大使館および駐日スウェーデン大使公邸で開かれる。
今回の発表会には、宮城教育大学 准教授 安藤明伸氏もビデオ参加。「これからの教育に対するMinecraft: Education Editionへの期待」として、次のように語った。「仮想空間環境としての利用に関心を持っている。適度に抽象化されることで、『不気味の谷現象(※)』が発生しにくくなる。また、ANDやNOTといったプログラミングの基本概念を(レッドストーンで)簡単に再現できるため、早い時点でプログラミング的思考を身に付けられる」と、Minecraft: Education Edition=ゲームではないことを強調している。
(※)不気味の谷現象
人間型ロボットやグラフィックスの外見、動作が人に近づくにつれ、一定の時点で好感が嫌悪感に変わること。
我々は遊びの中から概念や判断・思考パターンを見つけ、そして成長してきた。「命令を論理的に組み合わせることで、理論的に物事を解決する手法を体得できる」(織田氏)。一時期は小中学生の間で大人気となったMinecraftが、ICT教育という機能を身に付け、子どもたちのプログラミング的思考に役立つのは親の立場から見ても歓迎だ。Minecraft: Education Editionの普及が、日本のSTEM教育につながることを強く期待したい。
阿久津良和(Cactus)