人工知能が全人類の知力を上回る、いわゆる「技術的特異点(シンギュラリティ)」を提唱したレイ・カーツワイル氏が、日本で講演を行った。人工知能(AI)の世界的権威といわれる同氏が見据える、シンギュラリティ到達後の人類の未来はどのようなものだろうか。
天才発明家にしてビジョナリー
レイ・カーツワイル氏は1948年生まれの68歳。子供の頃からコンピュータでプログラムなどを作成し、OCRソフトやシンセサイザー、フラットベッド・スキャナーなど数々の発明でも知られる発明家にして実業家でもある。
過去の著書ではインターネットの普及やチェスでコンピュータが人間を負かす時期をかなり正確に予測し、「収穫加速の法則」や、「技術的特異点」(シンギュラリティ)などを提唱するなど、未来の技術動向についての予測の正確さには高い評価を集めている。現在のAI研究において、技術面だけでなく精神的にも非常に大きな影響力を持った一人であり、ある種の思想家・ビジョナリーといってもいいだろう。2012年に米Googleに入社し、現在はGoogleでAIの開発を指揮。大脳新皮質の構造をコンピュータでシミュレーションする「Neocortex Simulator」の開発に取組んでいる。
そんなカーツワイル氏が、ワークスアプリケーションズ主催のイベント「COMPANY Forum 2016」において講演を行った。講演のタイトルは「The Future of Intelligence」、もちろんテーマは人工知能とシンギュラリティだ。
テクノロジーは指数関数的に発展する
カーツワイル氏は過去の人類の科学技術がこの1世紀程度の間に指数関数的に爆発的な発展を遂げていることを、ムーアの法則などに触れながら指摘し、こうした発展経路を考えると、将来の技術でどのようなことが起きるかを予想できるとした。いわゆる「収穫加速の法則」だ。
ムーアの法則は「半導体の集積率は18カ月で2倍になる」という経験則だが、収穫加速の法則では、技術は自身の発展だけでなくさまざまな技術の発展が総合的に関与しあい、指数関数的に上昇速度を上げていくというものだ。
たとえば1,000ドルあたりで計算機が1秒に計算できる量は指数関数的なカーブを描いて上昇しているし、それに対してトランジスタのHzあたりのコストは年々下がっている。毎年出荷されるコンピュータのビット数の総数やインターネットでやり取りされるデータ通信量、世界中のインターネットホストの数、DNA解析の100万塩基対あたりのコスト、スーパーコンピュータの処理能力、そして全世界の太陽光発電の累積発電容量などは、すべて指数関数的に増減している。