モスの強みはぶれない姿勢

注文を受けてから商品を調理する「アフターオーダー方式」や、国内の協力農家で農薬や化学肥料に極力頼らない栽培方法で育てる「モスの生野菜」など、品質重視の取り組みがモスの特徴だ。コストと手間がかかっても品質を優先する同社の姿勢を千原氏は「愚直」と表現する。効率や価格ではマックに差をつけられ、結果的に売上高や店舗数といった面でも同社の独走を許しているモスだが、安易な価格競争に走らず、品質重視を貫いたことが、結果的に他社との差別化につながり、顧客からの評価に結び付いているという側面がありそうだ。

筋の通ったぶれないメニュー開発からもモスの独自性が感じられる。2016年4月、「アボカドチリバーガー」などの新商品発表会に登壇した同社商品本部長の太田恒有氏が、商品開発のポイントの1つとして挙げたのが「医食同源」というキーワード。ハンバーガーのパティを大豆でできたものに変更できる「ソイパティ」、バンズの代わりにレタスを使用した「菜摘」、そしてアボカドを用いた商品といったように、モスが提示してくる新商品群は、栄養バランスへの強いこだわりを感じさせるものばかりだ。

ソイパティのモス野菜バーガー(写真左)と菜摘(写真右)。定番バーガーをカスタマイズし、医食同源の考え方を落とし込んだ商品展開だ(以下、写真提供はモスフードサービス)

品質重視の姿勢こそ不変だが、顧客の嗜好が変わってきたとみれば定番メニューに手を加えることもいとわない。主力商品「モスバーガー」などに使用されているミートソースであっても、味は時代に合わせて変えている。モスフードサービス広報・IRグループの森野美奈子氏によれば、創業当時のレシピで作ったミートソースは今よりも塩気が強く、現代の顧客の好みにはマッチしない味なのだという。

定番のモスバーガー。おなじみのミートソースも時代に合わせて味が変化している

季節によって野菜の仕入先が変わるため、時期によっても味が微妙に変化するモスの商品群。味の変化は顧客を飽きさせず、リピーターをつなぎとめるという結果も生んでいると千原氏は語る。

グルメバーガー勢は競合相手にあらず

品質を重視する姿勢はグルメバーガー勢も前面に打ち出しているところ。ターゲット層がバッティングするモスバーガーと海外勢の間では、激しい顧客争いが起こっているものと想像していると、千原氏から聞くことができたのは意外な現状分析だった。

「(これから食事に行く人が)今日はモスにする?シェイクシャックにする?とは言わない」。千原氏はシェイクシャックら海外勢を非日常、モスを日常と分類したうえで、両者の間に激しい顧客の奪い合いは起こらないとの考え方を示した。店舗数、利用シーン、利用者の属性など、両者の間には様々な違いがあるため、顧客を食い合うような自体は起こりにくいのだという。品質重視は一緒でも、「モスは日常のなかの高品質を目指す」(千原氏)というのが同社の基本姿勢だ。