このように発病リスクを察知するのが難しい脳出血だが、発病の原因として圧倒的に多いのは高血圧で、全体の6割を占めるとされている。

高血圧の状態が長く続くと、常に血管に高い圧力が加わることになる。やがて血管に傷がつき、血管が硬くもろくなる。硬く、しなやかさを失った血管は小さなコブを作るようになり、そのコブが破裂したとき出血が起こると言われている。

また、拡張期血圧が90mmHgを超える症例では再発率が高いとの報告や、収縮期血圧10mmHg拡張期血圧5mmHgの低下で脳卒中発症の相対リスクが41%低下するとの報告があり、「脳出血の最大のリスクファクターは高血圧」という事実は揺るがないものになっている。

知っておきたい先天性の脳出血

一方で、このような生活環境に起因しない先天性タイプの脳出血も存在する。その代表例が脳動静脈奇形(AVM)だ。

「本来なら酸素や栄養は、動脈から毛細血管を通じて静脈に流れていきますが、この病気は毛細血管が欠落しており動脈と静脈が蛇のとぐろのようにからまっています。毛細血管を通らずにいきなり静脈に酸素などが運ばれるため、静脈に過度の圧がかかり、負荷が増します。それがあるとき破綻(はたん)して出血が起こるというわけです」。

高血圧由来の脳出血は高血圧と動脈硬化が起こる50代から増えてくるが、AVMによる脳出血は20~40代でも起こりうる。

同様にもやもや病も先天性の血管奇形に近く、若い世代での発病が多い。脳に栄養を送っている主要な太い血管が狭窄(きょうさく)・閉塞(へいそく)することでその先の血液の流れが悪くなり、その代役を果たすかのようにたばこの煙が立ち込めるかのごとく細長い血管ができることから、この病名がついた。この新しくできた血管が破れると脳出血となるが、成人後のもやもや病は脳出血につながりやすい。

そのほかに多い原因としては「脳アミロイド血管障害」と「抗凝固薬の使用」がある。

「アミロイドという異常たんぱくが血管に沈着すると血管がもろくなります。その物質が脳に沈着して破綻を起こすと脳出血を引き起こします。アミロイドはアルツハイマー型認知症の原因とされることからも、患者は高齢者が多いですね」。

また、脳梗塞予防のために抗凝固薬を内服している人は、ワーファリンなど出血性合併症を起こしやすい薬も一部あるため、注意が必要と福島医師は警鐘を鳴らす。

まずは血圧のコントロールを

運動麻痺や感覚障害など、日常生活に多大な影響を及ぼす症状が出る脳出血。病気の"サイン"もなく、ある日突然発症する可能性があるという事実は恐ろしいが、一方で、主要な原因が高血圧と判明している点はプラス材料と言える。塩分を控えるなど、食生活に配慮すれば発病のリスクは低減できるからだ。普段から血圧が高めの人は、十分に留意しておこう。

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記事監修: 福島崇夫(ふくしま たかお)

日本大学医学部・同大学院卒業、医学博士。日本脳神経外科学会専門医、日本癌治療学会認定医、日本脳卒中学会専門医、日本頭痛学会専門医、日本神経内視鏡学会技術認定医。大学卒業後、日本大学医学部附属板橋病院、社会保険横浜中央病院や厚生連相模原協同病院などに勤務。2014年より高島平中央総合病院の脳神経外科部長を務める。